始末
前回とは執筆スピードが雲泥の差だった。
戦闘シーンもこのくらいさっさと書けるといいんだけど。
「ウオオオオオオオン」
「ウオオオオオオオオオン」
夜の森に狼の遠吠えがこだまする。声は前から聞こえてくるようにも聞こえるし、後ろからのようにも聞こえるね。実際、どっちにもウルフがいるんじゃないかな。
ただ、姿は見えない。声もある程度離れたところから聞こえてくるような感じだし、クロちゃんも近くにはいないって感じの反応をしてる。
正直、ものすごく鬱陶しいけど、どうしようもないかな。自分の間抜けさにイラッとするけど、それは今に始まったことじゃないしね。
いや、でもね。もうホントにプンスカなんだよね。言ってもしょうがないって分かってても、さっきのわたしをグーでなぐってやりたいこの感じ。まったく!
5分前
《只今の戦闘でプレイヤーのレベルが上がりました》
《これまでの行動より、【魔力感知】のスキルを得ました》
《これまでの行動より、【魔力操作】のスキルを得ました》
《これまでの行動より、【ジャイアントキラー】の称号を得ました》
《これまでの行動より、【月夜の覇者】の称号を得ました》
《規定のレベルに達しました。上位職への転職が可能です》
《只今の戦闘で従魔のレベルが上がりました》
《従魔が規定のレベルに達しました。進化が可能です》
アナウンスが聞こえて体を起こす。口の中のボス犬の肉片を飲み込んであたりを見渡すと、動くものは何もいなかった。ボス犬も赤クマも、自身の血溜まりの中に沈んでいるね。
あの時、ボス犬を地面に叩きつけざま、その勢いも利用して全力で喉笛を噛み切った。赤クマが予め爪で傷をつけておいてくれてたから、わたしの力でもなんとか噛み切れたね。燃えてたから傷の位置も分かりやすかったよ。
それでも、息絶えるまで少し時間がかかったし、その間、わたしの体力が闇に飲まれて0になりそうだったけど、ギリギリわたしが生き残ったね。
いやー、勝った勝った。もう敵はいないし、わたしの完全勝利だね!やったー!
………ん?なんで?動くものがいない?なんで敵がもういないの?まだウルフは残ってたよね?
「ウオオオオオオオオオン」
あ、ああああああああ!ウルフの遠吠えが聞こえる!やっぱり逃げられてる!
くっ、さっきアナウンスが流れたってことは、もう近くにはいないってことだから、わたしが赤クマやボス犬と遊んでる間に、ボス犬が逃がしたね。そうとしか考えられないもんね。
そう言えば、最初に赤クマに3体突撃したあと、ボス犬以外のウルフをまったく見なかったね。む〜!あの2体に集中しすぎて、他のウルフを完全に意識の外に追いやってたよ。勝負の邪魔をされないことはいいことだしね。
ぐぐぐぐぐ……ボス犬にまんまと一杯食わされたー!うわーん!
