第3話 残念なお菓子と相談者
水槽に近かったため、跳ね返った水槽の水がかかって立ち尽くす稲葉先輩。
漂い沈むお菓子の無残な姿を見て、これはなんだろうと立ち尽くす私。
ソファに座り、無言でこの光景を見ている理奈先輩と健吾先輩。
暫くの沈黙のあと、この静寂を破ったのは理奈先輩だった。
「残念だったわね……」
その言葉で私は現実に引き戻された。そして稲葉先輩を睨み付けて言った。
「どうしてくれるんですか!!まだ一個しか食べてなかったのにー!」
「しるかよっ。俺なんか一つも食べてないって!」
「こんなになっちゃって………。お菓子に謝ってください!」
「おまえが謝れよ!」
その時、軽くノックの音が聞こえた。今度は本当に相談者だろう。
理奈先輩が立ち上がりドアに近づく。開いて会話した後、その生徒を招き入れた。入ってきたのは私と同じ一年生の女の子だった。赤色のリボンで見分けがつく。どこか緊張した様子で促されたソファーにゆっくりと腰を下ろした。
「今お茶入れるわね」
そういうと理奈先輩はお茶を入れに行った。
「稲葉先輩、お客さんですよ」
「ふーん」
我が部では普段、部長が相談者の向かいに座り話を聞くことになっています。しかし、今日の先輩は魚臭くなったせいか、やる気がなさげです。
「ほら、早く動いてくださいよ」
「顔が濡れて力がでねーし」
どこのアンパンですか……。
困っていると、後ろから理奈先輩の声が聞こえた。
「稲葉がこんなだから、今日は秋菜ちゃんがやってみたらどう?ほら、同じ一年生同士の方が話しやすいと思うし」
「え?私ですか??」
こういうことは初めてだった。いつも部長の稲葉先輩が相談を聞いていたし、いないときは先輩二人のどちらかが代わりをしていた。
「そうだな秋菜、やってみたらどうだ?」
ソファで腕を組んでいる健吾朗先輩も同意してきた。
えっと、どうしよう、何話せばいいのかな……って、そんな悩む前に……えーーい!やっちゃえ!!
「私、やってみます!」
先輩達を一瞥し、ソファーに座る。
「ちゃんとやれよー」
稲葉先輩が言う。
あなたが言いますか……。
向かい合った相談者の顔をみる。とても困惑した表情だった。
ちょっと待たせすぎちゃったかな。
「こんにちわ。えっと、取りあえずお名前教えてもらっていいかな?」
「あ、一年二組の藤咲くるみです」
「くるみちゃんかぁ、わたしは…」
「秋菜さん、ですよね………さっき聞いちゃいました」
そう言ってくるみちゃんは薄く笑った。どうやら緊張が解けてきたようでほっとした。
「うん、それじゃあどんなこと相談しに来たのか、教えてくれる?」
私がそう言うと、視線を下げて言った。
「はい……実は、この学校に一つ上のお兄ちゃんがいるんですけど、私の大切なものを返してくれないんです」
「大切なものって、なにかな?」
「……ナイフです」
うわっ、とりあえずお兄さんが正しいんじゃないでしょうか……。
難しい顔になった私を見て、くるみちゃんは手をぱたぱたさせて付け加えた。
「あのっ!ナイフって言ってもとても小さなものなんです。転校して行ってしまった友達が最後に私にプレゼントしてくれたもので、とても大事にしてるんです!」
お友達もややこしいものプレゼントしたなぁ……。
「そっかー……でもやっぱり学校に持ってくるのはまずいんじゃないかな」
「はい、それで家においておこうと思ったら、それでもだめだ、俺が預かるっていうんです」
確かに危ないものですよね……。でもそこまで大事なものなんだったら………。
「分かった。私に任せて!きっと取り戻してあげる!」
言った途端に、くるみちゃんの顔がパーッっと明るくなった。
「ほんとですか!?ありがとうございます!!」
「うん、約束する!」
その後、お兄さんに関する情報を話してもらい、くるみちゃんは嬉しそうに帰って行った。
くるみちゃんが帰った後、私は先輩達に聞いてみた。
「それで、誰が会いに行きます?先輩達って同学年ですよね?」
「あれ?秋菜が行くんじゃねーの?」
稲葉先輩がさらりとそんなことを言う。
「そうね、さっき私が取り戻すって意気込んでたからてっきり」
理奈先輩も同意した。
「え!?私ですか!??」
「つべこべ言わずに行って来い」
「がんばってね」
「期待してるぞ」
有無を言わせぬ三人の視線が突き刺さる。
先輩方……、励ましありがとうございます。
というわけで、私がナイフを取り返しに行くことになりました。
さて、無事に取り返せるものでしょうか……。
分かっているかもしれませんが、この小説は完全に不定期更新です。楽しみにしている方は首を長くして待っていて下さいね!




