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第三話~非日常~

昨日、僕の人生ではそれこそ非現実的な出来事を経て今日を迎えたわけなのだが、僕の日常生活が劇的変化を迎えるわけではもちろんなかった。朝ジリジリと鳴るスマホ目覚ましに起こされ、顔を洗って朝食を作り、眠り姫こと妹の唯を目覚めのキッスをして起こそうとして殴られ、朝ご飯を食べて学校の支度をする。ここまではいつも通りの日常だった。

「じゃあ行ってくるね、お兄ちゃん。次あんな真似をしたらお兄ちゃんの部屋燃やすからね!」

笑顔でそう言い唯は学校へと向かったが、あれは本当に燃やしそうだ…女性の笑顔というのは一番怖いのかもしれない。今回の起こし方も失敗だったようだ。唯はさするくらいでは決して起きず、毎日僕は唯の起こし方に創意工夫するのが僕の日常だった。今日の手段は、結果的には唯は飛び起きたためかなり手応えを感じたが、僕の部屋にある古書コレクションを失うわけにはいかないためまたお蔵入りになりそうだ。

朝食の片づけを終え、まだ時間があるためテレビを見て時間をつぶす。昨日と違い今日は日直ではないため時間に余裕がある。

「そして、最下位は、ごめんなさい。ふたご座のあなた。今日は人間関係に悩まされる日。そんなあなたへのラッキーアイテムは、餃子!今日は餃子を食べるといいでしょう。」

まぁ、占いなんて信じてないので、僕の星座が例え何位であろうと僕の行動が変わることはない。気にしてなんかいないのだ。

いつも見ている朝番組も終わったため戸締りを確認して家を出る。ここまでは僕の日常だったのだが…

「おはようございます。」

玄関を開けると小野さんがいた。もしかして僕が開けたのはどこでもドアだったのだろうか。

「どうかしましたか?とても間抜けな顔をされていますよ。」

昨日と同じような問答をして小野さんは僕をまっすぐ見つめている。

「えっと、どうしてここに?ていうかどうして僕の家知ってるの…?」

「エスコーダーのことなら私は何でも知っています。」

「何でも!?」

…また冗談だろう。彼女の冗談はなかなか判断が難しいものだ。しかし思えば僕はまだ名前を名乗ってはいないのに昨日北子書店で会ったとき、彼女はすでに僕の名前を知っていた。今もこうして本当に僕の家まで特定されている。まさか昨日の話は本当なのだろうか。

「色々聞きたいこともあるんだけど、とりあえずどうしてここに?」

家の前で待っている、という状況を考えればおのずと答えが出ている気もするが、相手が相手だ。つい昨日同じような思考回路で予想よりもかなり斜め上の回答をもらったため、どういう返しか全くわからない。

「滝川文徳さんと一緒に登校するためです。私たちの今後どのように行動するか話し合うためにも今は共にいる時間を増やすことが大切だという結論に至りました。」

色々勘違いしそうな文面だが、間違いなくそういう意味ではないのだろう。わかってるんだから赤くなるな自分!

「顔が赤いようですが大丈夫ですか?熱があるなら今日は学校を休んだほうが良いのではないでしょうか?」

といいながら小野さんはグイっと顔を近づけて僕の額に自分の額を合わせる。

「なっ、何してるの!?小野さん!?」

「熱の確認を。エスコーダーが体調を崩されるのは大変ですから。しかし、やはり少し熱があるのではないですか?」

熱の原因はあなたなんですが…

「だ、大丈夫だよ。それより早く学校に行かないと。小野さん、電車?」

「先ほど一緒に登校すると言いましたよね?滝川文徳さんは自転車通学なので、私も自転車通学です。」

自転車通学なことも知っているのか…一体どこから情報を入手しているのだろうか。昨日転校してきたばかりとは思えないのだけど…

「自転車、かなり坂があってしんどいけど大丈夫なの?」

「??私は大丈夫ですよ。」

心配されたのが不思議そうな顔でそう答える。普段から運動しているのだろうか。あまりそうは見えないが、まぁ即答するのならかなり自信があるのだろう。

「じゃあとりあえず行こうか、そろそろ本当に遅刻しちゃうよ。」


ということで、美人と二人で自転車通学という僕の人生の青春の一ページが華やかに埋まるはずだったのだが、

「ぜぇ、はぁ、はぁ、」

僕は汗だくで自転車をこいでいた。もちろん普段の通学ではこんなに疲れないし汗だくになどならない。

「大丈夫ですか?」

原因が後ろから声をかけてくる。そもそもおかしいと思うべきだった。自転車通学と言ったものの、小野さんの周りに自転車は見当たらなかった。小野さん、自転車は?と尋ねると、これまた真顔で僕の自転車を指さしたのだ。そして今僕の自転車の後ろには小野さんが乗っている。

