十一月十一日(BL風味SS)
「今日は“ポッキィとポリッツの日”なんですよー!」
叫ぶと、紅一点はデスクの上に箱をぶちまけた。菓子の箱だ。
ポッキィと、ポリッツの。
“11月11日”は、“1”という数字がその菓子の形状に似ている事から、日本記念日協会から認定を受けて誕生した、記念日だ。
つまり、菓子会社が作った、菓子の記念日である。
《P×P》幹部の紅一点である恵未は、目を輝かせながら箱と、その中にある小袋を開け、棒状のチョコレート菓子を頬張り始めた。
現在は勤務時間中だ。にも関わらず、そんな彼女に「仕事は?」等と訊く者は居ない。
因みに今、この“所長室”に居るのは、所長と恵未のみだ。
「恵未ちゃーん。ひと箱頂戴」
所長は、二十はあるであろう菓子の箱を指差した。
恵未は「勿論です! 泰騎先輩の分もありますよ!」と、赤が基調となっている箱を、所長である泰騎へ差し出した。
「ありがとー。これでポッキィゲームしよーっと」
所長は、何やらご機嫌である。
「ポッキィゲームって、何ですか?」
「えっとな、ふたりでポッキィの端と端を咥えて、食べ進めていくんじゃで」
「なるほど! 多く食べた方が勝ちなんですね!」
「あー、ちょい違うけど、まぁ、恵未ちゃんにとってはそうかもなぁ……」
泰騎が曖昧な返事をしていると、所長室の入り口が開いた。
入ってきたのは、地味顔黒髪の尚巳と、イケメン白髪の凌だ。
通常より一時間ほど遅い時間に戻ってきた。
「今日は折り紙の日なんで、施設の子どもたちに折り紙をプレゼントしてきたんですよ」
ふたりは微妙に揃いきっていない声でそう言うと、各々のデスクへ着いた。
凌の目が恵未を捉えた時、何でこいつは仕事もせずに菓子を食ってんだ? と言ったように見えたが、言葉には出されなかった。
「ところで、何で泰騎先輩は超ご機嫌なんですか?」
凌が恵未を睨んでいる横で、尚巳が泰騎に向かって疑問を口にした。
「恵未ちゃんに、ポッキィ貰うたんよ。これで、ポッキィゲームしよ思うてな」
にこにこ……否、ニヤニヤしている所長に「誰と?」と問う者も、この場には居ない。相手が分かりきっているからだ。
そうこうしていると、また入り口が開いた。
入ってきたのは、ひょろ長い体の紫頭。訊いてもいないのに、今まで何をしていたのかを報告してきた。
「今日は、電池と配線器具の日だからさ。ウチの部署の配線を一部新しくしてたんだよねー」
報告を終えた倖魅は、きょろきょろと辺りを見回して小首を傾げた。電池と各種配線の領収書を持って。
「あれ? 潤ちゃんは?」
「潤先輩なら、何かの書類を持って本社に行ってたわよ」
もうすぐ帰ってくると思うけど。と恵未が言った時、入り口から、赤い目をした生白い肌の、男か女が分かりにくい顔をした人物が入ってきた。
それと同時に、倖魅が領収書を押し付ける。
「潤ちゃん! 受け取ってー!」
潤は、ああ、と領収書を受け取り、自分のデスクへと向かった。
隣では所長が、ポッキィの箱を、見せ付けるように持っている。何かを訴えるような熱視線を、潤へ向けて。
だが、潤にはその視線の意味が読み取れない。
やきもきした泰騎は、痺れを切らして叫んだ。
「ポッキィゲーム、しよー!」
「いや、今は甘いものは要らないから」
さらっと言い躱され、フリーズする所長。
そんな彼に向かって、今度は潤が、コンビニで買ってきた、と白い買い物袋を向けた。
所長はきょとんとして、ビニールの袋を受け取る。中身は、ナッツ類と数種類のチーズ。
「今日はピーナッツとチーズの日だからな。今日の晩酌用」
自分は酒を飲まないのに、わざわざ買ってきたらしい。
泰騎はポッキィの箱と袋の中身を交互に見やり、唸った。
「う、あ……。ぁぁあぁ…………。…………、うん。ありがと。今晩、一緒に食べよ」
潤に向かって白い歯を見せて笑うと、泰騎はポッキィの箱を開けた。
11月11日は、色んな記念日だなぁー……と思って書いたお話であります。
記念日、書ききれませんでした(笑)




