第4話 3話のつづき(仮)
次の日の昼休み、空腹の私は二年生のクラスがある三階の廊下を歩いていた。
ああ、お腹すきました………お腹がぎゅるぎゅる言ってます。なんかとてもデジャブを感じるのですが……。
しかも他学年の廊下って妙に緊張しますよね……。何で他の学年がこんなとこに?って目で見られるし……。
ただ、昼休みだけあって人通りは少なかった。私は一つの教室の前で止まり、プレートを見上げる。そこには二年七組と書かれていた。
ここだ、と思い、そっと入り口から覗く。そこでは二年生達が各々で集まって座り、お弁当やらパンやらを食べていた。
うわっ、どうしよう……。すごい緊張してきました…………。
すると近くにいた男子生徒が私に気づき、声を掛けてきた。
「あれ、君どうしたの?」
慌てて私は返答する。
「えっっ!………と、あのー! …藤咲先輩っていますか?」
するとその男子生徒は何を思ったのか笑みを浮かべ、そうかぁなるほど、などと呟いた。そしてお弁当を食べている一つのグループを向いて、大声を上げた。
「藤咲ーーーー!!!一年の女子がおまえに話たいことあるってさーー!!!」
ちょ、ちょっと、今の発言は誤解を招くんじゃないでしょうか……。
予想通りクラスが一瞬静かになり、急にざわざわし出した。きゃ〜〜!とか黄色い声や、藤咲やる〜!とか言う声が聞こえてくる。
ですよね……。こうなりますよね。
緊張で寿命ちぢみますって……。
すると呼ばれたグループの中の一人が立ち上がり、私の方へ歩いてきた。
百八十センチぐらいあるすらりとした背丈に線の細い顔立ちで、困ったように少し微笑んでいる表情が、なんともいえないかっこよさをかもし出していた。
一言で言うとイケメン。
あら、本気で狙ってみようかしら。
彼は私の傍まで来ると、優しい笑顔を作ってこう言った。
「僕に用かな?ハニー」
前言撤回。
光の速さで興味を無くした私は、一つ咳払いをして彼の顔を見上げた。
「あの、ちょっと話があるんです」
クラスが再びざわめく。
黙ってて下さい………先輩方。
「いやぁ、クラスに直接来るなんて君って大胆なんだね。でも強引な女の子もタイプだよ」
「お腹が空いてるので簡潔にいいます。藤咲先輩、くるみちゃんのナイフを返してください」
「君のハートを返してほしいって?それは難しいなぁ」
ダメですこの人っ。完全に飛んじゃってます!
「ナイフです!ナ・イ・フ!」
「え?ナイフって…………」
先輩の笑顔が曇る。
よかった。ぶじ帰ってきてくれた。
そして彼は真剣な表情になり、さっきとは打って変わって重い口を開くように言った。目に力が篭っている。
「それは無理だ」
あまりのギャップに、少し気後れする。
が、それでも私は負けられないと意を固めた。くるみちゃんのためにも。
「あれはくるみちゃんの大切なものなんです。お兄さんが預かる権利なんてないと思います」
「いや違うな、妹のことを思ってのことなんだ。君が誰だかは知らないが関係のないことだ」
お互いの視線が、稲妻でも走ったかのようにぶつかり合う。クラスが不穏な空気を察したのか、違うざわめきが生まれた。
しかししぶといですね。でもこの人ならうまく行くかもしれません。
私は先輩だけに聞こえるように、囁いた。
「藤咲先輩って、理奈先輩に振られたんですよね……」
「………っ!」
藤咲先輩の表情が驚愕に変わった。なんで知ってるんだ、と言わんばかりの表情だった。
この情報はきっと役に立つからと、稲葉先輩が教えてくれたものでした。先輩にこんな優しさがあることに驚きでしたが。
「……そうか、君はあの部活の」
「ええそうです。もしそのナイフを返してくれるのなら、理奈先輩と仲良くできるお手伝いをしてもいいかな〜って思ってるんですよ。どうです?」
私は満面の笑みで交渉を持ちかけた。対して藤咲先輩は、唇を噛み目が泳いでいる。これは…………いける!
