第2話 部員紹介とわたしのお菓子
午後の授業が終わり、私は部室に来ていた。HRが珍しく早めに終わったためか部室には私一人だった。一息つこうと相談者用のソファーに腰を下ろす。
我がボランティア部は、ここで相談者から話を聞いてそれを解決するっていう変わった部活です。直接相談できない人用にはポストも置いてあるんですよ。
ふう、それにしても誰もいないと暇ですね。お腹も空きましたし、早く来ないとソファーかじっちゃうぞ?
まあ、冗談ですけど。
そんなことを考えていると、コンコンっとドアをノックする音が聞こえた。
誰か相談者が来たのかな?
「はーい、どうぞ!」
私の声に反応して入ってきたのは男子生徒だった。ネクタイの色が青色だから二年生だ。
「こんちわ、俺笹原ってものですけど……あ、君一年生?」
「はい、そうですが」
私のリボンの色で判断したのだろう。というかこの人が猫の飼い主を探して欲しいと依頼してきた笹原さんだ。
「飼い主が見つかったって聞きました。よかったですね!」
「ありがと。でもまさかあんな放送するとは驚いたよ」
彼は少し照れたような顔で、頬をかきながら笑った。
「そうでしたかー」
そうですよねー。
「これ、そのお礼だよ。親が持ってけってうるさいからさ」
そう言って彼は菓子折りを差し出してきた。
「わっ、これって白熊屋のお菓子じゃないですか!」
これメチャ美味しいんですよ!そしてメチャ高いんですよ!
やばい、よだれ出る。
「こんな高いものいいんですか??」
「まあ、うちの親父の会社が作ってるから」
マジですか。
「そうでしたか、ありがとうございます!」
「おう、こっちこそありがとな。部長の稲葉にも伝えておいてくれよ」
「分かりましたー。またいつでも相談しに来てくださいね!」
お菓子のためにもぜひ……。
「それじゃあ」
ニコッっと笑うと彼は部室を出て行った。
私は菓子折りを机の上に置き、再びソファーに座った。
ガラスのテーブルを中心に向かい合う二つのソファー。完全にオフィス状態です。
しかもここはお茶もでるんですよ。
お茶を飲みながらゆっくりお客さんから依頼内容を聞くっていう感じです。
ただ、実際はなかなか来ないんですよね……お客さん。なので日頃は適当にくつろいで雑談しているわけです。
おっと、部活紹介している間にお菓子の包みが開いちゃいました。
しょうがないですねー。食べてしまいましょう♪
ふたを開けると、そこには私のお菓子たちがきれいに整列していた。さて、どれから食べてあげようかしら。
「君にきーっめた!」
その中の一つを手に取ると、袋を破りかぶりついた。
「うーん、おいしいぃ〜」
甘さと上品さが口の中に広がっていきます。きっと今の私は顔が緩みまくっていることでしょう。でも部室には私一人。ぜんぜんもんだいないです!
と、その時ドアがおもいっきり開けられた。片手で鞄を肩に引っ掛けながら入ってきたのは、部長の稲葉先輩だった。
「おう、あき…………な?」
緩んだ顔の私と呆気にとられた顔の部長が向かい合う。あれ?あれ?おはやいですね。
ややあって稲葉先輩が叫んだ。
「あーー!それ笹原の家からだろ!?勝手に食うなよ!よこせ!!」
「い、いあでふよー」
菓子折りを奪おうとする先輩に対して、私はもぐもぐしながらそれを抱え込む。
すると先輩は箱をつかみ強引に引っ張ってきた。私も負けじと引っ張り返す。お互い一歩も譲らない均衡状態。
「はなしてくださいよー!そもそも半分は私のじゃないですか!」
口に入ったのを飲み込んだ私は主張した。
「だから取りあえず俺が預かってだな」
「先輩全部食べる気ですね!?」
「そんなことしないっつーの!」
「信じられませんー!」
そして再び部室のドアが開けられた。入ってきたのは理奈先輩だった。背中まで伸ばした黒髪を束ね、優雅な足取りで入ってきた先輩は、菓子折りを引っ張り合う私達を見て失笑した。
「なにしてるのよ、あなた達」
「理奈せんぱ〜〜い!!稲葉先輩がわたしのお菓子を!!」
「おまえのじゃねぇだろ!」
「ほどほどにしておきなさいよ……」
理奈先輩は呆れた表情を浮かべたままそう言った。
この部には3人の先輩がいるのですが、そのうちの1人がこの方、2年生の河本理奈先輩です。成績は常にトップクラス、さらに学校中誰もが認める美人さんです。そして私がこの部活を続けている理由の90%を占めている存在です。この一風変わった部活が認められているのも、実は理奈先輩のおかげなんです。
誰にでも親切に接する先輩は後輩にも人気があるんですよ。
ああ、今日も凛々しいです・・・。
理奈先輩がソファーに座ると、またドアが開けられた。
やってきた三人目の先輩、健吾先輩は私たちを見ると微かに笑った。
「……………フンッ」
今の鼻ですよね!?鼻で笑いましたね!?
この人は浅井健吾先輩。常に冷静で寡黙な先輩です。精悍な顔立ちで、剣道とかやったら絶対似合いそうなんですが、剣道も弓道もまったくやったことないらしいです。家も普通の民家らしくて。
なんて、そうこう言っている間に、そろそろ腕の力が限界なんですが……。
「〜〜〜〜っ!」
「〜〜〜!!」
もはやお互い言葉も出ません。
私は必死に抵抗したが、やはり体力では稲葉先輩に敵わなかった。
最後の力を振り絞るが手を滑らせ箱を放してしまった。
ああ、わたしのお菓子、さようなら―――。
しかし急に放してしまったせいで、箱に詰まっていた私のお菓子たちは空中を飛行し、素晴らしい軌道を描きながら我らのアイドル、コリーのもとへダイブした。
あ、ちなみにコリーというのは、部室で飼っている魚のことです。
水槽で飼っているコリ何とかって種類の熱帯魚です。
あ、ちなみにわたしのお菓子たちを包んでる袋って紙なのでしみるんです。
きっと今頃水分を吸収して沈んでいるのでしょう。
というか、見れば分かります。
私のお菓子たちは、水を伴いながら水槽の底面を目指してゆっくりと沈んでいきました。




