表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』辺り
17/34

ランチ会議~シルバーウィークに向けて~




 顔は日焼け止めクリームのみで、ノーメイク。

 服装といえば、スポーツ用品ブランド“アデダス”のロゴが入った、黒いTシャツ。ボトムスは、深い色のジーンズ。リュックは、どこのブランドかもよく分からない。足元は、Tシャツとは別のスポーツブランドの、スニーカー。


 花の二十歳。

 女子力ゼロ。


 そんな彼女――恵未(えみ)が向かうのは、喫茶店。お目当ては、タワーの如く(そび)える姿が若者にウケている、フルーツ・パフェだ。しかも、てっぺんには花火が刺さって出てくるらしい。


 行列に並ぶ事、二十分。

 テーブル席へ通された。

 お供を引き連れ、席へ向かう。


 同行しているのは、真っ赤な瞳の北欧系長髪美女と、紫色の髪と目の長身細身オカマ――に見える、日本国籍成人男性のふたりだ。

 店内の客は、この一行に釘付けである。

 なんて統一性の無い三人組なんだ。という疑問の目が、大半を占めている。


 そんな好奇な視線に慣れている三人組は、視線に気付かぬふりをして、案内された席へ着いた。


「私はフルーツタワーパフェですね!」

「ローストビーフ」

「ボクはフィッシュバーガーかなぁー。あと、オレンジアールグレー。食事と一緒にお願いしまーす」


 こうして届いたのが、彩り鮮やかな細長いパフェと、ロールパンが添えられたローストビーフのプレートと、フライドポテトが添えられたフィッシュバーガーのプレートと、輪切りのオレンジが入ったドリンクだ。


 パフェに刺さっている手持ち花火に点火がされ、黄金の火花が散った。


「綺麗ですねー!」


 と恵未が気持ちを上げている間に、花火は鎮火した。


(じゅん)先輩の出す火花の方が綺麗ですよ」


 恵未は、燃えカスとなった花火を抜きながら、思い出したように言った。

 潤は、そうか、と返しつつ、色素の薄い長い髪を後ろで束ねている。


 そんなふたりのやり取りを遮り、紫頭の倖魅(ゆきみ)が話題を変えた。


「シルバーウィークはどこに行こうかぁー」

「まだ暑いし、キャンプとかどう?」

「えー? キャンプするなら、冬が良いよー。この時期は虫が出るもん」

「アンタは相変わらず、ナヨっちぃわね……」

「ねー、潤ちゃんは何がしたい?」


 恵未から発せられるジト目視線を避けつつ、倖魅が潤へ話を振った。

 潤は口の中にある肉を飲み下すと、無言で考える素振りを見せた。潤の視線の先には、ゴミと化した手持ち花火。


「花火も良いな……」


 近年は花火を禁止する場所が増え、東京で花火をしようとなると、少しばかり厄介だ。

 そんな事は、潤も重々承知している。ただ、目の前に花火があれば、自然と思考がそちらへ向いてしまう。


「良いですねー、花火!」

「どうせやるなら、打ち上げるのもやりたいなぁ。ボク、落下傘好きー。今の内に買っとかなきゃ、お店からなくなっちゃうねー」

「鳥取支社に、敷地内で花火をする許可を取りましょ」

「じゃ、ボクやっとくねー」


 ふたりはノリノリだ。


 そんな流れでシルバーウィークのスケジュールを立てつつ、食事を楽しむ一行。

 そんな空気を引き裂く、悲鳴。

 女性の声だ。厨房の方から聞こえた。

 何だろうかと、まばらに席を立つ客たち。


「何だろうねー?」


 さして興味がなさそうに、倖魅が言った。

 どうでもよさそうに、恵未が答える。


「ゴキブリでも出たんじゃない?」


 そして厨房から飛び出してきた、丸い物体。

 ネズミだ。大きい。そして、よく太っている。しかし速い。


「恵未ちゃん、握りつぶしちゃいなよ」


 フライドポテトを咥えたまま、倖魅が言った。

 玄米フレークを噛みながら、恵未が答える。


「嫌よ。あいつら、バイ菌だらけじゃない。それに今、パフェ食べてるし。早く食べなきゃ、アイスが溶けるわ」


 ふたりが言い合っている横では潤が、テーブルに備え付けられている爪楊枝を三本、取り出していた。


「恵未、客の注意を」


 と言ったところで、恵未は無言で立ち上がり、トイレの方向へ歩き、ある程度進んだ所で、叫んだ。


「きゃぁあああ!! ゴキブリ!!」


 客の視線が、一斉に恵未へ向く。

 潤は爪楊枝を思い切り投げつけ、ネズミを串刺しにして動きを止め、一瞬で燃えカスへと変えた。


 敏感な客は、なんか臭くない? などと言っていたが、それもすぐに止んだ。


「あ、ゴキブリかと思ったら、おもちゃだったわ。お騒がせしました」


 恵未は床に落ちていた――実際には“床にわざと落とした”――ゴム製のゴキブリを摘まんで、他の客へ見せた。客からは安堵の息や、おもちゃでも嫌だという声が漏れている。

 倖魅は、黒い燃えカスとなったネズミを見下ろし、嘆息した。


「潤ちゃんの居る飲食店に入ったのが、運の尽きだよねー」

「さすがに、ドブネズミは保護対象外だからな」


 潤は小さく合掌し、フォークを握り直した。

 席へ戻ってきた恵未は、人に見られないようにゴキブリのおもちゃをポケットへしまい、持ち手の長いスプーンを握る。


「ところで恵未ちゃんは、いつもゴキブリ(それ)を持ち歩いてるの?」

「そんなわけないでしょ。ジーパン、洗い忘れてたのよ」


 倖魅の質問に答えた恵未は、溶けたアイスにスプーンを突き刺した。

 

 

 

 


『ウサギ印の肝試し』で登場した、ゴキブリおもちゃが再登場(笑)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