寒風と炎風
炎風を金風は、国民達と一緒に、塔の扉を破る準備を進めていた・・・
季節の塔の前には、国中の力自慢の男達が集まっていました。
そこには巨大な丸太がドスンと置かれています。
その先は、塔の扉を捉えていました。
控えのお城の窓から、春の女王は外を見ました。
炎風が来てくれたおかげで、王都は少し暖かくなりました。
ですが、それは本当の暖かさではありません。
「寒風、東風・・・」
春の女王は目を閉じ、彼らの帰りを待ちました。
◇◆◇
「国民達よ!
いよいよ扉を破り、冬の女王を説得するぞ!」
炎風が塔に背を向けた状態で言いました。
彼の頼もしい声は、国民達を奮い立たせます。
「いいか? 塔に入るのは俺と金風だけだ。
国民達は絶対に入ってはならぬ。
だが、約束しよう。
決まりを破る覚悟で、扉を開けた諸君の熱い願いを!
俺が、必ず届けてやる!」
国民達から、大歓声が上がりました。
「強引だけど、仕方ない。
国民を中に入れなければ、きっと許してくれるだろう。
そして、次の冬もお務めを果たしてくれるさ。
でないと、俺が困るしね」
炎風の横にいる金風が言いました。
しかし、誰も聞いていないようです。
短い夕暮れが終わり、辺りは暗くなりました。
国民達は、準備した沢山のランプに火をつけました。
ぼあぁと、熱気とオレンジの灯りが広がりました。
「時は来た!
さぁ、丸太を動かすぞ!」
炎風の声に合わせて、男達は丸太に群がります。
丸太の下には、車輪がついた分厚い板があります。
この板を、丸太の長さに合うまでトロッコのように繋げています。
そして丸太が落ちないように何本ものロープで板に固定しています。
板の側面には取っ手の棒が何本も差し込まれています。
男達はそれをしっかりと握りしめました。
息を合わせ、男達は取っ手を一斉に押します。
丸太を乗せた板車はグググと動き出しました。
「いいぞー! 俺が後ろから風を送る。
諸君は思いっきり走り、勢いがついたところで、丸太から離れるのだ!」
炎風は丸太の後ろに回りました。
右手を空に掲げると、風が渦を巻き始めました。
「走れー!」
炎風の掛け声と共に、男達は走り始めました。
先程より軽く感じます。
後ろから炎風が空気で押しているのです。
ゴゴゴゴと丸太を乗せた板車は動き、スピードが上がってきました。
「今だ! 押し出せ!」
「ウオオオオオーーー!!!」
男達は力を振り絞り、取っ手を押し、その勢いで身体を横に飛ばしました。
逃げ遅れた者もいましたが、助け合ったり、金風が安全な場所へ飛ばしたりしました。
炎風の力もあり、板車は扉に向かって突進します。
ドシーン!!!!
地面が揺れるかと思うほどの衝撃音が響き渡りました。
ピシッピシシシッ・・・
皆、待ち望んていた扉が破れる瞬間を期待し、その方を見ました。
丸太がぶつかったのは、扉ではありませんでした。
分厚い氷が壁となり、扉を覆っていました。
氷には、大きなヒビが入りましたが、割れてはいませんでした。
丸太と板車はロープが外れ、板車はバラバラになっていました。
「何だと・・・!?」
炎風は塔の上の方を見ました。
寒風がそこにいました。
◇◆◇
国民達も寒風に気付き、怯えたような声を上げました。
「寒風! 邪魔しやがって!」
炎風は顔を真っ赤にして、寒風の方に行きました。
金風も彼の方に向かいました。
「てめぇ! 何てことしやがる!
国民達が、必死で用意したのによ!」
炎風は寒風の胸ぐらを掴みました。
あの様な巨大な氷を一瞬で作れるのは、冬の寒風位です。
それでも、かなり無理をしたのか、疲れた表情を浮かべていました。
「女王が冬を終わらせない理由が分かったんだ。
今から、話をしてくる。
だから、こんな乱暴なことはしないでくれ」
寒風は、炎風の熱に耐えながら言いました。
「女王を塔から出す方法が見つかったんだ」
金風がひょこっと炎風の後ろから顔を出しました。
「だけど、僕一人じゃ足りないんだ。
東風が、お客を風に乗せて運んでいるんだが、あいつだけだと到着が遅くなってしまう」
「東風が、一人でか?!」
炎風は、怒りで顔を歪ませ、寒風を睨み付けました。
「なんて無茶をさせるんだ!?
あいつがどれだけ弱っているのか、分かっているのか?」
「もちろんだ。
だから二人には、応援に行ってほしいんだ。
彼らは、スノードロップ村からこちらに向かっている」
「了解! すぐ行くよ!
さぁ、炎風もいい加減手を離して。
ここは寒風に任せよう。
君も少し身体を冷ました方が良い」
金風が炎風の指を寒風から外しながら言いました。
「失敗したら、許さねぇぞ」
炎風は声を重くして言いました。
二人が王都を離れたことを確認し、寒風は塔の中に入りました。
何とか、炎風も載せることが出来ました。次回は金風の予定です。