洞窟の中
女王と会っていたという雌熊に会う為に、二人は洞窟に向かいます・・・
寒風と東風は、森の木々を揺らしながら進みました。
狐が言っていた洞窟が見えてきました。
「ごめんくださーい」
東風が入口から呼び掛けました。
すると黒い影がむっくりと、奥から近付いてきました。
背の高い雄熊でした。
「はじめまして。
この洞窟に雌熊さんはいらっしゃいませんか?」
「おたくは?」
「僕は、春の女王の使い、東風です。
まだ冬なので、お務めではないです」
「後ろの兄ちゃんは?」
雄熊は、首を伸ばし、寒風の方を見ました。
「彼は、冬の女王の使いです。
でも、ここを寒くしに来たのではありません」
それを聞いた雄熊は、耳をピンと動かしました。
「冬の女王様の使い・・・。
よくぞお越しくださいました。
どうか妹と、妹の子どもに会ってやってくだせぇ」
「僕が、ですか?」
寒風は少し驚きました。
「東風さんもどうぞ」
二人は雄熊に招かれ、洞窟の中に入りました。
◇◆◇
洞窟の中はとてもヒンヤリしていました。
東風は少し辛そうです。
やがて、母子熊の姿が見えてきました。
二人は身体を寄せ合い、敷いた藁の上で眠っていました。
「誰?」子熊が身体を起こしました。
母熊は眠ったままです。
首もとに白いストールを巻いています。
「冬の女王様の使いの方だよ」
雄熊が言いました。
「冬の女王様の・・・」
子熊は寒風を見ました。
その表情は、とても疲れているようでした。
母熊は、全く起き出そうとしません。
「使いの方、どうか妹に声をかけてやってくだせぇ」
雄熊は言いました。。
寒風は、じっと母熊を見つめました。
「・・・・・」
東風も彼女を見ようと、寒風の横に並びました。
「こんにちは・・・・。
あれ?」
東風の反応に、皆はただ黙っていました。
「母熊さん、死んでる・・・」
そこに居るのは、身体を丸め、穏やかな表情のまま、目を閉じている母熊でした。
ですが、息をしていません。
ヒンヤリした空気に包まれ、彼女は覚めない眠りについているのです。
よく見ると、毛並みはうっすら霜に覆われています。
「彼女は、いつから?」
母熊を見つめたまま、寒風は尋ねました。
「秋の終わり頃に、気の毒な事故でね。
チビの魚獲りの特訓をしていたんだ。
川で足を滑らせて、打ち所が悪かった。
俺がここまで運んだ時には、もう息をしていなかった」
雄熊は答えました。
「女王は知っているのか?」
「妹が死んだ翌日に、冬の女王様は挨拶に来てくださった。
明日から王都に行くとさ。
妹を見せたら泣いて悲しんだ。
んで、妹に渡すはずだった上等な布で頭の傷を隠して、毛並みも綺麗に整えてくださった」
雄熊の説明を聴きながら、寒風は目を閉じた。
「この為に、女王は冬を終わらせなかったのか」
三人は寒風の方を見ました。
寒風は唇を噛み締めていました。
「息絶えた者を、変わらぬ姿で留めることが出来るのは・・・。
冬の女王だけだ」
そう言うと、寒風は後ろを向き、雄熊に話しかけました。
「彼女と女王は、仲が良かったのか?」
「それはもう。
野犬に襲われかけた女王様を、妹が助けまして。
それ以来、女王様は森に来ては、妹と沢山話をしました。
妹は物語とかが大好きだったもんで、嬉しかったでしょうよ」
雄熊の声は少しだけ、涙が混じっているようでした。
「これで理由は分かった。
すぐに塔に戻らなくては。
女王も辛いだろうが、亡骸は土に還してあげた方が良い。
僕が話をしてきます」
冷えきった洞窟の中で、寒風の声が響きました。
寒風が知った、冬が終わらない理由は、とても悲しいものでした。寒風はこの後、女王にどう説得するのでしょうか・・・