新人教育
「おはよー」
「おはようございます。イケルさん。今日から一週間、あの子達をお願いしますね」
「へいへい。それが俺の仕事ですからね」
ここは冒険者ギルド。
まあ、本部ではなく支部だが。
俺はここで働くギルド職員。教育担当。
俺の、主な仕事は新人教育と問題を起こした奴らを、お説教するぐらいだ。
面倒な書類仕事は無いし、昼はギルド(2階は食堂)に来ればタダで飯も食わせてくれる。
何より、新人もいなくて、尚且つお説教をしなくてもいい日は一日中自由!
それが、俺の職業。ギルド職員(教育担当)だ!
どうだ!羨ましいだろう!
ただ、残念ながら今日から一週間、仕事がある。
新人教育だ。
これから準備して、まずは顔合わせ。
そのまま、ガキどもの子守りって訳だ。
まあ、初日はちょこっと座学をやって、個々の能力を計測するぐらいのものだ。
と、まあそうこうしてるうちに準備も終えたし、集合場所に向かいますか。
「「「「おはようございます!」」」」
今回は4人、まだほんの15歳のお子ちゃまだ。まあ、この国では18歳で成人とされるからお子ちゃまというほどガキでは無いが、俺の人生の半分も生きてないから、やはりお子ちゃまだろう。
「おはよーさん。んー。元気があって実に結構。俺は、冒険者ギルド、オリバー支部の教育担当のイケルだ。これから一週間、よろしくな。では、右から順に、君達にも自己紹介をしてもらおうか」
俺から見て左側の、子どもにしてはそこそこがっしりした身体、ツンツン頭のショートヘアー。背中には自分の身長と同じぐらいの大きさの大剣を背負い、いかにも戦士です!って感じの快活そうな彼をを見ながらそう告げる。
「はい!俺はロベルトといいます!将来の夢はS級冒険者に成ることです!」
「おー。S級に成るのが夢か。目標は大きい方が良いからな!頑張れよー。では、次」
S級冒険者...大陸にわずか6人しかいない、もはや伝説級の冒険者達だ。確かに目標は大きい方が良いが...。
まあ、応援はしてやろう。
「レベッカです。よろしくお願いします」
「レベッカだね。よろしく。君は、支援魔法が得意なのかな?」
「...っ...はい。なぜそれを?」
「ん?まあ、長年の勘ってやつだな!はっはっは!では、次」
まあ、勘といえば勘だろう。カマをかけたといった方が正解に近いかもしれない。
このすこしウェーブがかかったブロンドヘアーの少女は、魔法使いタイプが好んで使用する長杖を持っており、自分は前に出たくないです。といわんばかりの最低限の自己紹介。
と、なると自ずとサポートタイプのウィザードか付与師かな?と成るわけだ。
まあ、エンチャンターなんてのは前者の上位互換に近い存在だから、支援魔法が得意なのかな?となった訳だ。
「フィリップスです。得意武器は弓です」
「小さい頃から狩りをしてたのかい?」
「はい」
目を隠すほど長く延びた前髪が特徴的で、この年代の男の子にしては少し小柄だが身軽そうな彼の腰の後ろ側に、中々に使い込まれた小弓、肩口には矢筒があった。
「なるほど、なるほど。では、最後だね」
「はい。私の名はエリシア。エリシア・ファン・ビクトリアです」
「ファン!そうか、そうか貴族のご令嬢だったんだね。どうりで、凛とした佇まいだったわけだ」
「お誉めに預かり光栄です」
最後の少女はお貴族サマだった。
オールバックにし、後ろの髪も纏めて結う形の髪型。腰には細剣。礼装に近しいパンツスタイルの服を着こなし、目鼻立ちは整い、成人になる頃には麗しき淑女と成っていることだろう。
是非とも、もう5年後に俺が10歳若い状態で出会いたかったね。
「さて、諸君らは晴れて冒険者と成ったわけだ!だが、まだスタートラインにすら立てていない。何故だかわかるか?レベッカ」
「クエストを達成感してないからですか?」
「んー。それだと半分正解だな。ではもう半分は?ロベルト」
「一人前と言われるCランク冒険者に成ったらですか?」
うん。まあ、ある意味予想通りな答えが帰ってきた。
「それは、もうスタートラインどころか道半ばまで通り過ぎてしまったな。フィリップス」
「うーん...わかりません...」
「エリシアはどうだ?」
「...礼...でしょうか?」
お貴族サマっぽいちょっと難しそうな答えが帰ってきた。
「うん。まあ、そうだな。遠い異国の地に、『礼をもって礼を尽くす』という言葉があるが、エリシアはこれを云いたかったのだろう?
