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第二話~運命~

「あなたは運命を信じますか?」テレビで天野有栖が出ていたとあるバラエティー番組でそういう議題があった。

「お兄ちゃんは信じる?運命」

唯がオムライスを口にほおばりながらそう聞いてきた。

「信じるか信じないかと言われてもな。少なくともまだ「これは運命だ!」と感じたことはないよ。」

「結局どっちなのよ。」

「わかんないってことだよ。あるかもしれないしないかもしれない。唯はどうなんだ?」

「私?私はもちろん信じてるよ!いつか白馬に乗った王子様が私を迎えに来るって運命がもう決まってるの!」

本気で言ってるのだろうか。我が妹ながらここまでだったとは…

「冗談よ、何本気で引いてるのよ!」

少し赤くなりながらそういう妹に、兄は心の底から安心する。

「まぁ、来てくれる可能性も少しはあると思うけどね。」

…これもきっと冗談なのだろう。ちなみにこの時天野有栖はこう答えていた。

「運命ですか。まだ何かにそういったことを感じたことはありませんが、あればいいなって思います。」


まぁ、なぜこんな話を思い出したのだろうか。まさかこの状況に「運命」を感じてでもいるのだろうか。小野さんの顔をまじまじと見つめる。うん、やはり絵に書いたような美人である。顔のパーツ一つ一つがきれいに整っている。この子が運命の相手などなら僕は生涯幸せなのだろう。

「私の顔に何かついていますか?」

小野さんは首をかしげてこっちを見ている。疑問を持っているのはこっちなんだが。軽く深呼吸して混乱している自分を何とか落ち着かせる。

「えっと、小野さん、だよね?今日東宮高校に転向してきた。どうしてこんなところに?」

ここにいる理由、まぁさっき「いらっしゃいませ」ってい聞いた時点で何となくわかっているのだが、一応聞いてみる。

「あなたと会うためです。滝川文徳さん。」

真顔でそのようなことを言ってきた。てっきり、ここでバイトしてるんです。という答えが返ってきて、あわよくば本の話題で盛り上がれるかと思ったのだが、もはや意味が分からない。こんな美人にそんなことを言われると、無意識に顔が赤くなってしまう。

「えっと、なんで僕に?というか、小野さんは僕がここに来るって知ってたの?」

「はい。そう仕向けましたので。それと、小野というのは仮名なので、私のことはプロマーと呼んでください。」

「ぷろまー?」

実は小野さんは外国人だったのだろうか。全くそうとは見えなかったけど。それに今仕向けたって言わなかったか?僕がここにくるように小野さんが仕向けたとでも言ってるのだろうか。

「えっと、小野さんもしかして冗談を言ってる?なかなか個性的な冗談だね。」

少し苦笑い気味にそう言った。普段人と一対一で会話するのにしがらみを感じたことはあまりないのだが、今回は何か気後れしてしまう。絶世の美少女だとかそんなこと関係なく、もしかして危ない人なのでは、と。

「…まぁ、エスコーダーがその呼称を好むなら無理強いはしませんが。順に説明しますのでそこに座っていただけると。コーヒーと紅茶、どちらが良いですか?」

「あ、じゃあ紅茶で。」

本当はどちらもあまり得意ではないのだが。聞くと小野さんは再び扉の向こうへと去ってしまった。ここで帰るわけにもいかず、言われた通り小鳥のガラス細工が飾ってある机に腰掛ける。なんとなくわかった。話をしても会話にならない人間は、幸い(不幸かもしれないが)僕の知人にも一人いるので経験がある。こういう相手は相手の言葉一つ一つを理解しようとしてはだめなのだ。第二ラウンドを迎えるボクサーの気分でいると、ほどなくして小野さんが紅茶をもって来た。向かいに座ると再び顔を少し赤めてしまう。僕、こんなに女性に免疫がなかったんだな。

「順に話しましょう。まず、私があなたに会いたかった理由について。そのために、プロマーとエスコーダーについてお話しますね。」

先ほど小野さんが言っていた単語だ。確か小野さん自身がぷろまーで、僕のことをえすこーだーと言っていたような。僕は無言でうなずき先を促す。美人相手に緊張しているわけでは決してない。

「詳しいことを話すには時間もありませんし、簡略に伝えますね。例えばそうですね。この本で説明しましょう。」

と小野さんはすぐそばにある小棚に飾ってある本の中から一冊をおもむろに取り出した。本のタイトルは…

「この本、「転生したらバニーガールになったのでとりあえず魔王の妻になりました」というタイトルですが。」

僕は今日何回このタイトルを聞くのだろうか。ツッコむのも疲れてきた。

「この本の作者は冬染桜。主人公の名前は馬田五右衛門と言うそうですが。」

すごい主人公の名前だな、江戸時代か何かのお話なのだろうか(全国の五右衛門さんに謝っておこう。)

「この本で言う冬染さんがプロマー、馬田さんがエスコーダーというものに当たります。」

「……」

「……」

あれ、説明終わり?なにも理解できなかったのだけど…

「えっと…一緒に小説を書きましょうってこと?」

「いえ、小説というのはあくまで例えです。役割のお話です。」

「全然わからないんだけど。」

気のせいだろうか。表情は変わっていないが、若干あきれられているような気がする。

「…プロマーというのは、エスコーダーを導く存在です。エスコーダーの紡ぐ物語を補助するのが役割です。」

「えっと、つまり小説を書くのが僕で、それをサポートするのが小野さんってこと?」

気のせいだろうか。表情は変わっていないが、若干侮蔑されている気がする。

「あなたが何かに記録する必要はありません。あなたは小説で言う主人公なのです。記録自体はグラバーと呼ばれる概念装置によって自動記録されていきます。」

概念装置?急にアニメか何かのような単語が飛び出しますますわからなくなる。とにかくこれ以上彼女の馬鹿にするような視線に耐えれないため頭をフル回転する。小説とは全く関係ない、でも小説でいう僕は主人公で小野さんは作者ということ。つまり・・・

