十一月二十二日(空中父子のSS)
「ただいまー」
帰宅を知らせるが、返事はない。だが、玄関に靴はある。
空中景は、白衣を脱ぎながら室内を見回した。
壁にある時計の針は、頂点から僅かに長針がずれた状態だ。
白衣を椅子の背凭れへ乗せる。スマートフォンを操作しながら、扉の更に向こうの、奥の部屋へと向かった。
「今度は何を作ってるの?」
義息子に問われ、謙冴は顔を上げた。今日は休日だ。いつもはオールバックになっている髪が、下ろされている。
景は、髪を下ろした方が若く見えるのにな、と思ったが、口には出さなかった。
謙冴が作っているものは――形から察するに、テーブルだ。天板の一部分が四角く窪んでいる。その窪みは、一般的なトレーの大きさに思える。
「もうお昼だよ。何が食べたい? 蕎麦でも食べに行く? っていうか、今日は蕎麦を打たないんだね」
景の言葉に、謙冴は腰を伸ばし、工具を作業台へ置く。
掃除機で木屑を吸い取り、初めて口を開いた。
「景は、何が食べたいんだ?」
「今日は回転寿司記念日だから、キャンペーンをやってるみたいなんだよね。スマホにクーポン来てた」
つまり、本音では回転寿司屋へ行きたいらしい。
反対する理由もないので、謙冴は頷いた。
「あ、回らない寿司でもいいよ」
もう、“回転寿司の日”とは関係のない方向へ向かっているが、景の発言に、謙冴は再度頷いた。
この流れも、景の思惑通り。謙冴を寿司の気分にさせておいて、人の多い回転寿司より、落ち着ける寿司屋を提案。となると、人混みを嫌う謙冴は、回らない寿司屋を選ぶ。
謙冴は謙冴で、そんな景の考えを理解している。
というわけで、空中父子の本日の昼食は、寿司に決まった。
11月22日は、大工の日です!
私の実家の家業が大工でしてね。
日曜大工が趣味の、謙冴を書くしかないな! と思い至った次第でございます。
因みに謙冴が造っているのは、子どもが飲み物を溢しても大丈夫なテーブルです。
4月に出産予定の、甥の子ども用。
休みが少ないから、半年前から取り掛かっています(笑)




