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第六話 黒縄

「な、なんだこりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ぎひぃぃぃぃぃぃいぃぃいひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「熱いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「……は?」

 床から伸びる燃え盛る縄の形をした黒い炎に縛られ燃やされる男たちの惨状にクソヤロウは呆然としてしまう。

 絶対的に有利な状況からたった一瞬で覆させれたのだ、無理もない。それも、今まで敗北を知らなかったのだからそのショックは大きいだろう。

 そもそも、クソヤロウは俺が始めから男の力が効いていなかった時点で諦めてさっさと去れば良かったのだ。

「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「……遅いよ」

 燃え盛る黒炎に拘束されながら俺に突っ込んでくる男に目を向けた瞬間、男の足元から幾つもの黒い縄が現れ拘束する。

 拘束された瞬間、火力が爆発的に膨れ上がり男は倒れ、すぐに動かなくなった。

「な、何でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?何で消えないんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 水色の心剣を持った男が自身に水をかけるが消火されず、逆に勢い良く燃え上がり絶叫と共に息絶える。

 へぇ……心剣の特性は【水】か。普通の炎なら消火できたかもしれないがこの炎には無意味どころか更に燃える嵌めになる。水を使うことは自殺行為としか言えない。

「し……ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 燃える連中の一人が地面に倒れながらも雄叫びと共に緋色の刃をした剣を向けてくる。

 向けた瞬間、火の光線が一直線で俺に向かって進んでくる。

「この程度の炎では……これを越える事は出来ない」

 光線が俺の体に当たる直前、黒い縄が俺の体に巻き付き炎を受け止める。

 俺の黒縄は自分の意思である程度操作できるし、燃やす対象を選ぶ事も出来る。そのため、炎を燃やして服や俺の体を燃やさないと言う芸当も可能にしている。

「うそ……だ……」

「嘘ではない」

 起死回生の一撃があまりにもあっさりと防がれ生を諦めたかのように床に頭を打ち付け動かなくなる。

【炎】の心剣か。まあ、激情に流されていたがそこまで火力が無かったな。まあ、火力があろうと無かろうと燃やされていたけど。

 ……炎を燃やすって矛盾している気がするな。ま、どうでも良いか。

「ば、バカな!?テメェは心剣を取り出してないぞ!?なのに何故こんな事ができる!?」

「心剣の現象、その大前提である『精神の事象干渉』を知らないとは言わせないぞ」

 我に返り、目をはち切れんばかりに見開いて怒鳴るクソヤロウに静かな足取りで近づいていく。

 心剣の特性と言うのは基本的にこの世界にある物や現象を生み出したり発生させる。言うなれば事象に干渉している。そして、精神によって特性が決まると言うことは精神の強さ、すなわち意思の強さによって特性の強弱が決まると言うことでもある。

 意思が弱ければどんなに強力な特性でも十全に使えず、意思が強ければどんなに弱い特性でも完全に使いこなせるのだ。

 また、意思の強さは特性に薪をくべる役割を担っている。

 激情に駈られた【炎】の特性を持つ心剣はその炎を何時も以上に発動させ、悲哀の気持ちに沈む【水】の特性を持つ心剣はより膨大な水量を操る事が出来る。

 意思の強さによって心剣の力、即ち事象に干渉する力がより強くなる。これが『精神の事象干渉』である。

 これは心剣を持つものならどこにでも干渉してくるもので、心剣を取り出していなくてもほんのごく僅かなら心剣の力を扱うことができるのだ。

 これが解明したことによって、心剣の制御技術がより向上する事となったため、戦前最大の発見とまで言われている程だ。

「ああ、知ってるとも!心剣使いにとって基礎中の基礎だからな。だが、それとこれが何の関係がある!?」

「単純な話だ。……何事にも例外があると言うことだ」

 足を進めながら幾つもの黒い縄を開けられた扉に伸ばしこの広間以外からの援軍を入れなくさせる。

 この『精神の事象干渉』によって常にほんの僅か事象に干渉して心剣の特性をこちらに漏れだしている。

 そして、これはとある問題を露呈させた。

 それは―――

何かしら(・・・・)の要因で(・・・・)意思が(・・・)異常に(・・・)強くなれば心剣(・・・・・・・)を使わずとも(・・・・・)特性を操れる(・・・・・・)と言うことだ(・・・・・・)

