冬の女王の楽しみ
スノードロップ村に到着した寒風と東風は、冬の女王について調べようとしますが・・・
執事の話によると、一人で出掛ける時、女王は普段と違う格好をするそうです。
今年は、茶色の帽子と、ねずみ色のワンピースでした。
侍女から、お古を借りるそうです。
村人が知る女王は、美しいドレス姿です。
その為、誰にも気付かれないそうです。
寒風と東風は、村で一番大きな食堂に行きました。
昼間から、ご飯だけでなくお酒も出していました。
この食堂には、村人だけでなく観光客も訪れるそうです。
女王も来たことがあるのではないかと、二人は考えました。
寒風が扉を開けると、冷たい空気がビュッと室内に入りました。
「ひぃ! 寒い!」
「おい、冬の使いが入口にいるぞ!」
食堂にいた人々は、寒風を睨みました。
「使いの方。
申し訳ないが、店の中まで寒くされては困るんですよ」
エプロンをつけた恰幅の良い男性が寒風に近付きました。
「貴方はこの食堂のご主人ですか?」
「そうです。
お客にも迷惑がかかるんで、ここはお帰り願えますかな?」
「亭主の言う通りだ!
冬の使いは帰れ!」
「お前のせいで、いつまでもこの村は寒いままだ」
「冬なんか、もう懲り懲りだ」
客達は、大声で言いました。
寒風は何だか悲しい気持ちになりました。
彼はただ、女王のことを聞きたいだけなのです。
「あの、すみません。
この食堂に、ねずみ色のワンピースを着た女性が来たことはありませんか?」
東風が、寒風の横から話しかけました。
すると、フワッと花の香りが漂いました。
「あんたは春の使いかい?」
「はい。お務め前ですが」
東風が答えると、客達の表情が変わりました。
「春の使いだって!?」
「そう言えば、さっきよりも暖かいぞ!」
食堂内から歓声があがりました。
「春の使いの方、中に入って、お茶でも飲んでいってください」
主人が言いました。
同時に、寒風には嫌そうな目を向けました。
「東風、僕は外で待っているから、聞いてきてくれ。
君も、ここで少し暖まった方が良い」
「寒風・・・」
東風は何か言いたげでしたが、寒風は入口の扉を閉めました。
◇◆◇
しばらくして、東風が食堂から出てきました。
「寒風、待たせてごめんね」
「気にするな。話は聞けたかい?」
東風はニコッと微笑みました。
顔色が少し良くなっています。
寒さに弱い東風は、寒風と一緒だと力が弱まってしまうのです。
「ねずみ色のワンピースの女性を見たって人がいたよ。
一人目は、ウエイトレス。
でも、一人でずっと黙って食事してたって。
二人目は、帽子屋の奥さん。
女性は、ショーケースを眺めてたみたい。
奥さんが店から出てきて、帽子の話をしようとしたんだって。
でも、何も言わずに離れちゃったって」
「二人とも、女王とは会話してないんだな」
寒風は腕を組み直しました。
「三人目は、狩人だよ。
森の近くで見かけたんだって。
『熊や狼がいるから危ないよ』って、狩人は声をかけたんだ。
そうしたら『森には友達がいるから大丈夫』って言ったんだって!」
「本当か?!」
寒風は目を見開きました。
思わず冷たい空気を飛ばし、屋根のつららがと伸びてしまいました。
「すぐに森に行こう!」
「でも、寒風。
動物達は冬眠してるんじゃないかな?」
「だったら、起こそう。
どうせ、いつもより寝てる時間が長いんだ。
君の暖かい空気があれば、きっと皆、喜んで目覚めるよ」
寒風は微笑みました。
彼はあまり顔を動かしません。
それを見た東風の頬は、ほんのり赤くなりました。
「うん、僕、頑張るよ。
森に行こう」
二人はヒュンッと空高く昇り、森に向かいました。
本当はもっと早い段階で投稿したかった、東風のイラストをようやく載せることができました。引き続き頑張ります。