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DEAD INSIDE  作者: 小池優馬
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第二章 死して尚護りたいもの

工藤は目を覚ました。

三島と鈴木は小屋から姿を消しており、小屋から出ると、ホープ、三島、鈴木が座って談笑していた。

「おはよう工藤。これ美味しいよ。」

鈴木は、木で削って作ったであろう箸に挟んだ食べかけの肉のステーキを工藤に見せびらかす。

「鈴木、もう大丈夫なのか?」

工藤が心配すると、鈴木は親指を立てて笑った。

「ったく…心配させやがって。」

「眠り癖で悪かったわね。」

工藤に鈴木はムッとした。

「ホープさんに全部聞いたのか?この世界の事とか…。」

工藤が鈴木を心配すると、鈴木は強い眼差しで答えた。

「聞いたわよ全部。辛いし、悲しいけど、今は全力で元の世界に戻る方法を探さなくちゃね。」

鈴木との話を終えると、ステーキを食べている三島と目があった。

「工藤、おはよう。」

「おはよう三島。」

三島との挨拶も済ませ、工藤も木の椅子に座ると、ホープは工藤に、箸とステーキがのっている皿を渡した。

「工藤、おはよう。他の皆には伝えたが、今日はナザム村に出発する予定だ。

あそこで自らの生きる術を学ぶんだ。当分の目標は魔物狩猟許可証を得る事だな。

その為の試験に向けての準備から始めよう。」

「その魔物狩猟許可証って具体的になんなんですか?」

「魔物狩猟許可証ってのは…まあ簡単に言えば外出許可みたいなものだ。凶悪な魔物と一般人が戦えば必ず命を落とす。だからある程度の戦闘経験を積んだ証が無ければ外出そのものができないんだ。本当は国や村に住んでいる証明が無ければ手に入らないが、その辺は大丈夫だ。人伝手がある。

その証があれば、王国への入国も可能だろう。…お前たちが元の世界へ帰る手がかりがあるとすれば、それは王国にあるはずだ。」



朝飯を済ました一行は村へ向けての荷造りを始めた。

「おい!お前達に渡したいものがあるんだ。」

ホープが工藤達三人を呼び出すと、それぞれに青い宝石がはめられた指輪を手渡した。

「その宝石には魔力が込められていてな。本当に必要な時に、その宝石はお前達に力を貸してくれるだろう。」

「その本当に必要な時っていつですか?」

鈴木が聞くと、ホープは説明を再開した。

「この指輪を所持している誰かを必要な時だ。強く念じれば、宝石が、その者への方角を示す光を放つ。俺も持っておくが、万が一危険になったら使え。いいか?無闇矢鱈にこの指輪に念じれば良いのではない。本当に必要な時にのみこの指輪は力を貸す。決してコンパスの代わりにしない事だ。」

ホープは説明を終え、左手の人差し指を見せると、同型の指輪が見えた。

「俺も万が一に備えて着けておく。これがあれば、お前達をすぐに追跡できるからな。」



荷造りを終えた一行はナザム村まで歩き出した。小屋周辺から離れ、森へ入ると工藤達三人はこの世界の見慣れない植物に興味津々だった。

ホープはそんな三人を他所に、草木をかき分けながら進んでいっていた。

暫く進んでいると、いきなりホープが足を止めたので、工藤達三人が驚く。

「どうかしましたか?」

三島が聞くと、ホープはしゃがみ、何かを探っているようだった。

三人は身を乗り出してホープの先を見ると、狼に角を生やしたような、大きめの生物が血を流して死んでいた。

「…死んでからそこまで時間は経っていないな。頸動脈を噛み切られている。争った痕跡も無く、捕食された形跡も無い。この甘い熟れた果実の様な匂いや、首の傷の形…。

…考えられるとすればジャガナールか。」

ホープが死体を見ながら呟くと、工藤達の方に振り返り、警告した。

「この魔物はガウルと言って、凶暴な肉食獣だ。死んでから1時間も経ってない。ガウルを殺した生物は、まだこの近くにいる可能性は高いだろう。皆気をつけろ。姿勢を低くして、なるべく音を立てずに移動しよう。」

ホープ達一行は、しゃがみながら静かに歩き出した。

少し経つと、何処からか咀嚼音が聴こえて来た。

ホープは合図で皆を止めると、前方を指差した。

三人がそっとその方角を見ると、先ほどのガウルと同じ大きさの、立派な翼を持つ鳥のような生物が見えた。どうやら小さな虫を捕食しているようだった。

「あいつがガウルを殺した、ジャガナールという魔物だ。奴はデカいが、虫が捕食対象だ。特有の甘い匂いのフェロモンで虫を誘き寄せ、捕食する。しかし凶暴で、姿を見せれば必ず襲って来るほど気性が荒い。動きも速く、的確に生き物の急所を狙う。このまま草木に隠れてこの場を離れよう。匍匐で移動するんだ。」