「もしかして、小野さんが僕の自伝を書くってこと?」

言ってすぐに空気が氷点下まで下がるのを感じた。もう小野さんの目線で物理的ダメージを受けている気がする。

「いや、っていうのは冗談で…。」

「私の役割については誤っていますが、あなた自身の役割については大まか間違いではありません。」

「あってるの!?僕の自伝を書くの!?」

おもわず大声を出してしまう。

「書くのは私ではありませんが、あなた自身の物語が紡がれるという点で、あながち間違いではないと思います。」

僕のお話を…?古本好きのただの普通の高校生。特にこれといった誇れる特技も外見もあったものじゃないのだけど…

「私の役割は、記録ではなく補助、あなたの物語を導くものです。」

「導く…?」

「はい。そうですね…例えば先ほどの小説では主人公の馬田くんが電車にひかれそうな兎をかばって女神によってバニーガールへと転生するのですが。」

馬田くんはそんな死に方だったのか、兎好きだったのかな…

「この転生へと導くのが私の役割です。私はあなたの物語を導く役割です。」

「ってことは、もしかして小野さんは俺を転生させる能力があるってこと?」

「私にはまだそこまでの力はありませんが、プロマーの中には間接的に転生させることが出来る方もおられます。」

冗談のつもりだったのだが…小野さんは表情を崩さないままそう答える。冗談を言っているようには見えない。だけど流石に「はいそうですか」とは信じられない。

「えーと、だいたい小野さんの言いたいことはわかったよ。じゃあ小野さんはその物語ってのを導くために僕に何をしようって言うんだい?」

信じているわけではないが、目の前に絶世の美少女が古本屋で僕と二人で向かい合って話すこの状況が僕にとってはすでに現実を超えているというものだ。少しは何かが起こってしまうのではと、考えてる自分がいるのも確かだ。転生はできないと言っていたが、先ほどの話を聞く限り物語を導くために小野さんが僕に対して何らかのアクションを起こそうとしているのは確かなようだ。もし、本当に万が一に転生とはいかなくとも、そのような現実離れしたことが僕の身にこれ以上起こるというなら、退屈とは言わないが普通、平凡な人生を送ってきた僕の人生に何かが起こって変わるというなら、見てみたい。そう少し期待する自分がいた。どうやら思っているよりも僕は彼女の話を真に受けていたらしい。いや、もしかしたらそうした期待が高すぎただけなのかもしれないが。いつの間にか真剣に僕は彼女の言葉を待っていた。まっすぐに、何を言われようとも受け入れるような覚悟をして。そんな僕の期待に対し、彼女が発した言葉は次のようなものだった。


「いえ、特に何も。」


…今までの僕のきいてきた話は何だったのだろうか。急に現実に引き戻された感じがした。相も変わらず小野さんは無表情な顔である。

「えっと、あれ?僕また何か勘違いしてる…?」

「いえ、細かいことは置いておくと、解釈はだいたいあっていると思います。」

「えっと…」

「確かにプロマーはエスコーダーの物語を導く役割を持っています。むろん私もプロマーの端くれとしてエスコーダーたるあなたを導く役割を持っています。」

「じゃあ…」

先ほどからとてつもなく虚脱感を感じて言葉が続かない。

「しかし、私も初めてプロマーとしての役割を行う身。まだエスコーダーたるあなたに対して何を行えば良いか何も考えれないのです。」

何だろう、なじまない言葉はあるものの、社会のダメ人間そのもののような発言に聞こえてくる。

「なので、出来れば自分で何らかの行動を起こしていただけると。」

「はい???」

整理しよう。僕の解釈が間違っていなけれなば彼女はこう言ってるのだ。

「あなたの手伝いがしたいのだけど、何したらいいかわからない。だから自分でなんとかしてね。」と。

あまりに支離滅裂だ。酔いがさめたような感覚になった。(まぁ酔ったことないのでわからないのだけど)

「何らかの行動って、具体的には?」

「私にはわかりません。何をしたらあなたの物語は進むのでしょうね。明日、クラスメイトと喧嘩してみるとか、授業をさぼってみるとか、屋上から飛び降りてみるとか、そういう些細なことから行ってみればよいのではないでしょうか?」

どれも僕にとっては全然些細なことじゃないのだが…それに最後、さらっと死ねって言われてなかったか?

「…冗談ですよ。」

今までの流れを考えると、本気で言ってきても不思議でないところが本当に怖い。

「とにかく、今日はもう遅いので家に帰ったほうが良いでしょう。私のためにも、あなたのためにも、この先どうするか一緒に考えていきましょう。」

咳ばらいをして彼女はそう言った。僕のためにも?と疑問に思ったが、口に出すことはしなかった。

帰り際、一つ疑問に思っていたことを聞いてみた。

「小野さん、なんで僕なの?」

この世の中に、僕なんかよりもっと面白い人間はたくさんいるだろう。それこそまるで本の中の話のような経験をしたことのある人だって。他人に自分でも僕が平凡な人間であることは流石に自覚している。

「運命、ですかね」

小野さんは笑ってそういった。初めて見る小野さんの笑顔は、今までで見た何よりも美しく感じた。

家に帰ると時計の針は10を回っていた。妹にかなり怒られたが、まぁこれは僕の物語とやらには無縁なのだろう。

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