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序章 儚く散る

 世界は改変した。


 龍が降り、天災の如く人々が死んだ。

 その世界の人口の五割が死に誘われ、ある人は龍へと懇願した。


――我の血を取り込み、我を倒せ。さすれば、命は助けてやろう。


 その声にすがり、その人は龍の差し出されるまま血を飲んだという。


 これが、私――アリューシャ・ソエティの祖先だという。


 自分の手を見下ろして、力を込めた。爪が伸び、鱗が纏わりつく。一振りすると、目前の岩が砕かれた。

「ば、化け物……ッ!」 

 目前にいた盗賊然とした人間たちが怯え、震え、尻もちをつく。


 そっちから襲ってきたくせに、化け物呼ばわりとは何事か。まぁいつものことと、深くため息を吐いた。


「あの、返してください。私、その荷物がないと困るんです」

「か、返します! 返しますから、命だけはお助けを!」


 素っ頓狂な声を上げて、盗賊たちは逃げ出していく。人の荷物を地面に放り投げて。

 まったくもって無礼な人たちだ。一発叩きのめしたい気分になったが、私が叩けば彼らは簡単に死ぬ。


 なんて不自由な体に生まれてしまったのだろうか。運命というものを呪わずにはいられない。


 グチグチ言っていても仕方がないと、捨てられた荷物を拾ってから懐中時計で時間を確認した。


「……やばい」


 時間を取られ過ぎた。このままでは学校に遅刻してしまう。


 背に腹は代えられないと、私は天高く舞い上がった。背中に生えるのは、龍の翼。我が一族は龍の呪いを受けてから、体を龍に変えられる。その力は人間たちに畏怖の念を植え付けた。

 だからか、一族は森の奥深くに細々と暮らしている。無駄に争い、無駄に怯えさせないために。そんな窮屈な暮らしが嫌だと飛び出したのは一年前だった。


 普通の人間の暮らしを勉強して、普通の人間として暮らす。一年かかったが、やっと人間たちの通う魔法学校に入学することができた。私が龍族だというのは、学校の一部の先生しか知らない。

 

 慎重に暮らしてきたというのに、今日は本当に災難だ。やはり、人間として暮らすにはもっと力の制御を覚えなければならない。あの盗賊たち――は、世間のはみ出し者。彼らがいくら騒いだところで、信じるものなどいないだろう。


 さて、天高く飛び上がった私は一直線に学校に向かう。地上からは距離があるし、見られてもまさか人間が空を飛んでいるとは思えないだろう。

 早い、風が気持ちい。解放された喜びで一瞬ほおが緩むが、引き締め直す。


 私はこれから人間として生きるのだ。この快感は、忘れるべきものである。

 町の防壁を突っ切り、町の上空を飛ぶ。そのまま学校の上までひとっ飛び。屋上に向かって着地する。

 

 ぎりぎりセーフ。このまま入学式に直行すれば大丈夫!

 制服に手を当てて、小さく呪文を唱えた。翼を出したことによって破けてしまった部分を修復するために。数秒で服を直して、振り返った。


「……」

「……」


 そこには青年がいた。金髪碧眼の青年だ。背は平均よりは一七〇より高いだろうか。紺色の制服姿を見るとここの学校の生徒のようだ。

 

「あ、あの……」


 冷や汗が背中をつたう。何か言い訳しないといけないと考えるが、私の拙い思考ではまったく思いつかない。口を開閉させている私は、さぞバカ面だっただろう。

 

「き、君!」


 青年が興奮したように詰め寄って手を握ってきた。思わず背筋を伸ばして、素っ頓狂な返事をしてしまう。

 

「君って、龍族だよね!」


 否定しようとして、飛んできたところを見られたのを思い出して顔を伏せた。

 

「……はい」


 力なく返事する私。

 さらば、普通の人としての生活。

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