友達いるかな(凌の休日SS)
「付き合ってください」
半月ほど前、オレに向かってそう言った女性が、目の前に現れた。
彼女は、営業先で世話になっているアパレル店員だ。年齢は二十代前半。詳しくは知らない。
キャラメル色の髪に、目には付けまつげ。真っ赤な唇は、ラメ入りのグロスが塗られて、テラテラしている。
スケジュール帳の補充をしようと街へ出たら、ばったり遭遇してしまった。
「芹沢くーん! 偶然だね!」
こんな感じで。
咄嗟に、頭と表情を営業モードに切り替える。
「小林さん、こんにちは。今日はお休みなんですね」
精一杯笑うと、相手はすがるような上目使いで近付いてきた。
「芹沢君のお友達でぇー、よさ気な人がいたらぁー、今度紹介して下さいねぇー!」
間延びした喋り方で、そんな要求をされた。
この前、オレに告って来たよな? まぁ、丁重に断ったけど。しかし、自分をフッた相手に、よくこんな事が言えるな。
っつーか、オレの事が好きだから告って来たんじゃねーのか?
移り気、早っっ!
これだから、女は苦手だ。
「小林さんに見合う奴がいたら、紹介しますね」
テキトーにあしらって、テキトーにその場から立ち去った。
数十歩進んだ辺りで、ふと、足を止める。
あれ?
オレって、友達いるっけ?
尚巳とはよく一緒に居るけど、友達ってのとは違うし。
会社関係以外で……友達……?
思い付かない。
いや、待てよ。……と頭に浮かんだ、薄栗色の頭と赤目の男を、頭から追い出す。
まさか、オレって、友達いないのか?
何だか胸元がざわつく思いでいると、スマホが震えて、電話の着信を知らせた。
相手の名前を見ると、一気に気持ちが穏やかになるのを感じた。
蜂蜜色の髪をした、兄貴肌の友人が脳裏に蘇る。
よかった。いたぜ、友達。
何かに勝利した気分に浸っていると、電話口で声がした。
『あ、凌。久し振りだな。もうすぐ景が日本に帰るっつーからさ。土産もあるし、また都合の良い日を第三希望まで教えてくれ』
やっぱこの声、落ち着くな。
潤先輩の次くらいに。
少し話して、空いてる日は後日改めて連絡する旨を伝えてから、電話を切った。
オレは、聞いて貰いたい愚痴の内容を考えながら、文房具屋へ向かった。
『世界の平和より自分の平和』のキャラが出ていますが……。
凌って、知り合いは多くても友達は少ないよな……という話でした。