「...ええ。その通りです」
「流石だな。これは簡単に言えば規則だ。マナーと置き換えることも出来るだろう。」
礼をもって礼を尽くす。確か、相手が嬉しいことをしてくれたら、お返しにこちらも嬉しいことをしましょう。みたいな教えだったような気がする...。
「ルール...マナー...?」
「社会のルールを守るのは当然。そこに、冒険者のルールが加わる。例えば、クエストボード前には長くても10分間しか居てはいけない。とかな」
「それはなぜですか?」
「良い質問だフィリップス。冒険者達はクエストボードから依頼書を剥がし、受付へ持っていき、受領されたらクエスト開始。と成るわけだが、クエストボードの前にずーーーーと居続けるやつがいたら...ロベルト、どうする?」
「怒るに決まってるじゃないですか!その人がいるせいで、他の人たちがクエストを受けれないんですよね!?」
うん。ロベルトは非常に扱いやすくて良いな。
「その通り。どこのギルドでも一階は受付と換金所とクエストボードがり、2階は食堂と成っている。もし考えが纏まらないなら一度パーティメンバーと2階の食堂や宿で話し合ってから、再度クエストボードへ...という事をしないと、職員から怒られる。俺ら、職員ならいいが...気が短い、屈強な上級冒険者だったりしたら...。とまあ、こんな感じで色々と冒険者という自由職にも、決められたルールがある。それを守り、クエストをこなせる人物を冒険者と呼ぶ訳だ!」
まあ、これを守らない奴らも当然居るわけだが...そういう奴らをお説教するのも仕事な訳で...このお子ちゃま達はそうならない事を祈ろう。
「それと、暗黙のルールというものがある。これは、正式にギルドが出しているものではなく、冒険者同士で問題を起こさない為に勝手に出来上がったものだ」
「勝手に...ですか?」
「そうだ。エリシア。勝手に...だ。君達にもルーティーンみたいなものはあるだろう?例えば靴を履くのは右足からとか。そうやって、いつの間にか、勝手に出来上がった冒険者内の暗黙のルール。その一つが言葉遣いだ」
エリシアはともかくとして、平民出のロベルト、レベッカ、フィリップスの3人までもが敬語を使っている。
逆にエリシアは、他の3人に合わせている感じだが。
「言葉遣いですか?どこか変でしょうか?」
珍しくレベッカから質問が飛んできた。
「そうだ。レベッカ、なぜ俺に対して敬語で話している?」
「大人の人だから」
「そうだな。それはとても良いことだ。君達の親がきちんと育ててくれた証拠だ。誇って良いぞ!」
「えへへ」
「しかし、冒険者同士の会話では敬語は出来るだけ使わない方が良い。なぜかわかる者はいるか?」
「「「「.........」」」」
お互いがお互いの顔を覗き、全員の頭に???が飛んでいる事を確認して4人は俺の顔を観る。
「答えは、対等に接する為だ。さっきの、礼をもってーーってやつと似ている。お互い冒険者。ランクの差はあれど、それは先に始めたか、後から始めたかに過ぎない。例えば15歳の君達は、当然一番したのFランクからのスタートだが、30歳で冒険者になった者でもFランクからのスタートだ。つまり、冒険者同士ではお互いを尊重することから、普通の言葉で話すんだ。もちろん、自分が本当に敬う存在や、師匠であったりとか...色々例外はあるがな」
割りと長めの説明になったが、4人ともしっかりと俺の話を聞いてくれていたようだ。
あ、エリシアさんや、別にメモをとる程の事でもないよ...ってか、手帳なんて高級品をサラッと出してメモをとってる事に驚きだわ...。
「なるほど...勉強になります!」
「はい。ロベルト。まだ敬語ー」
「あ...」
「あはは。でもイケル先生は職員であって冒険者では無いので、暗黙のルールには当てはまらないのではないですか?」
「フィリップスも敬語ー。あれ?俺言ってなかったっけ?ギルド職員ではあるが、冒険者でもあるんだ。てか...先生?」
そう。俺はギルド職員(教育担当)でありながら、Cランクの冒険者でもある。
「僕らの教育をしてくれるなら先生が妥当かな?と...」
「まあ、呼び方は何でも良いぞ。当然、イケルと呼び捨てにしてくれても構わないし、さん付けでも良いし、あだ名を付けてくれても構わんが...先生かー。なんか呼ばれ慣れてなくてムズムズするな」
基本的に冒険者というのは粗暴な奴が多い。
弟子なんかも居らず、そんな中で生きてきた俺にとって『先生』というのは何だか気恥ずかしいというか何というか...。
「では、私は...イケル。と呼ばせて頂きます」
「ん。良いぞ。でも、言葉遣いは変えないのか?エリシア」
「ええ。これがスタンダードですので、どうしても変えなくてはいけないのであれば、努力致しますが...」
「いや、そこまでしなくて良い。他の3人はどうする?」
流石はお貴族サマ。~わ。ではないが、敬語が普通とは...。やっぱり教養が違うな。
「俺は、イケルさんって呼ばせてもらうよ!」
「僕は、やっぱりイケル先生と呼ぶ。...ます...」
「じゃあ、私はイーさんと」
「フィリップスは要練習だな。では、俺の呼び方も決まったところで、ルールの勉強は一旦置いといて、実践訓練と行こうか!」
実践訓練。まあ、呼んで字の如くだな。
場所、時間、方法...。やり方を変えれば結果も変わる。
それを学んでもらう為のもの。
「いよ!待ってました!で?で?イケルさん!実践訓練って何するの!?」
「んー?そうだなー。今日は初日はということで...。鬼ごっこをしよう」
「「「「......は??」」」」
さっそく、誤字と文法的に読みにくい部分が見つかったので修正しましたm(_ _)m