スノードロップ村
春の女王に頼まれ、寒風と東風は、冬が終わらない原因を探しに出かけます・・・
「理由を探そうにも、手がかりがないんだよな」
寒風は言いました。
「塔で、女王は何か言ってなかった?」
東風が尋ねました。
「別に、いつも通りだったよ」
二人が話していると、南の方から暖かい空気を感じました。
「炎風だ!
金風も、西からやって来るよ!」
東風は言いました。
「おい、寒風!
一体どういうことなんだ?
とっくに春が来てもおかしくないのに、あちこち雪で真っ白だ」
炎風は声を荒くして言いました。
長い赤髪が、縦横に広がるように流れ、まるで炎のようです。
「僕にも分からない。
これから東風と、女王が塔から出ない理由を探すんだ」
「東風と、だとぉ?」
炎風は寒風を睨み付けました。
「そんなことしてる間に、皆、雪だるまになっちまうぜ。
まぁいい。
俺があの凍った扉を溶かして、開けてやるよ」
炎風は、ばっと手を上げました。
すると、辺りの雪が止みました。
「何だか、暖かいぞ」
「上を見ろ! 炎風だ!」
「やはり、季節は暖かいに限る」
「冬なんて、迷惑以外何もないよ」
国民達が炎風に手を振り、声をあげました。
「ほらな。
お前なんか、誰も求めてないんだ」
炎風はニヤリと笑いました。
「そんなことない!
寒風も冬も、この国には必要だよ!」
そう言ったのは、東風でした。
「まぁまぁ、俺達が喧嘩するのはよそうよ。
そういえば、秋の女王が控えのお城に行く途中で言ってたんだけど」
金風は頬をポリポリ指でかきながら言いました。
彼の髪型は、肉厚なキノコのようにふんわりしています。
「冬の女王は、去年よりも元気がなくて、下を向いたままだったってさ」
「気付かなかった」
寒風は申し訳なさそうに言いました。
「俺達は塔から少し離れてたからな。
でないと、秋の女王がおしゃべりを始めて、交替に時間がかかる。
それで思ったんだけど、塔に入る時から元気がないってことは、来る前に何かあったんじゃないかな?」
「そうか。
女王の暮らす屋敷に行けば、何か分かるかもしれない」
寒風は言いました。
「国王が氷漬けになるまでには見つけてくるんだな。
俺は国民と一緒に扉の氷を溶かしてくる」
「炎風も力を使いすぎないでね」
東風の言葉に、炎風は頬と耳を赤くしました。
「分かってるよ。
お前こそ、あんまり寒風に近付いて飛ぶなよ。
ほら、金風、行くぞ」
炎風と金風は、国民達の方へ向かいました。
◇◆◇
寒風と東風はスノードロップ村を目指し、北へ飛びました。
冬の女王が、春夏秋と過ごす村です。
国王が避暑として、夏に訪れる場所でもあります。
全体に雪が積もった小さな村に到着しました。
二人は、女王の帰りを待つ屋敷に行きました。
季節の女王達は、お務めの間、一人で塔にいます。
その間は、不思議と飲まず食わずでいられるのです。
しかしお務めが終われば、家来のいる彼女達の屋敷に戻ります。
「女王様のご様子ですか」
執事が白い髭を撫でながら言いました。
「特にお変わりなかったと思います。
お食事もきちんと摂られてました。
元々、控えめな方。
何かおありだったとしても、私共に話してくださることは滅多にありません」
「女王様は、ここではどのように過ごされているのですか?」
寒風は尋ねました。
使い達は、お務め以外の女王を知りません。
「本を読まれたり、ピアノを弾かれたりします。
時々ですが、正体を隠して一人で村を歩かれることもあります」
「一人で、ですか?」
「はい。
侍女もお付けになりません。
何をされているのかも、教えてもらえないのです。
ですが、『今日も楽しい話が聞けました』と仰っていたのを、一度だけ聞いた家来がいます」
寒風と東風は、屋敷を離れました。
「さっぱり分からない。
村人にも聞いてみよう」
「あの冬の女王が一人で出掛けるなんて、意外だね。
冬が長い原因は、それに関係してるのかもね」
東風が言いました。
二人は、村で人が沢山集まりそうな場所に向かいました。
スノードロップ村で、二人は理由を見つけることができるのでしょうか・・・