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第九話 黒い意思

「ほら、手間賃だ」

「ありがとうございます」

 深夜、車掌に袋いっぱいの金貨を渡すと車掌は金貨を丁寧に数え始める。

 ここは列車の格納庫。多くの列車が翌日の朝に動くためしっかりと手入れされ、静かに眠る場所。逆に言えば、ここは深夜は人が一切こない場所と言うことになる。だからこそ、こう言った事がしやすいのだ。

「リューク、殆んどは入れ終えたニャ」

「ありがとな、クトゥミア」

「いいニャいいニャ。この程度ならお安いご用ニャ」

 森林に溶け込むためか緑と茶色の迷彩柄のケープを着たクトゥミアがやってくる。

 クトゥミアには捕らえられていた人たちの誘導を行って貰っていた。こいつの心剣はそう言った行為を得意としているからな、これくらい出来て当然と言えるだろう。

 俺がやると、何人か必ず駄々を捏ねる奴が出てくる。まあ、その後キチンと会いに行っているから問題ないけどな。

「ニャしても、あの場所の子達はかなり大人しかったニャね。リュークが言えば素直に聞いてくれたニゃね」

「まあ、丁寧に行っていたらからな。その賜物としか言えないだろう」

 俺が動けそうな人たちを連れてきて事情を説明したら全員俺の言うことを聞いてくれた。まあ会えると伝えてあるから基本的にすんなり行くことが多いけどね。

「それにしても……よくこんニャ場所を知れたニャね」

「何、侵入ルートの一つに過ぎなかっただけだ。こう言ったのはある程度パターンが決まっているからな」

 列車のレールの下にある石に埋もれるように作られた隠し扉を流し見しながらクトゥミアに説明する。

 犯罪組織、特に奴隷の売買を行う連中が隠し通路を作る場所や拠点は案外決まった場所に作られやすい。

 一つ目はは隠れやすい場所。これはスラムの屋敷や商会の倉庫が多い。

 二つ目は人目につきにくい場所。薄暗い下水道何かがそうだな。

 三つ目は大胆な場所。隠し通路は普通では考えられない場所に繋がっている事が多い。協力者の家のトイレに繋がっていた事もあった。

 最低でも人をメインに扱う場所のためかそこら辺の位置取りは優秀だ。普通の人々は勿論、兵士や騎士にも見抜くのは難しい。逆に言えば、それらを重点的に探していけば自然と見つけれる。

 列車の格納庫は大胆かつ移動のしやすさ等から多くの組織が使うため意外と見つけやすい。

「う~ん……それニャあ、死体の方はニャーが何とかしとくニャ」

「すまんな」

 腰に付けた液体の入った試験管をクトゥミアに渡し、クトゥミアは格納庫の隠し扉から地下に降りる。

 あの中には『教会』が作成した聖水が入っている。クトゥミアは元は墓守の一族出身で、自由に狩りをするために出奔した後でも墓に対してはキチンと儀式を行う。そう言った経緯から死体の扱いにおいては俺の知るなかでは一番のスペシャリストである。

「りゅ、リューク……さん……」

「どうかしたのか?」

 空の星空を見ていると簡単な服を着た最初に助けた少女が隣に座ってくる。

 おや、待てなかったのだろうか。まあ、事情を説明している時に何か話したかったぽいから構わないけど。

「私の名前は……シャウト。覚えてて……くれる?」

「忘れる事はないさ」

 不安そうな顔で自分の名前を告げる少女の頭を笑顔で撫でると、シャウトは嬉しそうに頬を染める。

 俺は名前を覚えるのが得意だからな。今まで助けた奴らの名前はしっかりと覚えている。

「リュークさん……私も、リュークさんみたいになれますか?」

「……実力ならどうとでもなる。だが、俺にはなるな」

 座って星を見る俺の手を触るシャウトの質問に、俺は静かな調子で答える。

「どうして……?」

「強さと言うのは自分で方向性を決めるものだ。俺がどうこう教えれるものではない。自分の強さを見つけれた奴こそが一番強いんだ」

 明確な答えを言うと首に手刀を軽く打ち気絶させると少女の体を抱き上げ、列車の中に入れる。

 シャウトは今はぶっきらぼうだが根っこは素直で優しい奴だ。だからこそ、正直に言って戦いには向いていない。だから、俺はあいつに自分の方向性を自分で決めさせる。

 まあ……俺と同じ道を歩まない事を切に願う。もし、辿れば……シャウトの精神は確実に壊れてしまう。常人が進んで良い道ではないのだ。

「数え終えました」

「おお、そうか」

 金額を数え終えたのを報告した車掌は列車に乗り込む。

 この列車の運行を行っている商会のトップは元奴隷で、身一つで小さな商会を立ち上げ、事業を失敗と成功を繰り返し、国内最大級の商会まで発展させた。そして、昔の自分と同じ境遇の奴隷たちの解放に秘密裏に援助してくれている。

 これもその一つで見た目は完全に貨物列車だが、中はキチンとした服やベッドの置かれた客席等の寝台列車となっている。

「それでは―――出発!」

 車掌が身を乗りだし笛を噴くと列車が動き始める。

 少女たちの終点は本来通り過ぎるだけの山間部にあるとある村。そこは奴隷の売買が合法だった時代、逃げ出した奴隷たちが主たちに見つからないように住んだ隠れ里である。

 奴隷が逃亡して隠れ里を作ることはよくあるため、そう言った隠れ里は隠れ里どうしで国を越えた繋がりがあり、先祖のように逃がされたりした奴隷たちを保護する活動を積極的に行っているのだ。

 彼女たちも最終的には立ち直れるようになってもらいたい。それでこそ、生きていると言えるだろう。

「あ、まだいたニャね」

 屋根の上に登り、星を見上げていたら戻ってきたクトゥミアが隣に寝転がる。

 向こうの埋葬は終えたようだな。そこまで時間をかけなかったのは簡易的な道具しか無かったからなのかな。

「これを、渡しとくニャ」

「……何だこれは」

「顧客名簿だニャ。……正直に言って、反吐が出るニャ」

 クトゥミアが渡してきた紙の束をパラパラと捲りながら怒りを沸々と煮えたぎってくる。

 有名貴族、王族、大規模な商会、他の犯罪組織……かなりの数がこのイカれた商売を行っていたようだな。後でキチンと潰しておかなければならないな。

「そう言えニャ、ニャーはカリバーン聖剣学園の試験を受けてたニャ」

「へぇ……お前もか。だが、大丈夫か?」

「ニャハハハハハ。白い目何て、小さい頃から味わってるニャ」

 そう言うと俺は起き上がり屋根から降りて隠し通路から帰路につく。

 明日は学園の合格発表だったな。……合格しているだろうが、なるべく目立つ順位になってない事を祈ろう。目立つのは俺の目的には合致しないからな。


「……何?奴隷の取引をしていた連中が一つ消えただと?」

「はっ……恐らくは心剣、その中でも『魔剣』のかと……」

「ちっ……穢らわしい者め……。儂のテリトリーに土足で踏み行った者を後悔させる。探しだし、見つけ次第―――殺せ」

「了解」

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