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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』辺り
14/34

ウサギ印の肝試し(上)【ギャグ】

長いので、上中下に分けました。

時系列は『13日の金曜日』の年の8月。

勿論、この話だけでも読めますので、楽しんでいただけると幸いです。


見落とすレベルのGLを含みます。


書いてから気付きましたが、『呪い指輪の家』に似た設定が出てきます。

オマージュとして捉えていただけると有り難いです。






 今日は八月十二日。明日は盆の入りであり、一般的な会社員であれば、盆休みの始まる日でもある。


「肝試しをやってみたい!」


 叫んだのは、恵未(えみ)だった。ショートカットの黒髪に、健康的な体系の彼女は、花畑を目の前にした少女のように瞳を輝かせている。


「お前、いくつだよ」


 と、恵未のテンションと真逆なトーンで突っ込んだのは、恵未の斜め向かいに座っている、(りょう)だ。白髪の長い前髪が、左目を隠している。


「二十歳よ! はたち! この前誕生日会したでしょ!」

「成人した大人が、肝試しって……っていうか、霊だのなんだのが普通に見えるオレらが肝試しって……」


 呆れた様子で、凌は視線をノートパソコンから離そうとしない。恵未は「私は視えないわよ」と、頬を膨らませた。


「でも面白そうだよな、肝試し!」


 恵未の提案に乗ったのは、同じく二十歳の尚巳(なおみ)だ。太めの眉に三白眼。不細工なわけではないが、特徴のない顔をしている。

 尚巳はノートパソコンから顔を上げ、向かいに座っている恵未に視線を向けた。


「昨日の夜、お化けドッキリやってて、楽しそうだったんだよなぁー」

「それそれ! 私もそれ見たのよ!」

「あー、壁から絵画が落ちたり、天井から水がしたたり落ちてたアレか」


 凌がやっと、パソコンから視線を外した。


「何よ。凌も見たんじゃない」

「見たからって、やりたいとは思わねーよ」


 凌はEnterキーを押すと、パソコンを畳んだ。


「えー? ええが、肝試し! やろやろ!」


 ノリノリで挙手したのは、この事務所の所長だ。勢いよく立ち上がった拍子に、ゴーグルに押さえられている灰色の髪が、ポフンと跳ねた。


「そうと決まれば――」


 と、所長はスマートフォンを取り出し、どこかへ電話を始めた。




 副所長が《P・Co》本社の総務部から帰って来ると、所長はホワイトボードを叩いて声を上げた。


「っちゅーわけで、十九日火曜日の二十時から肝試し大会をやるでー!」

「唐突だな」


 左目に(うっす)らと“人”のような傷を持っている副所長は、総務部から受け取った封筒の中から書類を取り出しつつ、ピンク掛かった赤い瞳をホワイトボードへ向けた。ホワイトボードにはでかでかと、こう書かれている。


 “第一回 肝試し大会”


 その下に、日時と場所が書かれている。

 所長はペンでコンコンと、開催場所の書かれている欄を差した。


「発案者は恵未ちゃんな。で、ワシらが墓場で肝試ししたって、つまらんじゃろ? 作りもんの方がビックリ出来ると思うんよ」


 “シャイニングハイツ一号館”と書かれている。名前から滲み出るアパート感に、副所長は首を傾げた。


「ワシの知り合いがアパートの管理人しとるんじゃけど、自殺者続出で入室者がおらんらしくてな。アパート丸々お化け屋敷にしたんよ。結構繁盛しとるんじゃけど、盆明けの平日なら客が少ねーからって、貸し切りにして貰ったで」


 副所長は、そういう事か、と納得し、手元の書類へ目を落とした。それと同時に、入り口の扉が開いて、紫色の髪と目をしたひょろ長い男が入ってきた。真夏だというのに、首元には白い薄手のマフラーが巻かれていて、はためいている。

