年越し宅飲み(倖魅と尚巳のSS)
その男は、缶チューハイ・カクテルがぎっしり詰まったコンビニの袋を持って、現れた。
「やっほー! 尚ちゃん!」
大晦日恒例『ジャリの使いやあらへんで』をひとり炬燵で観ていた尚巳は、突然の訪問者に、きょとんと首を傾げた。
「どうしたんですか、倖魅先輩」
倖魅の部屋は、ふたつ隣。数十歩で行き来出来る距離にある。
寒い廊下で先輩を立たせているのも気が引けるので、尚巳は倖魅を室内へ招き入れた。
倖魅は炬燵の上に缶の酒を並べ、はぁぁー、と長い息を吐いた。風呂上がりなのか、いつもは外へ跳ねるようにセットされている髪が、ストレートになっている。服装はボア素材のルームウエア。首にはネックウォーマー。いつも左耳にある三角ピアスは見当たらない。
そう。お泊まり準備万端、といった装いなのだ。
「ひとり身同士、仲良く年越ししようと思ってー」
毎年、恵未ちゃんや潤ちゃんと過ごしてたんだけどさぁー。と紫頭は頬杖を突いた。
尚巳は、そうなんですか、と苦笑する。名の挙がったふたりがふたりとも、結婚したのだから、致し方ない。
「体に触ってきたら、問答無用で帰って貰いますけどね」
と、しっかり釘を打って、男ふたりの年越し飲み会を始めた。
アルコール度数三パーセントの酒が入っていた缶が、次々に空いていく。尚巳は家に備蓄していたスナック菓子を食べながら、酔いつぶれている倖魅の話し相手をしていた。とはいえ、ほぼ相槌をうつのみなのだが。
倖魅は見事な泣き上戸で、尚巳は事務所イチの聞き上手。といっても、倖魅は酔っている時の事をあまり覚えていない。尚巳はそれを知っているので、テレビの音をイヤホンで聞きながら、倖魅に相槌をうっているわけだ。
それでさぁー、だからさぁー、やんなっちゃうよねー、などというフレーズを何回も聞きながら、尚巳も適当に酒を口へ運ぶ。
度数は低いが、量が蓄積されると……倖魅のように、泥酔もするだろう。
幸い、尚巳は酒に強い。はいはい、分かりますとも、大変ですね、などと言いながら、倖魅の背を擦る。たまに、本当に聞いてるのぉー? という、文句を受けながら。
そんな状態が数時間経過した。
観ているテレビは、収録番組。つまり、カウントダウンはない。
画面の隅にあるワイプで出演タレントが、「あ、今、年越した?」「明けましておめでとうございますー」と言ったので、新年になった事を知った。
倖魅は喋り疲れと泣き疲れから、もう眠ってしまいそうだ。
こくりこくりと船を漕ぎ、元々垂れている目を、糸のようにしている。そんな倖魅に毛布を掛けると、尚巳は一度、伸びをした。
「はぁー。んじゃまぁ、缶を片付けますか」
新年早々、愚痴に付き合わされ、他人が飲みまくって散乱した空き缶の処理をする羽目になった尚巳。
――こりゃ、今年も一年こんな感じで過ぎていくんだろうな。
転がった缶から溢れ出た酒を拭きながら、尚巳は嘆息した。




