発端
#1 September 9th PM5:30
「暑い...」
もう9月だというのに一向に涼しくなる気配が無い。そう表情に出ていたのだろうか。
「仕方がないよ。そういう時代なんだもん。」
彼女は、朱音は答える。ニュースでもそんなことを言っているから割り切っていくしかないのだろう。
「早く用事を済ませて帰ろうよ恭弥君。」
彼女とは小さい頃隣人だったという事で良く遊んでいた。その後色々な事情もあり離れる事になった。そして大学に入った時に再開を果たしたのだ。最も僕自身は声をかけられるまで気づかなかったのだが。
「それもそうだな、もうかなり日も傾いているからな。」
「それにしても今日は夕焼けが綺麗だねえ。」
「空の色はその場所の雰囲気さえも変えるから不思議なものだ。」
「夕焼けの色は自然と懐かしさを感じるよね。」
唐突にある光景を幻視した。幻視と信じたかった。さっきまで会話していたはずの彼女はもう虫の息だった。通り魔に刺されていたのだ。気づいたらその通り魔は消えていた。その場に残ったのは息絶えた彼女があるのみだった。血が滴っていた。美しいぐらいの真紅だった。
その後の記憶は朦朧となっていて気づいたら僕は家にいた。起きていると嫌な想像しかできなかったからベッドの中でその日の残りを過ごした。