そのまま、しばらく地団駄踏んだり悔しがってたら、胸ポッケのクロちゃんが眼を覚ました。ポッケから顔を出して、あたりをキョロキョロって見渡してる。ある程度状況を把握したところで、
「にゃっ」
そうひと声あげると、ポッケから器用に這い出て、ボス犬の死体へと駆け出していく。まあ、クロちゃんからしてみれば、今この場はお宝の山だろうからね。スプラッターな現場をきれいにしてもらおうかな。
クロちゃんがあたりをきれいにしている間に、わたしは、折れた剣を2本とも拾って、さっきまでボス犬と赤クマの死体があった場所へと突き刺した。クロちゃん仕事早いなー。死体は残らないから、この剣が、今宵、彼らがここにいた証になる。あれ?彼だよね?彼女じゃないよね?どっちでもいいか。そのまま、しばらく手を合わせて頭を垂れる。
「にゃー♪」
その後、下級ポーションを飲んで体力を回復させてると、クロちゃんが戻ってきた。相変わらず満足そう。うへへへ、可愛い。そう言えば、さっきアナウンスで転職やクロちゃんが進化とかどうとか言ってたね。ステータスを確認したほうがいいかな。そうなると
「クロちゃん。あたりの警戒をお願いね。」
「にゃー!」
よし。これで、いきなり奇襲されることもないよね。さーて、どうなったかなー。
プレイヤーネーム:アヤ 種族:ヒューマーLv10(4UP) ジョブ:見習い従魔士Lv10(4UP)◎ 状態:呪い
HP:11/24(1UP) MP:2/24(1UP)
STR:8(1UP) VIT:8(1UP) INT:8(1UP) MND:8(1UP) DEX:8(1UP) AGI:8(1UP) LUK:13
スキルポイント:28(18UP)
スキル:従魔法Lv5(1UP) 使役Lv4(1UP) 杖Lv3(1UP) 料理Lv1 錬金Lv1 調合Lv1 剣Lv6(2UP) 体術Lv6(3UP) 火魔法Lv4(2UP) 水魔法Lv1 土魔法Lv1 風魔法Lv3(2UP) 光魔法Lv1 闇魔法Lv1 幸運Lv4(2UP) 気配察知Lv3(2UP) 魔力感知Lv1(New) 魔力操作Lv1(New)
称号:ウルフキラー・ジャイアントキラー(New)・月夜の覇者(New)
空腹度:87%
あわわわわ、(New)の文字がいっぱいでよく分かんない。よ、よーし、こういう時は1個ずつ確認していくのがいいよね。
まず、ジョブの欄にある◎については、たぶん、上位職に転職できるよって印なのかな。たぶん。うーむ、街に帰ってから、知ってそうな人を探さないとね。よし、次!
状態が呪いってなにこれ。うーん?ボス犬の闇と赤クマの炎のことなのかな?どっちも戦いが終わったら消えたけど。じゃなかったらわたし死んでるし。うーん?次!
えーっと、身体ステータスは特に問題ないかな。下級ポーション使って11のHPは見なかったことにしよう。うん。次!
スキルポイントは、明らかにおかしいね。1レベルアップで2ポイント貯まるはずだから、10ポイント多いね。なんでだろう?うーん?これも街で聞いてみようっと。次!
スキルは、この戦いで使った剣と体術が順調に上がってるね。そのうち、アーツも試さないとね。どこか練習できそうなところがあるかな。さっきみたいな切羽詰まった場面でもない限り、あんまりぶっつけ本番はしたくないんだよね。
従魔法と使役は、相変わらずなんでか知らないけど上がってるね。まあいいや。それよりも、従魔法は5の倍数のレベルになると、新たにもう1体テイムできるってチュートリアルで天使のおねえさんが言ってたね!何をテイムしようかな〜♪……ハッ、今は確認が先だね!
おニューの魔力感知と魔力操作のスキルは、たしか《これまでの行動より〜》ってアナウンスがあったから、さっきの戦いでそれっぽいことしてたってことだよね。
魔力感知は、まあ分かるね。ボス犬の魔法を躱すために、なんとなく分かるようになったやつのことだよね。
ただ、魔力操作については、あんまりわかんないかな。普通に魔法使ってただけだし。これも聞けば分かるかなー。どうかなー。まあいいや。次!
称号は、【ジャイアントキラー】と【月夜の覇者】の一気に2つだね。うーむ。言葉の意味は何となく分かるけど、この称号獲得に何の意味があるのかは、さっぱりわかんないね。次!