「いや、やめとくよ」
「へ?」
あっさり引き下がった先輩を見て、私は間抜けな声を出した。
「うん、そうだ、僕は過去にはこだわらない。理奈のことはきちんと諦めてるからね。僕はいつまでも引きずるような小さい器の男じゃないよ」
まじめな顔で言う。
何とも男らしい決意だけれど、いやいや、それじゃあ作戦もなにもあったものじゃない。
「待ってください!ほんとうにいいんですか………?」
「ああ、大丈夫さ。それよりも僕は君とお近づきになりたいな。見た目よりもなかなか知的なんだね」
ああ、恋愛の矛先がこっちに!
「いや、それはちょっとっ」
「もし今度デートしてくれたらナイフをくるみに返してもいいよ?」
満面の笑みで交渉を持ちかけてくる先輩。
うわっ、なんて卑怯なんでしょう!私も人のこと言えなかったけど!
たじろぐ私に「どうするの?」とじらしかけてくる。
くるみちゃんの喜ぶ顔が頭に浮かぶ。ありがとうございましたっ!って言う嬉しそうな声が頭に響く。
そうだよね、一回ぐらいなら、デートですし……。
そんな決断を下そうとした瞬間だった。
別のグループの中から見知った顔の先輩が近づいてくる。
茶色い無造作に伸ばされた髪。
それは紛れも無く、我が部の部長、稲葉先輩だった。
ああ、稲葉先輩が白馬の王子様に見えますっ!
って、なんでここに!?
稲葉先輩は藤咲先輩の肩を叩いて言った。
「悪いな、うちの部員が邪魔したみたいで」
「稲葉か。別に構わないよ、むしろ光栄だ」
「それなんだけど無かったことにしてくれよ」
藤咲先輩の顔が歪む。
「残念だけれど、稲葉の頼みでもそれはちょっと無理だよ。愛し合う二人の邪魔は誰にも出来ないはずさ」
一方的な恋じゃないですかっ!
「そのことなんだが………」
稲葉先輩は一度私の方を見てウインクした。体に悪いです。そして再び藤咲先輩の方を見てこんなことを言ってのけた。
「こいつ、俺の彼女なんだ」
クラス中が沸き立つ。藤咲先輩も驚いている。
「初耳だ……」
初耳です!
「そういうわけだ。ちなみに、………ちょっと耳かせ」
「あ、ああ、男に顔を近づかせるのは趣味じゃないが、少しなら」
稲葉先輩は藤咲先輩の耳元で囁いた。なんて言ったかはよく分からなかったけど、ナイフ返さなければあのことばらす?かな。
藤咲先輩は表情を一変させると、ナイフを渡して泣きそうになりながら去っていった。
あのことってなんでしょう……。
こうして今回の相談は解決したわけですが………。
いろいろと問題点があります!
「秋菜、大丈夫だったか?」
「大丈夫ですけど、なんで先輩がここにいるんですか!?」
私は当然の疑問を口にした。
「なんでって、そりゃここ俺のクラスだし。知らなかったのか?」
当然のように稲葉先輩が答える。
「知りませんよ。教えてくれなかったじゃないですか。それにだったら、先輩が頼めばすんだ話じゃないですか〜!」
「部員たるもの経験が必要だしな。それにしても面白かったぜ?もうちょい見ていたかったな、うん、失敗した。止めなければよかった!」
沈めたい、ああ沈めたい、沈めたい。
「それに始めからあのことを教えてくれればよかったじゃないですか」
「それはダメだ。藤咲の名誉に関わる事だからな」
しかもクラス中が私達の方を見てニヤついてる!?
「とりあえず誤解を解いてくださいよ!」
これじゃあ二年生の廊下歩けません!もう二度と来ませんけど!
「おっと、もうすぐ予鈴だぞ。じゃあな!」
そう言って私を廊下へ追い出すと扉を閉めた。教室内はいぜん慌しい。私が再び開けようとすると、聞きなれたチャイムの音が鳴った。
まあ、とりあえず。
今日も昼食抜きになりましたとさ。
めでた……くない。
うう、早弁してやる。いや遅弁か。次の英語の時間に食べてやる!教科書の陰で食べてやる。
フフッ、フフフフフッ………。
私はへらへらと笑いながら自分の教室へ足を進ませた。
久しぶりの更新でした。




