いい夫婦の日、らしい(前編)【BL】
いつもよりBL色濃いめです(当社比)。ご注意下さい。
(とはいえ、書いてる本人は、BLのつもりは全くありません笑)
あと、泰騎の気持ち悪さも濃いめです。ご注意下さい。
キッチンから聞こえる、ウインナーを焼く音で目を覚ます。――のが、一ヶ月前までの、潤の平日の朝だった。
カシャシャシャシャッ。
軽快な連写音で、潤は目を覚ました。
超絶低血圧の潤は、寝起きがとてつもなく悪い。“目を覚ました”というより、“意識だけが起きた”と言った方が適切かもしれない。体は、まだ寝ている。
潤が薄目を開けると、スマートフォンで写真を撮っていた泰騎が、撮れた画像の確認をしていた。
「ははは! 涎垂らして寝とるから、写真撮ったー!」
泰騎は笑うと、涎にまみれている潤の口に自分の唇を押し付けた。そして今度は、撮れた写真を本人へ見せる。
確かに、間抜けな顔で寝ているな。と、まだ覚醒しきれていない頭で、潤は思った。
しかし、何で連写する必要があるんだ? とも思ったが、訊くには至らない。寝起きで、ろくに喋れないからだ。
「目を開ける瞬間とか、撮れるかなぁー? って、思ったんよ」
泰騎は訊かれてもいないのに、連写した理由を述べた。
まぁ、撮れんかったけどな。と肩を竦める。
「朝飯出来とるから、動けるようになったらおいでー」
告げると、泰騎はキッチンへ消えた。
テーブルには、白米、目玉焼き、ベーコン、ミニトマトが載っている。
今日は土曜日だ。仕事が休みなので、いつもより起床が三十分遅い。
「いただきます」
辛うじて絞り出された、潤の声。目も、開いているのかいないのか、分からないくらい細い。
泰騎はというと、潤の目玉焼きにポン酢を掛けて、自分のものには醤油を垂らしている。
いつもは、ふたりとも醤油を掛けるところなのだが――。
「あれ? ポン酢じゃなかったん? 潤、なんかさっぱりしたもん食べたそうじゃったから」
ポン酢で良いのだ。
間違いなく、潤はポン酢の気分だった。
潤は、これで良い、という意味でかぶりを振り、箸を白身に差し込んだ。
今日も、絶賛ぼんやり寝起きじゃなぁー。寝ながら飯食う赤ん坊みたいじゃわ。あー、あー、口の端から米粒溢れとるで。可愛すぎじゃろ。これを独占観賞出きるとか、堪らんわ。
などと、気持ちが悪い程の愛情を向けられているとは露知らず。潤は黙々と、たまに船を漕ぎながら、食事を進めている。
潤が寝起きの悪さをここまで自然体で曝け出すのは、この空間に自分たちしか居ないからだという事を、泰騎は知っている。
だからこそ、緩みそうになる表情をいつもの笑顔で隠してきた。
一ヶ月前までは。
今となっては、表情筋が緩んで仕方がない。隠そうとも思わない。ふたりしか居ないこの空間では、隠す意味がなくなった。泰騎は一番の柵から解放され、それはもう、幸せな日々を送っている。
食事を始めて数分。
潤が不思議そうに泰騎を見るので、泰騎は潤の口元を指差した。
「あー……」
潤は無感動で間抜けな声を漏らし、米粒を摘まんで口へ入れた。
この、かなりだらしのない様子が、潤の朝だ。
倖魅が「絶対、後輩ちゃんたちに見られたらダメだからね!」と念を押すところでもある。
因みに、常に気を張っている遠征先では、幾分か覚醒が早い。
「今日、どっか行く?」
潤の体が大分目覚めてきた事を感じ取った泰騎は、そんな提案を投げ掛けた。勿論、潤のスケジュール帳が空欄だ、という事を承知した上での発言だ。
潤は少し冷めたウーロン茶を飲みながら、二回、瞬きをした。
「紅葉を見るなら、どこが良いんだ?」
神宮寺外苑、小石川後楽園、庭園美術館、武蔵野公園、日比谷公園……どこも人が多そうだな。という、声に出されていない部分も汲み、泰騎は顎に手を当てた。
今まで、散々という程“カノジョ”と出掛けたスポットを思い起こす。ただ、なんとなく、それらは避けようと“その他の場所”の記憶を手繰った。
「殿ヶ谷戸庭園とか行く? サザンカは見頃が終わったかもしれんけど、イチョウとモミジは時期じゃと思うで」
見た目はなかなかに北欧系の潤だが、日本庭園や日本建築物好きだ。その辺りの好みも、しっかり考慮した上での提案だった。
「なら、その辺りで……」
「よっしゃ。なら、電車で行って、テキトーにぶらぶらしよか」




