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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』辺り
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桜か宴か(事務所員SS)




 四月上旬。

 標本木に開花した桜が五輪発見されて、約一週間。


 空は晴天。稀に強い風が吹くものの、おおむね微風。桜は八分咲き。

 絶好の、花見日和。


 花見といえば――、


「お花見団子よね!」


 恵未は三色団子を両手に持ち、上機嫌である。

 弁当には目もくれず団子を頬張る恵未に、凌は呆れ顔を向けた。


「あー、はいはい。花より団子花より団子」


 毎年、「先に弁当を食え!」と怒鳴っていた凌だが、何を言っても聞き入れられない事を悟ったらしい。自分の弁当を膝に乗せ、箸でつついている。


「恵未先輩! マカロンを作ってきたので、食べてください!」


 祐稀は紙皿に山積みになっているマカロンを、恵未へ差し出した。毎年可愛くラッピングを施して手作りの菓子を持ってきていたのだが、彼女も数年の時を経て「ガワより量だ!」と悟ったらしい。


 恵未は、祐稀ちゃんありがとー! と右手の団子を平らげ、マカロンを手に取った。左手にはまだ団子の刺さった串を持っている。


「今日も晴れて良かったねー! さっすが泰ちゃん!」

「はっはっはー! ワシ、なーんもしとらんけどな!」


 なにやらもう既に酒を煽っている所長が、紫頭の友人と肩を組んで笑っている。


 その隣では――少し距離を置いて――副所長がウーロン茶を飲み下した。

 舞ってる桜も綺麗だな。などと思いながら弁当の肉を口へ運んでいるわけだが……十四人中、一体何人が桜を見ている事か。


 満開を楽しめるのは、たったの数日しかない。見ないなんて勿体ないだろう。と潤は思う。しかしその意見を他人に押し付ける気もないので、黙っている。


 たまに風が吹くと花弁が舞い、それはさながら、薄紅色の雪花のようだ。冬が終わり、温暖な気候の始まりを告げる雪花。ともなれば、潤にとっては快く受け入れるべきものだ。


 微笑している潤を、妖怪の類いか何かのように見る後輩たち。


「副所長が笑うと、天変地異が起きそう……」


 ぼそりと言ったのは、営業部の金髪。部長に睨まれ、目を逸らせた。そんな伊織を、他の三人が「それ見た事か」と小突いている。


「はは。伊織、思った事全部口に出してると、いつか後ろから、刺されるか殴られるかするぞー」


 営業部の副部長は、おっかない事を言いながら笑い飛ばす。

 実際、刺したり殴ったりしそうな人物二人からの視線が、伊織を貫いていた。


 桜の木の下に埋まっていそうな顔面の一誠は、副所長も人間なんだ……、と染々呟いている。幸いその声は、誰にも届かなかったらしい。


 ピスミのTシャツを着ている最年少組は、幸せそうに豚カツ弁当をパクついていた。一誠程ではないにしても、太陽の光を浴びる時間が少ない二人なので、今日は血色が良い。

 いい気分転換になっているようだ。


 といっても、本来ならば中学生の二人だ。気分転換はもっと必要かもしれない。

 しかし、その事に気付くべき彼らの上司は、灰色頭の友人と騒いでいる。まぁ、彼が気付いたとしても何も変わらないのだろうが。


 事務所員の様子を眺めていた潤は、嘆息して、太腿の上にある弁当へ視線を落とした。舞い落ちてきた桜の花弁が料理の上に着地したのを見て、また口角が緩む。


 そして、またしても奇っ怪なものを見る視線を感じ、然り気無く表情を戻したのだった。

 




お花見シーズン到来!

という事で、《P×P》のお花見SSでした。

がんばって全員(取り敢えず)登場させました(笑)

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