空腹度は、かなりヤバそう!携帯食は超マズイけど、贅沢言ってらんないね。もぐもぐ。100%になったらどうなるのか誰か知ってるかな。もぐもぐ。ぐえー。
アイテムは、なんかボックスの中が知らないアイテムでいっぱい。クロちゃん頑張ったんだね。流石に数が多いし、街に帰ってから、どんな効果のアイテムがあるのか確認しようかな。
さてと、わたしについてはこんなもんかな。うむ、見事に何もわかんないね!えーっと、クロちゃんはどうかなーっと。
ネーム:クローディア 種族:リトルキャット☆Lv12(4UP)◎ 親:アヤ
HP:12/16(1UP) MP:2/28(1UP)
STR:3(1UP) VIT:3(1UP) INT:8(1UP) MND:5(1UP) DEX:7 AGI:7 LUK:26(6UP)
スキル:解体 採取 気配察知 闇魔法 気配遮断 魔力感知(New) 夜目 少食 幸運EX
あ、クロちゃんにも◎がある。これが進化可能ってやつなのかな。どうやって進化するのか知らないけどね!わかんないことは後回しにして、ステータスの確認しようかな。
身体ステータスは、LUKの伸びがスゴイね。ポイントの半分がLUKに行ってるからね。それにしても、やっぱりレベルアップでもらえるポイント多いね。1レベルで3ポイントもらえるって。ポイントの総量ならもうすぐ抜かされそう。
スキルは、わたしとおんなじで魔力感知が加わってるね。もう何に襲われても逃げ切れそう。
そういえば、クロちゃん【少食】ってスキルがあるけど、お腹空かないのかな。たしか従魔用の携帯食があったはず。
「クロちゃーん。おいでー」
「にゃー」
あたりの警戒をしてもらってたクロちゃんを呼び戻して、携帯食をあげてみる。すると、ものすごーく嫌そうな顔をして食べ始めた。あー、やっぱり美味しくないんだね。それでも食べるってことは、それだけお腹すいてたのかな。
よーし、クロちゃんが食べ終わったら、街に帰ろっかな。ウルフが襲いかかってくる気配が一向にないし。来るなら、そこからまた追えるかなって思ったけど、来ないなら仕方ないね。さーて、クロちゃんはまたポッケにインかな?
あ、そういえば、さっき赤クマに服を裂かれたんだったね。傷口燃えてたけど、服は大丈夫かな。クロちゃんがぐっすりだったから大丈夫だとは思うけど。えーっと、どうかな。
ゴソゴソと一度服を脱いで、どんな具合かを確認。今日が満月で良かったね。月が出てなかったら絶対分かんなかったよ。
うーん、一応まだ服と呼べなくもないけど、もう買い替えたほうがいいね。きれいに斜めに一本線が走ってるもんね。
はあ、武器も買わないといけないし、お金大丈夫かな。アイテムが売れるのかなこれ。うーむ。
あとは、わたしの傷の具合だけど、痕が残ったりしてないよね?……え!?なにこれ!傷はないけど、筆で引いたみたいな朱い線が体についてる!もしかして、顔も赤クマがボス犬にやられたときみたいに、黒い線が走ってるのかな。うーむ、鏡がないからわかんないね。
両手で顔をペタペタ触ってみるけど、特に傷跡がある感覚とかはないかな。その割には、まだ左目が見えないまんまなんだけど………ん?あれ、触ってみると左目あるね。触ってもわかんないから感覚はないけど。
その後、なんか見えるようになったりしないかなーと、左目に意識を集中させてみたけど、特になんかあるわけでもなく、結局見えないまんまだったね。まあ、片目で何か不便があるわけでもないんだけど。慣れてるし。
よし!クロちゃんも食べ終わって戻ってきたし、帰ろっかな!街がどっちかわかんないけど!
えーっと、わたしは南の門から出てきたから、北へ行けば街につけるね!そろそろ月も傾いてて多分西にあるから、きっとこっちだね!うおー!
5分後
「うわーん。迷った〜」
「にゃー……」
森の中では、あまり月が見えないことを忘れてたね。さっきは、たまたま開けた場所だったから良かったけど、今は上が枝で塞がれて、空がさっぱり見えないね。とりあえず歩いているけど、街まで帰れるかな。
ウルフの声はだいぶ遠くなったし、クロちゃんとわたしの気配察知にも何もかからないから、近くにモンスターはいないみたい。それが唯一の救いだね。
「にゃっ!」
おっと。言ったそばからなにか来たみたい。方向は、真正面だね。距離はまだあるけど、慎重に行こうかな。
クロちゃんが捉えたナニカは、まっすぐとこちらへ近づいてくるね。こっちに気がついているのかな。ただ、結構近づいてきているのに、まだ姿が見えないね。そこまで大きくない相手なのかな?