「全然大丈夫じゃない…ぜぇ、ていうか小野さん、今からでも駅に向かったほうがいいよ、今ならまだ遅刻しなくて済むかも…それに僕も助かるし。」

最後は小声でそう小野さんに伝える。

「滝川文徳さんが電車で行くなら私もそうしますが、所持金的に無理なのでは?」

別れるという選択肢はないらしい、というか僕の経済的事情も知られている!?本当に一体どこから…

「あ、また坂ですよ」

と言うろすぐに背中に柔らかい感触を感じる。先ほどから坂道のたびに背中にくっついてくるので、正直理性が持たない。

「うおおぉぉ」

煩悩を捨て去るように自転車をこぐことに全力を注いだ。

学校についたのは1限が終わるころで、僕も小野さんもめでたく遅刻したのだった。


「滝川君、汗だくだよ。タオル使う?」

教室に入って鞄を置くと近くにいた幸寺さんが話しかけてきた。幸寺さんは本当に分け隔たりなく人に接してくれて、誰にでも優しい。これ以上委員長が適任の人は他にいないだろう。

「ありがとう、でも大丈夫だよ、流石に女子のタオルを使うわけにはいかないし。それに幸寺さんも部活でタオル使うだろうし…」

「エイッ!」

幸寺さんは僕がしゃべり終わる前にタオルを僕の首筋に当ててきた。

「私、汗かきだからタオル2枚常備してるから大丈夫だよ。それにそんな汗だくだと風邪ひいちゃうよ。」

ここまで言われると、断るのが失礼だろう。

「ありがとう。明日洗って返すよ。」

「うん!」

「優奈~、置いてくよ~!」

友達に呼ばれて幸寺さんは去っていった。

「滝川君も、次移動教室だから早くしたほうがいいよー!」

ドア付近でこちらに振り返りそう言って再びドアの向こうに姿を消した。

「ぶーんーとーくー!」

幸寺さんがいなくなるや否や後ろから恨めしそうな声とともに僕は激しく揺さぶられた。

「なんだよ、祐樹。揺らすなって。」

「お前、女子にタオル借りるとかどこのリア充だよ!死ね!爆発しろ!」

祐樹はさらに強く僕を揺さぶる。こんなことを言っているが、祐樹は見た目だけはかなり整っているほうで、女子の評価も最初は高かったのだが、中身がまぁこのようなので自然と誰も近寄ってこなくなったのだった。

「幸寺さんに関しては、そういうのじゃないって。お前もわかってるだろ?」

「まぁな。」

急に揺さぶりを止めて祐樹も同意を示した。幸寺さんの分け隔たりなし、は本当に分け隔たりがなく、異性への対応も同性への接し方と同じようなものだった。入学して二週間のころ、祐樹が体育の時運動不足で吐いてしまった事件があったのだが、その時いち早く駆けつけて対処したのは幸寺さんだった。誰でも多少抵抗してしまう事態ではあるはずなのだが、彼女は何一つ嫌な顔をせずにその場の処理をしたのだ。

「教室行くかー、次は生物か。苦手なんだよなー、あの先生。」

「わかる。なんか、見ているこっちが辛くなるというか。」

生物の先生は坂野先生というのだが、なんというか生徒からの反応を特に気にしている人で、授業中にモノマネや自分の持ちネタを披露するのだ。クオリティも言ってしまえば微妙なもので、最初の授業では皆笑っていたものの、一か月たった今ではもう誰も反応しなくなり、先生がボケるたびに葬式のような雰囲気で授業が進むのだった。

「今日は細胞の中を見ていくぞ~、細胞と言えば、何年か前にSTAP細胞っていうのがあってだな~、それがまたミスたっぷりな細胞でな~。」

…帰りたい…。


地獄のような授業を何とか乗り越えて昼休みを迎え、僕と祐樹は教室に戻っていった。僕はお金がないため当然学食ではなくお弁当なのだが、祐樹も学食ではなくお弁当派だった。学食は人が多いから嫌、という何とも単純明快な理由らしい。

教室に入って鞄からお弁当を取り出した直後くらいのことだった。廊下からそれはそれは大層美人な女性が、というか小野さんが入ってきた。1-Dに何の用だろっと思っていると(正直予想はついているのだが)、まぁ案の定教室の窓側後方へ、というか恐らく僕の方へ足を向けてきた。

「えっと、小野さん、何か用かな?」

これもここに来た理由はもう察しがついているのだが、まぁ一応訪ねてみる。

「この時間に尋ねた時点で理由などわかると思うのですが、滝川文徳さんはもしかして頭が弱い方なのですか?」

相手があなただから分かりづらいんだけど!

