第二話 試験開始前
「試験会場はEエリアです」
「ありがとうございます」
試験の受付で『E』と書かれたカードを貰うと裏に書かれた地図を頼りに学園内を歩いていく。
学園は都市に面しているにも関わらず広大な敷地を保有している。学園の中に森があるのだから、それだけで十分凄いことがよく分かる。
「あんたもEエリアの人間か?」
「ん……?そうだが……」
歩いていると背後から赤い髪をツンツンに立て背中に大きなバスターソードを担いだ青年が笑顔で話しかけてくる。
悪い奴では無さそうだし、同じ試験を受ける身としてその対応に問題が無いようにしないといけない。
「俺はロベルト。田舎の剣術道場出身だ。あんたは?」
「リュークだ。剣術は……完全な我流だ」
「おいおい、マジかよ」
肩に腕を回して挨拶してくるロベルトに挨拶すると複雑そうな顔をする。
そんなに我流が珍しいのだろうか。
「我流であの試験前のあれを合格したのか」
「まあ、そうなるな」
この試験は前試験と本試験と呼ばれる試験に分かれていて、前試験で一定の水準を越えなければ本試験に行くことも出来ず、本試験で百人の中に入らなくては入学することが出来ない。
この二重の試験と本試験のレベルの難しさ入学前の完全なふるい落としであり、これがあるため聖剣学園は常に高いレベルを保つ事が出来ているのだ。
「ある意味才能なのか……」
「まあ、そうだな」
「そう言えば、リュークは何でここに入るんだ?」
「収入が良いから」
この聖剣学園は入学後も常にふるい落としが行われ、毎年多くの人たちが自主退学していく。結果的に学年で卒業できるのは多い時で五十名前後、少ない時で十名を切ることもある。
だが、その中で卒業できた者たちは政府の役人から軍部の重役まで、多くの進路を選ぶことができる。田舎で苦労するのも悪くないし農作業は大好きだけど、夢はビッグに持ちたいからな。
(まあ、これらは全部表の理由だけどな)
「何だ、俺と同じじゃねぇか。俺は外交に関連する部署に配属して世界中を飛び回りたい」
「へぇ……良い夢じゃ」
「そして、世界中の女とキャッキャウフフのハーレムを作る!!」
「前言撤回。ふざけんなくそったれ」
ロベルトの欲望だだ漏れの夢についノリでツッコミを入れる。
多くの国で一夫多妻性が採用されているし、ロベルトは元は精悍な顔立ちをしている。やろうと思えば出来てしまう。
ロベルトのその軟派な性格はアウトだと思う。スキャンダルまっしぐらとしか言えない。
俺?俺は基本的に硬派だから問題なし。
「えー?いーじゃんハーレム。男の夢だろー?」
「そこまでの甲斐性が無いから無理。てか、全ての女性を養えるのか?」
「そこは、頑張る!」
やれやれ……だが、そんな不純な動機を原動力に本試験に進む事が出来るのだから才能は本物なのかもしれない。
「そこ!そろそろ試験の時間ですよ!」
「おっとヤバい。速く行こうぜ」
「ああ」
試験官に怒られ俺らは一目散に試験会場に滑り込む。
ギリギリセーフ。まさか試験をする前に落ちる何て洒落にならないからな。
「それでは、試験内容を発表します。試験内容は試験官と受験者の一対多の模擬戦闘。武器は各自が持ってきた物を使い、受験者は心剣の使用は禁止。また、殺人は厳禁です」
闘技場のような場所で三十人前後の受験者に響くように試験官が声を張り説明する。
説明通りなら、かなりシンプルな内容だ。試験官と闘うだけの試験。そして受験者の人数は三十人前後、試験には必ず合格出来たと思っている人たちが安心した空気を醸し出す。
確かに、そうだろう。一対多何てこっちが有利過ぎるし、見た感じ貴族がちらほらと混じっている。貴族たちは幼い時から指導者に恵まれているせいで特に安心しきっている。
(この試験内容、一見するとあまりにも俺らに有利だと思ってしまうが……それは相手の実力が拮抗している時か劣っている時だけだ)
実力が自分達よりも遥かに格上だった場合、確実に蹂躙される。それに、この試験内容は恐らく……
「(おい、ヤバいぞこの試験)」
「(ああ……相手が勝てると言う絶対の自信があるとしか見えない)」
「(そうじゃねぇ。この試験内容に制限時間が言われてないんだ!!)」
ロベルトと小声でこの試験の最大の穴を突いてくる。
そう、この試験内容には制限時間が言われてない。つまり、試験終了は試験官の匙加減となっている。数分で終わることあれば数時間経っても終わる事がないかもしれない。
そして、多くの奴らが安心しきった空気に呑み込まれ、この試験内容の穴に気づいてない。
(ここまでが試験官の思惑の内か……!)
戦闘中、安心すると言うのは自殺行為に他ならない。基本中の基本過ぎて多くの人が見落としている欠点を的確に突いてきたのか……!
「それでは、試験官は入ってきて下さい」
対面の入り口から白い靄が発生したかと思うとその中から一人の男が出てくる。
筋肉隆々、巨体に見合う剣を持ち、革鎧を着こんだ古傷がついた色黒の肌がスキンヘッドと合間って黒光りしている。
おいおい、かなりの実力者を出して来やがったよ。あの男は、絶対に強い。
「えー、俺はグレイだ。説明は面倒だしさっさと始めるか」
((マジかよ))
名を名乗った男、グレイは肩に担いだ剣を地面に突き刺す。突き刺した瞬間、微かに砂埃が舞うのを俺とロベルトは見逃さず、心の中で同じ事を考えながら抜剣する。
あの剣……どれだけ重量があるんだよ。そして、それを意図も容易く扱える肉体。成る程、試験官としての実力は保有しているか。
「それでは……始め!!」