この国の季節のお話
この国には、四人の女王がいます。
春の女王
夏の女王
秋の女王
冬の女王
彼女達は、それぞれの季節を司っています。
王都にある季節の塔に、女王は交替で入ります。
すると、この国に季節が訪れるのです。
塔に入った女王は、季節の使いを国中に走らせます。
春は東風が、暖かい空気と、花の香りを届けます。
夏は炎風が、強い陽射しと、緑の薫りを届けます。
秋は金風が、涼しさと、実りの慶びを届けます。
冬は寒風が、冷たい雪と氷と、静けさを届けます。
交替が近付くと、次の女王は控えのお城に入ります。
控えのお城は、塔のすぐ傍にあります。
塔の扉が開いた時、季節は交替します。
扉を開くことが出来るのは、中にいる女王だけです。
次の女王は、それまで待ち続けるのです。
◇◆◇
秋の昼下がり。
森の中で、母熊は季節のお話をしました。
目の前には、きのこや果物が沢山置かれています。
子熊と狐は、それらを食べながら聞いていました。
「今は秋の女王が塔にいるんだね、お母さん」
「そうよ。
でも、きっともうすぐ、冬の女王と交替するわ」
母熊は微笑みながら答えました。
「冬は嫌いだ。寒いし、水は冷たい。
春は普通で、秋が一番好きだな。
涼しくて、美味い食べ物が沢山ある。
それから、夏も大嫌いだ。
地面が熱くて、歩くだけで火傷しそうだった」
狐は木の実を口に入れたまま言いました。
「今年の夏は、特に暑かったわね。
私は冬が好きよ。洞窟でグッスリ眠れるもの」
母熊は言いました。
「寒くて外に出られないから、寝るしかないもんな。
それじゃあ、ごちそーさん」
「狐君、これはお土産よ」
母熊は狐に、ぶどうを二房渡しました。
「坊や、近くまで送ってあげて」
母親に言われ、子熊は狐と一緒に離れました。
◇◆◇
トボトボと子熊は狐の後ろを歩きます。
「おい、弱虫子熊。
お前なんかが、冬を越せるのか?
魚も捕まえられないくせに」
狐は子熊に言いました。
「そんなことないよ。
今日、お母さんと川で練習するんだ」
子熊はびくびくしながら言いました。
「うまくいくわけねーよ。
あーあ、秋の女王はずっと塔に居てくれないかな。
そうしたら、ネズミもきのこも雪に埋もれないから、もっと腹いっぱい喰えるのに」
風の涼しさを感じながら、狐は空を見上げました。
森の木の葉がチラチラと落ちていきます。
枝が、雪化粧の支度を始めていました。
次話は挿絵付きです。