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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』辺り
11/34

凌と天后のお出かけ


Twitterにてリクエストを頂いた、天后の話です。

SSにしたかったのですが、文字数2019あります(笑)






 彼女は基本的に、()び出さなければ出てこない。つまり、稀に、()び出さなくても出てくる。


 なかなか気紛(きまぐ)れで、何より、冷たい。物理的に。


『つまんなぁーい!』


 ピチョン、と水が跳ねた。

 気紛れで出てきた彼女――オレの式神。十二天将の天后(てんこう)。水神だ。


 跳ねたのは、厳密には彼女の体の一部。彼女は通常時、“人のような形をした水のかたまり”という形状をしている。


「頼むから、人形(ひとがた)になってくれよ」


 オレは駄目元で頼んでみた。

 気紛れな彼女がこの要求を快諾してくれるのは、60パーセントくらいの確率だ。


『あら、いいわよ。人間の姿でお出かけしましょ!』


 語尾に音符マークでも付属しそうなノリで、彼女はオレの希望を聞き入れてくれた。

 一瞬この場から消えた天后は、銀色の長髪を靡かせて再び現れた。瞳の色も水色で、服まで水色だ。


 助かった。これで部屋や服が濡れる事もなくなる――って、ん?


「おでかけ……?」

「そうよ! あたし、行ってみたい所があるの!」


 バッ! と、どこから出したのか……、彼女が見せてきたのは、タウン情報誌。ハンバーグを扱う店の特集ページが広げられている。


「ハンバーグ……?」

「ふふふ。前に肉餅(ハンバーグ)を食べてから、定期的に食べたくなっちゃって!」


 現実味がない程色素の薄い女神が、肉の塊の写真を抱き締めて涎を覗かせている。


「凌も好きでしょう? 肉餅(ハンバーグ)!」

「まぁな。オレは食うなら、チーズハンバーグがいいな……」


 すると天后は、ハンバーグの特集ページからチーズハンバーグが名物の店をチョイスして、見せてきた。チェダーチーズやモッツァレラチーズやクリームチーズが、ハンバーグの焦げ目に覆い被さってる。


 あ、ヤベ……美味(うま)そう。


 結局、オレもハンバーグの気分になった――させられた?――から、昼は外食する事にした。



挿絵(By みてみん)

 天后と街を歩くのは初めてじゃないけど、目立ちすぎる気がする。

 オレの髪も、銀髪なんて綺麗なモンじゃねーけど、白いし。そりゃあ、白い頭の人間が並んで歩いてたら、気になるよな……。


「なぁ、天后……。お前、髪の毛黒に出来るだろ? 何でそんな目立つ色にしてんだよ……」

「凌とお揃いがいいのー! あと、この色の方が水神感が増すのよー!」


 この女神ときたら、腕に抱き付いて、わけの分からない事を言ってやがる。どうでもいいけど、乳が凄い。押し付けられてる乳が、重い。


「お前……もう少しボリューム落とせよ……」

「え? 何の?」


 オレの腕に抱き付いたまま、胸を押し付けてきた。


 分かってやってるな、こいつ……。


「あぁもう。いいよ、そのままで……」


 ご機嫌な水神を腕に貼り付けたままハンバーグ店へ向かうが、やっぱり周りの視線が痛い。


 オレは日本人なのに、何故か英語で話し掛けられたり。


(まぁ、英語も喋れるからいいけど)


 リア充爆発しろ、とか言われるし。


(そんなに羨ましいなら、お前にこいつを押し付けてやるよ)


 心中でそんな悪態をついていると知ってか知らずか、天后はニコニコしながらベッタリ貼り付いて剥がれない。流石はカミサマ……、力が(すげ)ぇ。


 あぁ……、でもやっぱ、乳が重い……。


「凌って、貧乳が好きなの?」


 は?


「んんー。そうよねぇ……。潤も恵未も、ぺったんこだものねぇー」

「いや、だから、何で毎度そのふたりの名前が挙がるんだよ……」


 天后は質問に答えず、笑うだけ。こいつときたら、ホント、何を考えてんのか分からねぇな……。


 そんな感じで話していたら、店に着いた。ログハウスみたいな外観で、なかなかワイルドな店構えだと思う。

 並んでいる間に渡されたメニュー表を見て、頼む料理も決めてある。


 出てきたのは木製のプレートに重ねられた鉄板に載った、チーズハンバーグ。人参とブロッコリーとじゃが芋も添えられていた。


 ペーパーエプロンを広げて首を傾げていた天后が、突然立ち上がり、ホール担当のアルバイトらしき若い男の肩に腕を絡め始めた。


「ねぇーえ、お兄さん。このエプロン、着けてくださらない?」


 至近距離の耳元で囁くものだから、男は顔を真っ赤にして硬直してしまった。男の視線は、天后の胸元から動かない。

 少しして、店員はペーパーエプロンを手に取り、天后に着けてやり始めた。その間も、視線はチラチラと天后の胸元を捉えている。


 まぁ、あんな質量のものが目の前にあったら、きっと男じゃなくても見ちゃうだろうな。

 にしても、天后のニヤついてる顔ときたら……。


「ふふふ。お兄さん、有り難う」

「仕事中に変なお願いをして、すみません」


 若い男に触って貰えてご満悦な天后の代わりに謝ると、店員はニコリと笑ってくれた。


「いえ。素敵なお姉さんですね。羨ましいです」


 そうひと言残して、店員は去っていった。


「……お姉さん……?」

「あらぁー。髪色が似てるから、姉弟(きょうだい)に見えるのね、あたしたち」


 じゃあ、今度は黒髪にしちゃおうかしらー。と、天后はニヤニヤしながら、肉の塊にナイフを入れた。





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