1
「よくぞ参られた。小国に認められし勇者よ」
「大陸を焼き払う私の一撃をこうも簡単に防ぎ切るとは」
「いやホントさっきの最大火力だったんだけどなんで防げちゃうの?」
「ていうか私アレだよ?確かに魔女って呼ばれてるけど魔王に加担してるわけじゃないよ?」
「だからちょっと落ち着こう?いや国滅ぼしたのは確かだけどあれは正当防衛ってやつだし」
「ねえ話を聞いて?お願いだから問答無用はやめ、ナナー!ナナちゃーん!!早く来てー!!!」
ドラゴンがひたすら破壊しようとしている結界の中で、持っていた回復薬を惜しげもなく使い壊滅していた冒険者パーティを回復する。
守護騎士の方はまだ意識は戻らないが、外傷も内傷も癒えているので時期に目覚めると思われる。
しかしあらためて見ると全員が齢16,7くらいに見える妙に若々しいパーティだ。
パーティのリーダー格は剣士と思っていたが実は盗賊だった青年、肉体は鍛えてはあるが実戦経験の浅そうな守護騎士の青年、それに姉妹と思われる魔術師と法術師の4人パーティ。
と、リーダー格の盗賊が声をかけてきた。
「助けていただきありがとうございます。ええと・・・」
「俺の名はリュード。このへんの層にまで潜る実力のある冒険者ならみんな知ってると思うが、ダンジョン深層で行商人やってる」
「「「行商人・・・」」」
そう。俺は冒険者でもない行商人。どこにでも居る行商人リュードなのだ。
ダンジョンの中には店など無く、物資の絶えた冒険者はどん詰まりで死を待つのみである。
そこで行商人は冒険に便利なアイテムを持ち込んで深層に潜り、現地価格で高く売りさばくのだ。
といっても十九階層にまで一人でもぐるような奴は自殺志願者くらいだ。
「この回復薬今まで見たこともない効き目なんですけどどこで手に入れたんですか?」
「ああこれ魔女の秘薬」
「「「秘薬・・・」」」
魔女と呼ばれる人物はこの世界に一人しか居ない。
かつて国一つを滅ぼし、400年以上生き続ける希代の魔女リーリエ。
ちなみに世界を救った7人の英雄の一人である。
「失礼ですけどこのような秘薬を惜しみなく使えるあなた個人での踏破レベルはおいくつで?」
「たしか30くらいだよ」
「「「いやいやいやいや」」」
踏破レベルとはこの迷宮をどこまで潜る実力があるのかを示すものだ。
才能の無い凡人では生涯のピークは10程度と言われ、それ故に皆パーティを組んで迷宮に挑んでいる。
このパーティは個人で13,14程度と思われる。つまりかなりの有望株だ。
「いやおかしいでしょ個人で30って!7英雄と同等じゃないですか!」
「確かにドラゴンがそこでガリガリ引っ掻いているのにこの結界びくともしてませんけど!」
「魔女の秘薬なんて聞いたことすらないなあ。私回復薬には詳しいと自負してるんだけどなあ」
3人から総ツッコミを入れられてしまった。なるほど、知らない人から見るとこんな感じなのか。
じゃあここでネタばらし。
「そうだよ。俺は7英雄の一人、魔女に加担した裏切りの勇者と呼ばれたリュードだよ」
「「「うわあああああああああああああああ!?」」」
地獄の釜の底のようなダンジョンの深層で、いや俺からすると中層なんだが、
割と安全が確保されている結界内に3人の声が響いた。
「うるっせええええええええええええ!」
そして守護騎士が起きた。