 ホワイトボードに書かれている内容と全く同じ事の書かれたプリントを数枚、掲げて言った。


「後輩ちゃんたちに、肝試し大会のお知らせしてきたよー」


 持っている紙を各々へ配り、紫の人物――倖魅(ゆきみ)は自分の席へ腰を下ろした。


「あ、(たい)ちゃん。(きょう)ちゃんとトールちゃんと(えい)ちゃんは合コン行くからパスだってー。何でも、お盆中激務の店舗が落ち着くのがそのくらいで、その日しか予定が合わせられなかったとか何とか。で、イオちゃんもデートが被ってるんだって。他の皆は参加OKだよ」


 倖魅の報告を聞いた所長――泰騎(たいき)は、参加メンバーの名前を書き出しながら大きく頷いた。


「うんうん。営業部はアクティブでええなぁー。んじゃあ、十人で行こか。いやぁー、偶数で良かったわ―。これで、ふたりひと組のペアが作れるな! (じゅん)は番号札作ってくれ!」


 泰騎は潤――副所長――に紙を渡すと、ホワイトボードの余白に落書きを始めた。


 一分後には、1から5までの数字の書かれた紙が二枚ずつ完成し、丸い穴の開いた箱へ収められた。

 ホワイトボードはというと、耳と手足――正確には、四本の足――の異様に長いウサギの絵に埋め尽くされている。


「じゃあ、ワシは番号クジ持ってってくるわー」


 と、所長自ら箱を持ち、所長室から出て行った。




 クジの結果が出揃ったところで、泰騎はホワイトボードをひっくり返し、真新(まっさら)な白い画面に、1から5の数字を書き出した。更に、数字の下に人物名を続ける。




1、ワシ・潤

2、倖魅・一誠(いっせい)

3、大地(だいち)(あゆむ)

4、尚巳・祐稀(ゆうき)

5、恵未・凌

 



 “4”を書き出した段階で顔が引き攣っていた恵未と凌が、全て書き終えられた瞬間、同時に叫んだ。


「異議あり!」

「意義は認めませーん。決定事項でーす」


 泰騎はホワイトボードを指の関節で叩いて、ふたりを鎮めた。

 倖魅はタレた目尻を細め、組合せ結果をパソコンに打ち出している。


「何だか裏工作が行われたみたいな組み合わせだけど、尚ちゃんと祐稀ちゃんのペアは新鮮だねー」


「そういえばそうですね。折角の女の子ですけど、吊り橋効果が全く期待できない相手で少し残念です」


「お前はまだ良いよ。オレなんて野良熊とペアだぞ。っつか、吊り橋効果が期待できる人材はウチの事務所にゃ居ねーよ。居ても怖いわ。大半が男だぞ」


「ちょっと、今聞き捨てならない事が聞こえたんだけど。私は野良熊じゃないわ。野良熊は私の手下よ!」


「いや、突っ込むトコそこか?」


 尚巳の疑問に対する返事は無かったが、念願の肝試しが出来るとあって、恵未の機嫌は上々だ。通常ならば今頃、凌の脇腹に鉄拳がめり込んでいるだろう。


 そんな後輩たちの喧騒を聞きながら、潤は自分のスケジュール帳に、次の火曜日の欄に予定を書き加えた。


「そういえば……ちょうど昨日、心霊ドッキリの番組をやっていたな」


 潤が呟くと、後輩一同の視線が、一斉に潤へ向けられた。あまりに息の合った動きだったので、潤は瞬きを繰り返した。

 その様子に、凌が慌てて弁明を始めた。


「すみません、潤先輩がホラードッキリを見るなんて、少し意外で……」

「テレビを点けたら、たまたまやっていて……。霊が床から足だけ出している様子が、犬神家みたいだと思っていたら、結局最後まで見てしまった」


 潤にとっては、本物の霊が面白半分で映り込んでいる様子が興味深かったらしい。演者が驚いているのとは全く別の方向に霊が映り込んでいるのは、心霊系の番組ではよくある事だ。


「へぇー。ワシはハッキリ見えんからよう分からんのじゃけど、幽霊ってそんなに映っとるモンなん?」


 泰騎の疑問に返答したのは、凌だった。


「あぁいう、心霊番組は特に多いですよ。雰囲気に寄せられるんでしょうね。大抵の人には害もないですし、見て見ぬ振りをしてますけど……」


 はっきりしない接続助詞で言葉を切った凌に、泰騎は「うんうん」と頷いて、続きの言葉を催促する。


「たまぁーに、ヤバいのが居るんですよ。まぁ、だからってオレたちは、依頼が無いと動きませんけど。出演しているタレントに憑いてるのを見ると、少し居た堪れなくなりますね」


