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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』後
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『恋慕事情』のその後(クリスマスSS)

『ウサギ印の恋慕事情』のネタバレを含みますが、「そんなの、気にしないぜ!」という方は是非どうぞ!






 世間はクリスマス。店には鶏肉やケーキが並び、街はイルミネーションに彩られる。賑やかで華やか。コンビニには“お一人様用ケーキ”なるものも並び、それがまた可愛らしい。


 そんなお祭りのような賑わいが、バレンタインまでは続く。それが、現代の日本。


 クリスマスというのは、十二月二十四日から、二十五日の日没までに祝うのが、一般的な認識だ。会社のクリスマスパーティーは、出勤日の関係で二十五日に行った。

 因みに、その“クリスマスパーティー”が終わったのが、つい五分前。厳密には、新婚さんは(はよ)う帰りー。と所長に追い出されたのだが……。


 凌は横目で、歩きながらマカロンを頬張っている妻を見た。例え“お一人様”であろうと、平気でケーキをワンホール購入し、平らげる人物。

 食べ歩きをしていて行儀は悪いし、口の端々に生クリームやらチョコレートやらマカロンのカスやらが付いている。

 ただ、幸せそうに物を食べている様子は、小動物のようで少し可愛いな、と心の片隅でこっそり思った。


 赤い舌が、ふっくらとした唇に付いている食べかすを舐めとる様子に一瞬どきりとしたが、すぐに怪訝そうな顔を向けられ、そんな気持ちは吹き飛んだ。

 何よ。(なん)か文句あんの? と、目が言っている。


「何でもねーよ」


 凌が言うと、妻は紙皿に乗っているマカロンをひとつ手に取り、凌へ差し出した。渋々、といった表情で。


「いや、それが欲しいわけじゃねーから……。お前、食えよ」


 それを聞いた妻は、凌へ向けていた手をUターンさせて、自分の口へ持って行った。実に幸せそうな顔で。


 見ているだけで、胸焼けと胃もたれを起こしそうだ。

 隣から漂ってくる甘い匂いは、エレベーターの室内をも包み込んでいる。


 凌は今更気付いた。


(っつーか、こいつとはまだ一緒に住んでねぇ……!)


 住んでいる(フロア)こそ同じだが、何せ、入籍してまだ数時間しか経っていないのだ。荷物は勿論お互いの部屋にあるし、そもそも一緒に寝るスペースなど、ない。


 ってか、ちょっと待て! 一緒に寝る? ……一緒に? 夫婦なんだから、そうなのか……? そうなるのか? いやいや。最近は寝室も分かれてる夫婦が多いって、いつかテレビで言ってたぞ。でもそれって、家庭内別居みたいなモンなんじゃ……?

 凌が悶々と考えていると、住居のある階に着いた。


 そして妻はなに食わぬ――菓子は食っているが――顔でエレベーターから降り、なに食わぬ顔でこう言った。


「じゃ、また明日。おやすみ」


 そして、なに食わぬ顔で自分の住居へと消えていった。


 何を、かは定かではないが、少しだけ何かを期待していた凌は、ぽつりとひと言。


「……うん。だろうな」


 逆に、急に態度を変えられても不気味というものだ。

 凌はひとり頷くと、自分の部屋へ帰宅した。




 この別居状態は、年明けに所長が「まだ一緒に住んどらんの!?」と、ふたりを強制同居させるまで続いたとか、どうとか。




特に進展のないふたりです(笑)

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