第三章 魔力の秘密
工藤達三人はあれから、風呂に入り、着替えを済ませ、レアと共に昼食を摂っていた。
「この焼き魚、案外イケるわね。」
三島が魚料理の美味しさに目を光らせる。
「このスープも美味いっ!」
鈴木も料理に夢中になっていた。
一方工藤はレアと魔物狩猟許可証について話し合っていた。
「ホープさんの話では、許可証を取得するには試験があるんだとか…。」
工藤は試験内容について心配していたが、レアは微笑んでいた。
「その事でしたら、大丈夫だと思います。簡単な実技試験ですが、確かに油断できません。内容は剣や槍などの武器を扱えるかのテストだったはずですが…。」
それを聞き、三島と鈴木は驚く。
「えっ…!いきなり剣とか言われても、私達無理ですよ!?」
工藤も内心焦っていた。
(確かに…ゲームならまだしも、現実でそれを扱うなんて簡単じゃないぞ…。)
「存じ上げておりますよ。ですからその対策として、稽古をつけてくれる方を後々に紹介しますよ。」
昼食を済ませた一行は宿を後にして、馬車に乗り、レアの言う「稽古をつけてくれる方」の元へ向かった。
道中、レアが何故異世界人とこの世界の人の身体能力に差があるのか三人に話した。
「この世界の魔物は、不思議な力[魔力]を宿しています。魔物が死んだ時、その体内に秘めていた魔力が、身体の外に流れ出すのです。だからこの世界の森の植物はよく育ちます。そしてそれは、人にも例外ではありません。冒険者達は魔物を狩り、その流れ出た魔力により力を蓄えています。」
その話を聞き、三人は納得した。
「貴方達が剣の扱いに慣れたら呼んでくれとホープさんから頼まれていますが、きっと魔物の狩り方を教えてくださるのでしょうね。」
馬車が建物の前に止まり、工藤が建物を見上げると、何語かも分からぬ看板が貼られていた。
「あのー…文字が読めないんですが、あの看板には何と書かれているのですか?」
工藤が聞くと、レアはすっかり忘れていたかのようにハッとなった。
「ああそういえば、貴方達は文字が読めないのでしたね!言葉が通じるので忘れていました。」
工藤達三人は、そういえば何故言葉が通じるのだろうと顔を見合わせた。
「では、文字をお教えするのは私が担当しましょうか。」
レアはそう言うと、その謎の看板の建物の扉を開けた。
「バルトさん!お世話になっております。」
レアが建物の奥の人物にお辞儀すると、建物から禿頭で作業着姿のガタイの良い男が現れた。
「おお!村長さん。なんの御用で?」
と、その男がレアに聞くと、工藤達三人に気がついた。
「む?見ない子供達ですなぁ…。親戚で?」
レアが説明する。
「いえ、彼等は冒険志願者です。つきましてはバルトさんに剣の扱い方を彼等に教えて頂けないかと…。」
すると、バルトがガハハっと笑い、快く承諾した。
「村長さんの頼みは断れませんなぁ!良いでしょう。私が彼等を一人前の剣術使いにして差し上げましょう!」
レアがバルトに軽くお辞儀すると、
「私はこれから仕事がありますので、夕方に彼等を迎えに来ます。」
レアは馬車に乗って何処かへ行ってしまった。
バルトは三人に目を向けると、顎の髭を撫でながら言った。
「君たち、名前は?」
三人は自己紹介する。
「工藤です。」「三島です。」「鈴木です。」
「ふむ?クドーにミシマにスズキ?変わった名前だな。ガハハハハハッ!」
バルトは名前を聞き笑ったが、三人は内心ヒヤッとしていた。
「そうだった。異世界人ってのは秘密だったんだ。」
「普通に名乗ったらバレちゃいそうだよね…。」
「フルネームはやめておきましょうか…。」
三人が小声で話し合っていると、バルトは建物の中に手招きした。
三人が建物に入ると、そこはどうやら鍛冶屋の様だった。
「さて、そこの坊ちゃんはこの位のサイズ、嬢ちゃん達はこのサイズだな!」
バルトはいきなり三人に鉄製の両刃剣を持たせた。
(うっ…想像よりもだいぶ重いな。)
両手で持ってやっとの重さの剣に、三人は戸惑っていた。
「さあ、この先の丸太を相手に特訓だぁっ!」
バルトはいきなり三人を練習場に連れ出し、
剣の指導を開始した。
「ちょ、ちょっと!いきなり扱うなんて無理ですよ!」
鈴木がバルトに文句を言うと、バルトが反論した。
「いいか!俺は何日もお前達の面倒を見る余裕など無いっ!だが村長さんにお前達を一人前にすると言ったからにはそうさせる!このペースでなくては到底一人前にはなれないぞ!」
それから三人はバルトのスパルタっぷりに四苦八苦し、ヘトヘトになりながら、迎えに来た馬車に飛び乗った。
「あらあらバルトさん…。だいぶ無茶をさせたようで…。」
「何を言いますか村長さん!若者はこの位がちょうどいいんですよ!」
バルトはまたガハハと笑うと、レアが馬車を出発させ、その日の剣の練習は終了した。
宿屋に着き、風呂で汗を流し、夕食を済ませると、今度はレアが、この世界の言葉を読み書きする為のレッスンを開始した。ちなみにバルトの建物の看板は鍛冶屋と書かれてあったそうだ。
三人が疲れ果てると、レアが帰って行き、やっと三人に休憩が訪れた。
工藤の寝室は個室で、三島と鈴木は二人部屋だった。
工藤が横になると、
「私たち…やっていけるのかしら…。」
「自信無くなって来たよ…。」
隣から二人の声が聞こえ、工藤も溜め息を吐いた。
(全く、なんて多忙なんだろうか。これならまだ高校で勉強していた方がマシだよなぁ…。)
工藤はそう思いながら、窓に見える三日月を見上げ、目を閉じた。