ホープが小さな声で説明すると、匍匐で移動し始めた。それに倣い、工藤達三人も匍匐でついて行った。

暫く移動した後、しゃがみ歩きに戻り、進んでいくと、ついに村の入り口が見えた。

「よし、ここまで来ればもう大丈夫だ。村の周辺には魔物が嫌う、人には聞こえない音波を張り巡らせている。」

ホープはそう言い、立ち上がって歩き出した。

一方、工藤達三人はヘトヘトに疲れていた。

「…匍匐前進で森の中を進むとか…正気じゃないぞ…。」

工藤が汗を垂らしながら振り向くと、後ろについて来ていた三島と鈴木も案の定、愚痴を吐いていた。

「…腰が痛いし…虫だらけだし…。」

「…うえぇ…服が泥だらけ…。」

三人が立ち止まって休憩していると、ホープが催促する。

「お前達、何してる?休憩なら村の宿屋で幾らでもできるだろう?」

すると、ホープは三人を置いて行き、村に入ってしまった。

「あの人…体力お化けかよ…。」

「ホープさんって優しいけど厳しいよね…。」

「そりゃ私たちは一般人なんだからついていける訳ないし…。」

三人は愚痴を吐きながら村に入った。

村の中は時計塔を中心に木造の建物が囲んでいる風貌だった。商店街のような場所も見え、人々で賑わっていた。

その時計塔の近くでホープと年配の女性が話し合っていた。

工藤達三人が近づいてホープに声をかけると、ホープがその女性を紹介した。

「お前達、来たか。紹介しよう、この方はナザム村の村長、レアさんだ。」

するとその女性は三人を見て微笑み、自己紹介した。

「はじめまして、私が村長のレアです。ホープさんから話は聞いております。」

工藤達も自己紹介する。

「はじめまして、僕は工藤と言います。工藤東弥です。」

「はじめまして、三島佳奈です。」

「はじめまして、鈴木真希です。」

三人の名前を聞き、レアはホープに耳打ちした。

「…ではこの子達が…。」

「ああ…そうだ。」

工藤達には聞こえず、三人は訝しんでいたが、レアは三人の方に向き直り、話し始めた。

「では、先ずは宿屋にご案内しましょう。そこでお風呂に入って、昼食をとっていただきましょう。服が異世界の服のままだと何かと不便ですから着替えを用意させます。魔物狩猟許可証取得までの手順は追って説明致します。」

(ホープさんが言っていた人伝手ってこの人か。それにしても、なんで村長ほどの人と知り合いなんだろう。もしかしてホープさんって凄い人だったりするんだろうか?)

工藤がそう感じ、三島と鈴木を見ると、どうやら二人も工藤と同じことを感じたようだった。

「宿屋までは馬車で移動します。その間に色々な場所の説明をしますよ。」

レアはそう言うと、服のポケットから笛を出し、ピッと一度だけ吹くと、どこからともなく馬車馬が工藤達の元に走り出し、停止した。


それから一行は馬車に乗りながら色々な建物の説明を受けた。

時計塔は魔物が嫌う音波を放っている事、ギルドなるものが魔物狩猟許可証を得る場所だという事、商店街はポカンという野菜が一番売れている事など、この村のありとあらゆる事を村長から紹介された。

その間、村人から奇異な視線を感じた工藤は違和感を覚えたが、直ぐに自分がこの世界の人間では無かった事を思い出し、納得した。


宿屋に着くと、ホープは三人に忠告した。

「お前達が異世界人というのは俺と村長だけの秘密だからな。誰にも話すんじゃないぞ。…特に王国の兵士にはな。」

ホープがいつにも増して真剣だったので、工藤達は何も言わなかった。

「…俺はここから別行動だ。お前達の面倒は当面、レアさんがしてくれる。

…では、レアさん。よろしくな。」

ホープがそう言うと、工藤達に背中を向けて歩き出した。

工藤達は今までの礼を言おうとしたが、言う前に歩き去ってしまった。

(…なんだか、村長のレアさんよりホープさんの方が立場が上みたいな口調だった。レアさんはホープさんに凄い気を使ってるし、言葉遣いも丁寧だった…。)

工藤は気になり、レアにホープについて聞いた。

「あの…ホープさんとレアさんってどういう関係なんですか?」

レアは工藤に静かな声で答えた。

「…異世界人のあなた達ですからお教えしましょう。彼は、何十年も前からこの村の面倒を見て来てくれました。時計塔の設計者もホープさんです。私が若く、村長に就任する前から、ホープさんはこの村に居ます。村の疫病を終息させたり、村人を脅かしていた魔物を討伐したり…私たちはホープさんに、返し切れないご恩があります。彼は村の守り神のようなお人です。だから年配の方々は彼に敬意を払い、なるべく関わらない様にしています。」

「…それは何故なんですか?」

工藤が聞くと、今度は暗い顔をしたレアが答えた。

「先ほど言った通り、彼は何十年も前からこの村に居ます。それも姿形を全く変えずに。

この村に来る前は王国の兵士だったそうですから、いったい何歳なのか見当もつきませんし、彼は素顔も誰にも見せたことはありません。だから黒い噂が絶えないんです。実は魔物ではないか、精霊ではないか、災厄そのものではないか、はたまた神様ではないかと。特に若者の間に広まっているんです。だから私を含め、年配の方々は彼に極力関わらない事によって迷惑をかけないようにしているんです。もっとも、彼が人でなくとも私は彼への感謝を忘れる事などありません。」

工藤達三人はそれを聞き、ゾッとした。

そして、馬車に乗っている時の村人の奇異の視線は、自分ではなく隣に座るホープに向けてだということに工藤は気がついた。

(ホープさんっていったい何者なんだ?)

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