国王のお触れ
空は灰色の雲に覆われ、雪が舞っています。
雲間を行き交いながら、寒風は飛んでいました。
冬の女王の使いである寒風は、国中に冷たい空気を運びます。
今日も朝から飛び回り、町並みを雪で白く覆いました。
寒風には、不思議に思っていることがありました。
いつまで経っても、冬の女王は自分を塔に呼ばないのです。
女王以外で、季節の塔に入れるのは、その女王の使いだけです。
使いが女王に呼ばれるのは、毎年二回です。
塔に入る時と、出る時です。
つまり、女王はまだ冬を終わらせようとしないのです。
季節に決まった日数はありません。
長い季節があれば、短い季節もあります。
女王は交替する気がないのかもしれない。
一向に春の気配が感じられない中、寒風はそう思うようになりました。
◇◆◇
「寒風様!」
空風が、寒風を呼び止めました。
風にも色々あり、時期や場所に合った風が飛び回るのです。
「すぐに王都にお戻りください。
国王様が国民全員に伝えたいことがあるそうです」
「分かった。
知らせてくれてありがとう」
寒風は方向を変えて、王都に向かおうとしました。
「あの、寒風様。
今年の冬はいつまで続くのでしょうか?
吹き飛ばす葉っぱは一枚も、この国には残っていません」
「僕にも分からない。
とにかく王都に行ってみるよ」
そう言って寒風は、ビュンッと飛んでいきました。
彼が通り抜けた雲から、雪が降り出しました。
◇◆◇
お城の前では、国民達が国王の登場を待っていました。
皆、白い息を吐き、カタカタ震えています。
お城から、立派なマントを纏った国王が現れました。
国民から歓声があがります。
「国民達よ。
今年の冬はあまりにも長過ぎる。
秋の間に蓄えた食物は底をつきかけている。
このままでは、皆、飢えてしまう。
冬を終えるには、女王を塔から外に出さなくてはならない。
国民達よ。
冬と春の女王を、何とかして交替させるのだ。
交替させられた者には、褒美を与えよう。
ただし、季節は廻らなくてはならぬ。
次の冬が来ることを妨げぬ方法で、交替させるのだ」
国王の言葉に、再び歓声があがりました。
国王が城の中へ戻ると、国民達は一斉に動き出しました。
ある者は、神殿に向かい、お祈りを捧げました。
ある者は、工場で扉を壊す道具を作り始めました。
ある者は、女王が喜びそうなドレスのデザインを考えました。
その他の国民達は、王都にある季節の塔に行きました。
塔の扉は、氷で閉ざされています。
「冬の女王様!
どうか扉を開けてください!」
「女王様、お願いです。
冬を終わらせてください!」
「寒いままでは、父の病が治らないのです。
女王様!」
国民は大声で訴えました。
しかし、塔の扉は閉ざされたまま。
雪だけが静かに舞っていました。
長い冬を終わらせようと、ついに国王が国民達に呼びかけました。無事に春を迎えることができるのでしょうか・・・。