 心剣の特性の強弱は意思の強さによって変動すると言うことは意思が強ければ現実の干渉する力が強くなると言うこと。そして、それは心剣を出していなくても僅かに干渉している。

 それなら、薬や自己暗示で意思を強くすれば良いという実験が行われた。まあ、失敗した。人為的で出せるものでは限界があったのだ。

 だが、成果もあった。人為的ではなく本人の意思が普通の状況であり得ない状態―――例えば【水】の心剣使いが長年付き添ったパートナーが突然死んでしまった時―――には取り出していない心剣の特性が心剣の使用時と遜色ない程現実に干渉したのだ。

 そう、特定の条件を満たせば心剣を取り出してなくても心剣の力を行使することができるのだ。

「お前の心剣は直接的な力を持っている訳ではない。だからこそ、本質を忘れていた」

「く、来るな!来るなぁ!!」

 腰を抜かし黒い炎に熱せられた床を這う男を見ながら剣を振り上げる。

「お前ら!私を助け」

「五月蝿い!!」

「ぐえっ!?」

 女たちに助けを求めようとしたところで女の一人が剣をクソヤロウの(・・・・・・)体に突き刺す(・・・・・・)

 始まったか。洗脳をされていた人が元に戻れば真っ先に自身を洗脳していた人間に怒りを表すのが当然と言えるだろう。

「よくもお父様を!」

「よくもこんな恥ずかしい格好をさせたわね!」

「どれだけの人間を殺させたの!」

「あの時の惨めさを思い知りなさい!」

「や、やめ、やべぇでぐれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 女たちの怒りが剣やナイフに代わり、クソヤロウの体を突き刺していく。

 地面に這いつくばる男の涙と絶叫は誰にも聞き入られる事はなかった。

【洗脳】と言う特性を解除するのは幾つか手段がある。使用した心剣の所有者を殺すのもその一つだが……それ以上に効率的なのがある。

 それは恐怖(・・)。死を容易に想像できる程の恐怖を与えればあっさりと解除できる。

(最も、これは【洗脳】にしか使えない方法だけどな)

 上位互換の【支配】は一種のカリスマとそう大差ない。そのため、【洗脳】のように偽りの心酔ではなく心の底から心酔するため恐怖で解くことは出来ない。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「やっと……これで……」

「死ぬことが……」

「あ、おい!?」

 クソヤロウを殺し終えた後の女たちが剣の切っ先を自分に向けたところで俺は慌てて走り出し手を伸ばす。

 だが、遅かった。

「「「がっ!?」」」

 女たちは自らの腹や胸、喉に持っていた剣やナイフを突き立て傷口から血を吹き出しながら倒れていく。

「おい、大丈夫か!?」

「……あ、り……がと……」

 何とか即死を免れた女をを抱き寄せると涙を流しながら儚い笑顔で感謝の言葉を口にしながら力を失う。

 ……そうだよな。あいつらはクソヤロウの話が正しければ良いところのお嬢様だもんな。そんなやつが自分の意思ではないとは言え、人を何人も殺すのは……正気を保ってはいられない。自己嫌悪によって死を選んでも可笑しくない。

「……解除」

 全員の死を見届け、涙を拭った後うつむきながら立ち上がり右手を真横に振ると黒い炎は鎮火する。

 こんな俺にありがとうだ何て言うものではないのに……。後できちんとした場所に眠らせるから、今だけ待っててくれ。俺の目的を済ませてくる。

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