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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』後
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いい夫婦の日、らしい(前編)【BL】

いつもよりBL色濃いめです(当社比)。ご注意下さい。

(とはいえ、書いてる本人は、BLのつもりは全くありません笑)

あと、泰騎の気持ち悪さも濃いめです。ご注意下さい。






 キッチンから聞こえる、ウインナーを焼く音で目を覚ます。――のが、一ヶ月前までの、潤の平日の朝だった。




 カシャシャシャシャッ。


 軽快な連写音で、潤は目を覚ました。


 超絶低血圧の潤は、寝起きがとてつもなく悪い。“目を覚ました”というより、“意識だけが起きた”と言った方が適切かもしれない。体は、まだ寝ている。


 潤が薄目を開けると、スマートフォンで写真を撮っていた泰騎が、撮れた画像の確認をしていた。


「ははは! (よだれ)垂らして寝とるから、写真撮ったー!」


 泰騎は笑うと、涎にまみれている潤の口に自分の唇を押し付けた。そして今度は、撮れた写真を本人へ見せる。

 確かに、間抜けな顔で寝ているな。と、まだ覚醒しきれていない頭で、潤は思った。

 しかし、何で連写する必要があるんだ? とも思ったが、訊くには至らない。寝起きで、ろくに喋れないからだ。


「目を開ける瞬間とか、撮れるかなぁー? って、思ったんよ」


 泰騎は訊かれてもいないのに、連写した理由を述べた。

 まぁ、撮れんかったけどな。と肩を竦める。


「朝飯出来とるから、動けるようになったらおいでー」


 告げると、泰騎はキッチンへ消えた。




 テーブルには、白米、目玉焼き、ベーコン、ミニトマトが載っている。

 今日は土曜日だ。仕事が休みなので、いつもより起床が三十分遅い。


「いただきます」


 辛うじて絞り出された、潤の声。目も、開いているのかいないのか、分からないくらい細い。


 泰騎はというと、潤の目玉焼きにポン酢を掛けて、自分のものには醤油を垂らしている。

 いつもは、ふたりとも醤油を掛けるところなのだが――。


「あれ? ポン酢じゃなかったん? 潤、なんかさっぱりしたもん食べたそうじゃったから」


 ポン酢で良いのだ。

 間違いなく、潤はポン酢の気分だった。

 潤は、これで良い、という意味でかぶりを振り、箸を白身に差し込んだ。




 今日も、絶賛ぼんやり寝起きじゃなぁー。寝ながら飯食う赤ん坊みたいじゃわ。あー、あー、口の端から米粒溢れとるで。可愛すぎじゃろ。これを独占観賞出きるとか、堪らんわ。


 などと、気持ちが悪い程の愛情を向けられているとは露知らず。潤は黙々と、たまに船を漕ぎながら、食事を進めている。


 潤が寝起きの悪さをここまで自然体で(さら)け出すのは、この空間に自分たちしか居ないからだという事を、泰騎は知っている。

 だからこそ、緩みそうになる表情をいつもの笑顔で隠してきた。

 一ヶ月前までは。


 今となっては、表情筋が緩んで仕方がない。隠そうとも思わない。ふたりしか居ないこの空間では、隠す意味がなくなった。泰騎は一番の(しがらみ)から解放され、それはもう、幸せな日々を送っている。


 食事を始めて数分。

 潤が不思議そうに泰騎を見るので、泰騎は潤の口元を指差した。


「あー……」


 潤は無感動で間抜けな声を漏らし、米粒を摘まんで口へ入れた。

 この、かなりだらしのない様子が、潤の朝だ。

 倖魅が「絶対、後輩ちゃんたちに見られたらダメだからね!」と念を押すところでもある。

 因みに、常に気を張っている遠征先では、幾分か覚醒が早い。


「今日、どっか行く?」


 潤の体が大分目覚めてきた事を感じ取った泰騎は、そんな提案を投げ掛けた。勿論、潤のスケジュール帳が空欄だ、という事を承知した上での発言だ。

 潤は少し冷めたウーロン茶を飲みながら、二回、瞬きをした。


紅葉(こうよう)を見るなら、どこが良いんだ?」


 神宮寺外苑、小石川後楽園、庭園美術館、武蔵野公園、日比谷公園……どこも人が多そうだな。という、声に出されていない部分も()み、泰騎は顎に手を当てた。

 今まで、散々という程“カノジョ”と出掛けたスポットを思い起こす。ただ、なんとなく、それらは避けようと“その他の場所”の記憶を手繰った。


殿ヶ谷戸(とのがやと)庭園とか行く? サザンカは見頃が終わったかもしれんけど、イチョウとモミジは時期じゃと思うで」


 見た目はなかなかに北欧系の潤だが、日本庭園や日本建築物好きだ。その辺りの好みも、しっかり考慮した上での提案だった。


「なら、その辺りで……」

「よっしゃ。なら、電車で行って、テキトーにぶらぶらしよか」




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