 凌の説明を聞いた泰騎は、心当たりがあるのか否か、ナルホドー、と頷いて見せた。

 パソコンのキーボードを叩きながら、倖魅が笑う。


「テレビに出てる人って、大抵何かしらがくっついてるけどさー。逆に、なーんにも憑いてない人を見ると、『あ、この人は人の心を捨てたんだな』って思うね。ほら、霊ってさ、優しい人に憑くって言うでしょ?」

「って事は、倖ちゃんには憑かんってわけじゃな!」

「ふふふ。泰ちゃんにもねー」


 灰色と紫色のやり取りを、尚巳は、まぁーたこのふたりは……、と呆れた顔で眺めている。その向かいでは恵未が、泰騎先輩と倖魅ってホント仲が良いわよねー、と声に出して言いながらチョコレート菓子を口へ放り込んだ。




 盆休みが終わり、肝試し大会当日。


 合コンだ、デートだ、という営業部の四人を除き、《P×P》に所属する事務所員十人が、“シャイニングハイツ一号館”の自転車置き場に集まっていた。


 泰騎はろうそく型のライトをペアにひとつずつ渡しながら、管理人の作った“お化け屋敷”の説明が書かれたパンフレットも配った。

 アパート全体がお化け屋敷となっているこの建物内は、ある一軒家という設定だ。




 一家の大黒柱を事故で亡くし、母子家庭で育った幸子。幸子は母親の寵愛を受けて育った。父に掛けられていた保険金が莫大だったため、母子家庭でありながら金銭面では困る事なく成人し、就職もでき、結婚の話も進んでいた。


 母も大層喜んだ。


 しかし、結婚式が近付くにつれて幸子を手放すのが惜しくなった母親は、幸子の首をロープで縛って、殺してしまう。


 我に返った母親は、後悔して自殺。


 幸子は未だ成仏できず、家の二階から動けずにいる。


 ウエディングドレス姿の幸子のヴェールを上げてやり、左手の薬指に指輪をはめてやると、幸子は成仏する。


 指輪は、一階で自殺した母親の薬指から抜き取り、それを持って行く事。




 パンフレットに書かれている説明は、以上だ。


「ワシと潤が入って十五分したら、二番手の倖ちゃんと一誠が入って来てなー。あ、この中のモンは壊さんようにな」


 五組目の恵未と凌が「今から一時間も待つのか」と溜め息を漏らした。


「近くに居酒屋があるから、時間を潰してきてええでー」


 泰騎は残っているメンバーにそう告げると、「んじゃ、また後で」と言い残してアパート内へ消えた。




 まず、入り口は一階の101号室。中を通って二階へ階段で上り、ゴールになっている201号室の場所まで進んでいく。大雑把な順路は、こんな感じだ。


 電気の点いていない“廃れた一般家庭”を模した室内を見回し、潤が発した言葉は、

「よく出来てるな」

 だった。


「じゃろ? 自信作じゃで」

「……お前が作ったのか?」


 ラップが被せられた肉じゃがの食品サンプルを手に取りながら、泰騎は「ししし」と笑った。


「室内コーディネートはワシのプロデュースなんじゃで」


 得意げに言うと泰騎は、端の破れたテーブルクロスを少し引っ張った。するとテーブルの下から、ドライアイスの煙と共に、血糊にまみれたシリコン製の腕が飛び出してきた。

 よく見ると、テーブルクロスから紐が出ていて、紐の先は壁と繋がっている。人の足が少しでも触れるとテーブルクロスが動くようになっていた。


「この、腕が飛び出す仕掛け、企業秘密じゃけど結構みんなビビッてくれるんよ」


 腕はすぐに引っ込んだが、確かにこれはビックリしそうだ。


「で、お前は何を企んでるんだ?」


 潤の問いに泰騎は、小学生男子が女子の机の中に蛙を忍ばせる時のような、意地の悪い笑顔を向けた。





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