目の前の茂みがガサガサと揺れ動いて、ついに相手が正体を表した。あれ、なんかデジャヴ。
手足ともに短い、真っ白な躰。ピンと上に伸ばされ、あたりを探る長い耳。しきりにキョロキョロと周りを見渡す、赫い瞳。そして、敵を必ず突き崩すという強い意志を感じる、額から生えた一本角。間違いなく、わたしの印堂に大ダメージを与えたあのウサギさんだね。
ふっふっふ。ここで会ったが百年目。今こそ、あのときの借りを返すもんね!と、思ってたんだけど………
「キュウ」
あ、ウサギさんがへたり込んじゃった。どうやら、わたしたちには気づいていないみたいだね。じっとして音は出さないようにしてたし、このウサギさん眼は良くないみたいだからね。
それにしても、ウサギさんかわいい。うへへ。ハッ、いやいや、あのときも、そうやって油断してやられちゃったからね。おんなじミスはしないもんね。うーん、でも、かわいい。うへへへ。
ん?まてよ、そう言えば、このウサギさん夕方は草原にいたよね。ということは、この森から草原への行き方を知ってるかも。そこまで案内させて、仕返しはその後でもいいんじゃないかな。MPも1回分くらいはあるね。よーし、そうと決まれば、
「【テイム】!」
ウサギさんを、白い光が包む。先手必勝だもんね!これで、この子も、クロちゃんと同じわたしの従魔だね!
《モンスターのテイムに成功しました。名前をつけてください》
光が収まると、そうアナウンスが流れた。あれ?成功しましたってことは、失敗もありえたってことなのかな?あわわわわ、強そうな相手に失敗してたら、先手取られて魔法使えないから、超ピンチだね。まあ、今回は問題なかったと思うけど。
そんなことを考えてると、ウサギさんがわたしのすぐ近くまで来てた。うへへへへへ、やっぱりかわいい。名前どうしようかなー。
膝をついてウサギさんを抱えて、顔の高さまで持ち上げてみる。やっぱり、名前を聞いてすぐ、この子だなって思える名前がいいよね。よし!
「名前は、【ユニ】ちゃんだね!」
「キュウ!」
わたしがそう宣言すると、ウサギさん改めユニちゃんが、元気よく返事をした。かわいい。そして、わたしの前にユニちゃんのステータス画面が現れた。
ネーム:ユニ 種族:リトルラビット☆Lv2 親:アヤ
HP:10/12 MP:16/18
STR:2 VIT:2 INT:5 MND:3 DEX:5 AGI:5 LUK:12
スキル:採取 気配察知 光魔法 少食 音波探知 幸運 逃げ足 奇縁
あ、ユニちゃんにも種族に星が付いてる。クロちゃんにもあったけど、従魔だとつくのかな?身体ステータスは、クロちゃんと似た感じになりそうだね。LUKがスゴイ。
そして、スキルはまた見たことないやつがあるね。順番に確認しようかな。
まず、【音波探知】は何となく分かるね。耳が大きくて色々聞き取れるんだろうね。
次に、【逃げ足】は何なんだろうね。逃げるときだけ足が速くなったりするのかな?
最後の【奇縁】に至ってはさっぱりだね。なんか不思議な縁でも結んでくれるのかな。どうやってかはわかんないけど。
「にゃー♪」
「きゅう〜♪」
わたしがステータス確認をしている間に、クロちゃんとユニちゃんがじゃれ合ってた。わたしの膝の上で。わたしの膝の上で!ああああああ、超かわいい!うへへへへ。
草原まで案内してから仕返ししようと思ってたけど、赦そう。全てを。うへへへへ、かわいい。
よーし!ウルフの根切りができなかったのは残念だったけど、新しい仲間も増えたし、街に帰るぞー!凱旋じゃー!!
補足
クロちゃん:辺りのアイテムを根こそぎにした。初めての後輩に喜びが隠せない。早速先輩風を吹かせた。
ユニちゃん:アヤの近くに巣があって、ちょうど帰るところだった。新しい先輩は頼りになりそう。下僕はたまに気が利かないけど大目に見てやれって言われた。