凌と天后のお出かけ
Twitterにてリクエストを頂いた、天后の話です。
SSにしたかったのですが、文字数2019あります(笑)
彼女は基本的に、喚び出さなければ出てこない。つまり、稀に、喚び出さなくても出てくる。
なかなか気紛れで、何より、冷たい。物理的に。
『つまんなぁーい!』
ピチョン、と水が跳ねた。
気紛れで出てきた彼女――オレの式神。十二天将の天后。水神だ。
跳ねたのは、厳密には彼女の体の一部。彼女は通常時、“人のような形をした水のかたまり”という形状をしている。
「頼むから、人形になってくれよ」
オレは駄目元で頼んでみた。
気紛れな彼女がこの要求を快諾してくれるのは、60パーセントくらいの確率だ。
『あら、いいわよ。人間の姿でお出かけしましょ!』
語尾に音符マークでも付属しそうなノリで、彼女はオレの希望を聞き入れてくれた。
一瞬この場から消えた天后は、銀色の長髪を靡かせて再び現れた。瞳の色も水色で、服まで水色だ。
助かった。これで部屋や服が濡れる事もなくなる――って、ん?
「おでかけ……?」
「そうよ! あたし、行ってみたい所があるの!」
バッ! と、どこから出したのか……、彼女が見せてきたのは、タウン情報誌。ハンバーグを扱う店の特集ページが広げられている。
「ハンバーグ……?」
「ふふふ。前に肉餅を食べてから、定期的に食べたくなっちゃって!」
現実味がない程色素の薄い女神が、肉の塊の写真を抱き締めて涎を覗かせている。
「凌も好きでしょう? 肉餅!」
「まぁな。オレは食うなら、チーズハンバーグがいいな……」
すると天后は、ハンバーグの特集ページからチーズハンバーグが名物の店をチョイスして、見せてきた。チェダーチーズやモッツァレラチーズやクリームチーズが、ハンバーグの焦げ目に覆い被さってる。
あ、ヤベ……美味そう。
結局、オレもハンバーグの気分になった――させられた?――から、昼は外食する事にした。
天后と街を歩くのは初めてじゃないけど、目立ちすぎる気がする。
オレの髪も、銀髪なんて綺麗なモンじゃねーけど、白いし。そりゃあ、白い頭の人間が並んで歩いてたら、気になるよな……。
「なぁ、天后……。お前、髪の毛黒に出来るだろ? 何でそんな目立つ色にしてんだよ……」
「凌とお揃いがいいのー! あと、この色の方が水神感が増すのよー!」
この女神ときたら、腕に抱き付いて、わけの分からない事を言ってやがる。どうでもいいけど、乳が凄い。押し付けられてる乳が、重い。
「お前……もう少しボリューム落とせよ……」
「え? 何の?」
オレの腕に抱き付いたまま、胸を押し付けてきた。
分かってやってるな、こいつ……。
「あぁもう。いいよ、そのままで……」
ご機嫌な水神を腕に貼り付けたままハンバーグ店へ向かうが、やっぱり周りの視線が痛い。
オレは日本人なのに、何故か英語で話し掛けられたり。
(まぁ、英語も喋れるからいいけど)
リア充爆発しろ、とか言われるし。
(そんなに羨ましいなら、お前にこいつを押し付けてやるよ)
心中でそんな悪態をついていると知ってか知らずか、天后はニコニコしながらベッタリ貼り付いて剥がれない。流石はカミサマ……、力が凄ぇ。
あぁ……、でもやっぱ、乳が重い……。
「凌って、貧乳が好きなの?」
は?
「んんー。そうよねぇ……。潤も恵未も、ぺったんこだものねぇー」
「いや、だから、何で毎度そのふたりの名前が挙がるんだよ……」
天后は質問に答えず、笑うだけ。こいつときたら、ホント、何を考えてんのか分からねぇな……。
そんな感じで話していたら、店に着いた。ログハウスみたいな外観で、なかなかワイルドな店構えだと思う。
並んでいる間に渡されたメニュー表を見て、頼む料理も決めてある。
出てきたのは木製のプレートに重ねられた鉄板に載った、チーズハンバーグ。人参とブロッコリーとじゃが芋も添えられていた。
ペーパーエプロンを広げて首を傾げていた天后が、突然立ち上がり、ホール担当のアルバイトらしき若い男の肩に腕を絡め始めた。
「ねぇーえ、お兄さん。このエプロン、着けてくださらない?」
至近距離の耳元で囁くものだから、男は顔を真っ赤にして硬直してしまった。男の視線は、天后の胸元から動かない。
少しして、店員はペーパーエプロンを手に取り、天后に着けてやり始めた。その間も、視線はチラチラと天后の胸元を捉えている。
まぁ、あんな質量のものが目の前にあったら、きっと男じゃなくても見ちゃうだろうな。
にしても、天后のニヤついてる顔ときたら……。
「ふふふ。お兄さん、有り難う」
「仕事中に変なお願いをして、すみません」
若い男に触って貰えてご満悦な天后の代わりに謝ると、店員はニコリと笑ってくれた。
「いえ。素敵なお姉さんですね。羨ましいです」
そうひと言残して、店員は去っていった。
「……お姉さん……?」
「あらぁー。髪色が似てるから、姉弟に見えるのね、あたしたち」
じゃあ、今度は黒髪にしちゃおうかしらー。と、天后はニヤニヤしながら、肉の塊にナイフを入れた。




