女王の涙
塔の扉を破られることを防いだ寒風は、冬の女王を説得しに向かいます・・・
女王がいる部屋は、日没後も、不思議と暗くありませんでした。
寒風はカーテンに隠れた女王に向かって言いました。
「スノードロップの森に行ってきました。
女王様は、親友を亡くし、悲しみに更けていたのですね。
今生の別れを拒む為に、冬を長引かせている」
カーテンの向こうから、反応はありません。
寒風は話を続けました。
「とてもお辛いでしょう。
ですが、これ以上国民を苦しめる訳にはいきません。
雌熊の墓を作り、弔いましょう。
それが、彼女や彼女の家族の為になるのです」
カーテンの向こうから、すすり泣く声が聞こえてきました。
「女王様?」寒風はカーテンに近付きました。
「寒風、ごめんなさい・・・」
女王の小さな声が聞こえてきました。
その直後、凄まじい風が室内で巻き起こりました。
外は激しい吹雪に変わりました。
寒風はどうしたら良いのか分からなくなりました。
幾重のカーテンの裾だけがはためていました。
◇◆◇
星空の中を、東風と子熊はゆっくり飛んでいました。
「もう少しで王都だよ」
東風は笑みを浮かべました。
身体の内側から発光しているのでしょうか。
夜でも、東風の姿ははっきりと見えました。
その為、彼が疲れていることが、子熊にも分かりました。
「ちょっと休憩した方がいいんじゃない?」
子熊が言いました。
「大丈夫だよ。
早く君を塔に連れていかないと。
寒風が待っているんだ」
その時です。
分厚い雲が星空を覆い、雪が降り出しました。
強い風も吹き、二人を襲いました。
「うわぁー!」
子熊は驚いて叫びました。
東風は飛ばされないように、必死で風を集めました。
しかし彼には、吹雪に耐える程の力は残っていませんでした。
「もう、駄目だ・・・」
力尽きた東風の周りの風はスッと止みました。
「わぁぁぁーーーー」
悲鳴を吹雪に消されながら、二人は落ちていきました。
◇◆◇
子熊はまだ地面とぶつからないことに気付きました。
恐る恐る目を開けてみました。
空にいることが分かりました。
子熊の身体は、優しい風に覆われています。
金風の背に、子熊は乗っていました。
金風も、吹雪の夜にも関わらず、その姿がはっきり見えます。
「東風は?!」
子熊が叫ぶと、金風はチラリと見上げました。
東風は、炎風に横向きに抱えられていました。
「無茶しやがって」炎風は呟きました。
金風達が、炎風の傍に到着しました。
その頃、東風も目を覚ましました。
「炎風、金風・・・?」
「寒風に頼まれて、応援に来たんだよ。
危なかったね」
金風が言いました。
「そいつを、塔に連れて行くつもりだったのか?」
炎風が東風に尋ねました。
「そうだよ。
ありがとう、もう大丈夫だよ」
東風は炎風から離れました。
炎風が残念そうにしていたのを、子熊は見逃しませんでした。
「子熊君を、冬の女王に会わせたいんだ。
彼は、女王の友達の息子さんなんだ」
「だったら、早くした方が良い。
この様子だと、寒風の奴、手こずってやがるな。
よしっ! そのチビを運ぶぞ。
金風、準備しろ!」
炎風が元気よく言いました。
「あれやるの・・・?」
金風は嫌そうな顔をしました。
「これが一番速いからな!」
金風は王都の方を向きました。
子熊を身体の前にし、ぎゅっと抱えました。
炎風が右手を空へ掲げました。
すると、ゴゴゴゴと熱い空気が集まりました。
金風も全身に涼しい風を纏いました。
「飛んでけーーーー!!!」
炎風が手の平に溜めた空気を、金風の背中にぶつけました。
空気に押さ出され、金風と子熊は勢いよく飛んでいきました。
「わぁぁぁーーーー!!!?」
子熊の悲鳴が、あっという間に遠くなりました。
「無事だと良いなぁ・・・」
東風はぽそりと呟きました。
挿絵は金風です。個人的にお気に入りのキャラクターです。