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ウサギ印の暗殺屋~短編集~  作者: 三ツ葉きあ
『ウサギ印の暗殺屋~13日の金曜日~』辺り
10/34

傷心の介抱(泰騎のSS)




「ねぇ! 聞いてるの!?」


 甲高い女のがなり声に、泰騎は「聞いとるよー」と笑って答えた。


 煙草の煙が天井まで昇っているが、シトラス系フレーバーの煙草で、煙草特有の臭みが少ない。灰皿には、吸い終わった煙草が数本押し付けられた状態でくたばっている。


 ついでに、煙草をふかしている女も、吸い終わった煙草と似たような状態になっている。

 長い爪で飾られた細い指。その指に挟んだ煙草を口に咥えると、一気に吸って、煙を吐き出した。


「ねぇー。泰騎はどー思う? 別れたほーがいーと思うぅ?」


 根元の黒くなった茶色い髪を掻き上げながら、女は煙草の先を泰騎へ向ける。


「そりゃあ、茉利紗(まりさ)ちゃんがしたいようにすればええと思――」

「もー! 泰騎が決めてよー!」


 そんな無茶な。泰騎は思ったが、そこらじゅうに転がっているビールの空き缶を見回し、溜め息を吐いた。


「茉利紗ちゃんは、彼氏の事が好きなんじゃろ?」

「でもアイツ、浮気した! クッソ腹立つー! アイツも女もぶっ殺したーいー!」


 (こぶし)を振り上げて荒ぶる女を、泰騎は「殺しちゃ駄目(おえん)よー」と(なだ)めながら、中身のある缶を避けた。

 ここは女の部屋だが、ビールがぶちまけてしまっては面倒臭い。何故なら、女が酔い潰れているので、泰騎が片付ける羽目になるからだ。


(あーあ『ぶっ殺したい』とか思うんか。まぁ、好きだからこそ、裏切られた時のショックがでかいんかもしれんけどなぁ……)


 泰騎は、数居る“女友達”の内のひとりを眺めながら頬杖を突いた。彼氏持ちながらやたらと肉体関係を持とうとする女が居る一方で、今カレに一途な女友達も多い。

 彼女はそのひとりだ。

 泰騎の事は、“男代表の意見交換人”と考えているのだろう。


 正直、泰騎にとってはその方が都合がよく、有り難い。


「別れたとしても、茉利紗ちゃんはええ()じゃから。すぐに新しい彼氏が出来るでー」


 空き缶を片付けながらそんなフォローをすると、酔い潰れて寝ていると思っていた茉利紗が、ガバッと起き上がった。

 据わった眼が泰騎を捉える。


「じゃあ泰騎が彼氏になってよぉー! 泰騎がいいー!」


 先刻までテーブルに突っ伏し、動かなかった人物とは思えない声量で叫ばれ、泰騎は面食らった。


「いやぁー……ワシは止めといた方がええと思――」

「泰騎優しいし! 呼んだらすぐ来てくれるし! っていうか、泰騎ってアタシの彼氏なんじゃない!?」


 いや、違う。と真顔で答えたい所だが、そうもいかない。


「茉利紗ちゃんも知っとるじゃろ? ワシ、今彼女が四人()るんじゃで?」


 浮気されて荒れ狂っているようじゃ、まず無理な関係だ。という意味を込めて言ったのだが、彼女には通じなかった。


 茉利紗は、飲みかけの缶ビールを高らかに掲げ、こう宣言した。


「いいのー! アタシが泰騎の一番になるのー!」

「そりゃあ無理じゃなぁー」


 間髪入れず、苦笑の泰騎が否定。

 頬紅(チーク)の載った頬を膨らませ、女は唸っている。


「今度、合コンセッティングしたるから。それまでに今の彼氏と別れといで」


 茉利紗は空気の抜けた風船のようにテーブルに頬を預け、はぁーい、と返事をしてから、すぐに寝息をたて始めた。




 後日、彼女が彼氏と復縁した事を聞かされるのだが……。その後、同じ事を三回繰り返す事を、泰騎はまだ知らない。

 





Twitterや感想では泰騎の人気が高いのに、短編でメインの話がないなぁー……と思って書いてきました(*´ω`*)



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