月下の死神―潤side―(14歳SS)
枯れ木の枝についている火を絶やさないように、焚き火の番を始めてから数時間が経過した。
昼間は身を隠している、鹿や野犬を避けるために火を焚いているわけだけど、人間に見付かるリスクも高まる。
規則正しい寝息を隣から感じつつ、小枝を火の中へ投げ入れた。
今日は満月だけど、厚みのある雲が多い。
空からの明かりは、断続的にしか望めない状態だ。
大きな雲が頭上を覆い、丸い光を隠してから、結構な時間が経つ。
そんな暗闇の中で、人の気配がした。数は……五人、かな。
こっちへ近付いてくる。
俺は手をかざして火を消すと、腰の帯刀ベルトに太刀を装着した。
崩れた家の陰で息を潜める事、数十秒。
大人五人分の足音が聞こえてきた。全員、この国の軍服を着ている。
先頭を歩いているのが、きっと上官。
二十代かな……若そうだ。
でも、やらなきゃやられるから。仕方がない。
俺は気配を出来る限り消して、兵士たちの後ろへ回った。
それなりに訓練している軍人とはいえ、相手は只の人間。
対してこっちは、暗闇でも相手の気配が分かる。何人居るか、どこに居るか。もっと集中すれば、相手の心拍まで分かる。
だから、この人たちを一撃で殺す事も出来る。
一太刀、一太刀。確実に心臓を。
男の口を押さえ付けている指の隙間から、低い呻きが漏れ出た。
咄嗟に飛び退き、地面に倒れ込む男から距離をとる。
音に気付いた上官らしき男が、振り向いた。
そこを、後ろから突く。
刀身は肉と骨を突き破り、その切っ先は、男の顎の下に現れた。
柄に男の背中が当たったと同時に、刀を引き抜いた。
辺りが暗いから、血の色もわからない。墨汁みたいな液体が、飛沫を上げた。
早く帰らなきゃ。
でも、ちゃんと死んだか見届けないと安心出来ない。
不意に攻撃される可能性も考えて、近くにある壁に飛び乗った。
ここなら、周りがよく見渡せる。
そう思っていたら、雲から月が出てきた。
兵士たちはみんな倒れて――いや、ひとり動いてる。
最後に刺した、上官っぽい人。こっちを見てるみたいだ。
俺も、じっと様子を伺う。
数秒後。
彼は、何をするでもなく、動かなくなった。
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「どこ行っとったん?」
リュックを枕にして寝ている人物が、首から上をこっちへ向けてきた。
被せた砂を足で払い除けると、焦げた小枝が露になった。そこへ火を点ける。すると、灰色の瞳がふたつ、鮮明に浮かび上がった。
「野良犬が、五匹くらい居たんだ」
ふぅん、という返事を寄越された。
月は上の方にある。綺麗な満月だ。
まだ寝ていればいい、と言おうと、視線を下ろしたと同時に聞こえてきたのは、寝息。
俺は 、焚き火に新しい枝を数本、放り込んだ。