「文徳、この人、もしかして例の…」

そうか、祐樹は昨日1-Cに行ったときあの人混みを見て早々にリタイアして帰ったため、小野さんの顔を知らないのだ。本屋にも寄れなかったため、二度も小野さんと会う機会を逃しているのだ。などと考えていると、気が付けば教室内の目線が全てこちらに向けられていた。早くこの状況を打破しなければならない。小野さんにとりあえず教室に戻ってもらうのがベストなのだが、承諾してくれるわけもない。

「小野さん、とりあえず場所を変えよう。」

そう言って教室の外へと足を向ける。

「おい、文徳。」

「すまん、祐樹、今日は別の人と食べてくれ!」

祐樹が僕以外に昼飯を共にを食べる人がいないことは知ってはいるのだが、小野さんの異常さを端的に説明することは到底できないため、とりあえず今回は今度牛丼でも奢るので許してもらおう。教室から出ると、後ろからとことことついてきた小野さんが不思議そうにこちらを見てきた。

「場所を変えるのは構いませんが、どこに行くのですか?」

「とにかく、人目がないところ…」

「具体的にどこですか?」

勢いで飛び出したものの、どこに行くかは考えていなかった。食堂は論外で、中庭も昼は人が集まるので却下。となると他には…

「考えもなしに友達を放って出てきたのですか?」

そもそも貴方が訪ねてこなかったらこんな事になっていないのですが!

「小野さん、どこか人目につかない場所知らない?」

「転校して2日の人にそれを聞きますか?やはり滝川文徳さんは頭が弱いのですか?」

確かに…僕のことを異常に知られていたから何でも知っていそうだと認知していたらしい。そういえば小野さんは昨日転校したばかりなのだ。というか、

「そういえば、なんで小野さん、僕のことフルネームで呼ぶの?」

「?そういう名前なので。プロマーとお呼びしたほうがよろしかったですか?」

「いや、やめてください…フルネームもなんか違和感を感じるから出来れば名字とかで…」

「では文徳、とお呼びします。」

wow、急に呼び捨て、しかも下の名前。鼓動が早くなっているのはさっきクラス内の目線を浴びたからだ。決して女の子に下の名前で呼ばれてドキドキしているわけではない。そういえば小野さんの下の名前はなんていうのだろう、と思い小野さんのほうを見てみると、なんだか少し嬉しそうに見えた。さっきまで真顔だったのに、なにか良いことがあったのだろうか?

その後、結局たくさんの目線に晒されながらいろんな所を歩き回って、最終的には屋上付近の階段まで追いやられたのだった。

「階段で昼ご飯、か…」

まさか実際にトイレや階段で昼ご飯を食べる日が来るとは思わなかった。

「ここで食べるのですか?屋上まで行けば良いのでは?」

「無理だよ、屋上は鍵かかってるんだよ。安全のためにって理由らしいけど。」

じゃなければきっとここら辺にも生徒が通りかかってしまうだろう。僕も入学したてのころ祐樹と屋上に本当は入れないか確認しに行ったが、しっかりと鍵がかかっていた。しかしそんな言葉を無視して小野さんは屋上の扉に向かいドアノブに手をかけてグイっと回そうとする。僕の言葉にはそんなに信用性がないのだろうか。ガチャガチャ、とドアノブは回らず小野さんは不満そうな顔をして僕は少し勝ち誇ったような顔になる、予定だったのだがドアノブはガチャリときれいに90度回り屋上から光が漏れて、心地よい風が当たってくる。小野さんは勝ち誇った顔をし、僕は不満そうな顔になった。

「なんで屋上の鍵が開いているんだ?」

誰かが鍵を閉め忘れた?にしてもそもそも屋上なんて利用する機会がないはずだ。疑問に思いながら僕と小野さんは屋上に足を踏み込み少し散策していると、

「滝川くん…?」

急に後ろから声をかけられてビクっと肩が震えた。僕たち以外に屋上に人がいたのだろうか。振り返り声の主を確認すると、そこには秋野伊周がお弁当を抱えて座っていた。


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