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ー16ー

「……扉を閉めてよ」


 黒い背鰭の真白な竜は、鮮やかなアメジストの瞳を細めた。


「あっ――はい、すみません」


 惚けていたが、慌てて扉を閉めた。それから、改めて彼女――エレイン様を見る。


「なんて……綺麗だ」


 彼女の華奢な身体は、俺の3倍程に巨大化したが、その美しい姿に感嘆が漏れる。淡い光を受け、真珠みたいに光沢のある鱗に覆われた体表は、しっとりと濡れたように輝いている。頭頂から背骨に沿って長く畳まれた背鰭は、彼女の髪と同じ漆黒のラインを描く。手足は長く、その先の指から生える鉤爪もオニキスのような艶やかな黒。そして、人間の姿と同じアーモンドアイの大きな紫色の瞳は、神聖な威厳に満ちている。


「お前、恐れないのね」


「えっ、あ、失礼しました」


 急いで跪いて、畏まる。


「違う。怖くないのか、って訊いたのよ」


 呆れたように、彼女は溜め息混じりに呟いた。


「怖い? 何故です?」


「何故って……」


 見上げると、彼女は小首を傾げて瞳を細めた。戸惑っているらしい。


「だって、貴女はエレイン様でしょう? こうして会話も出来るのに、恐れる理由は何もないじゃないですか」


 立ち上がり、真っ直ぐに見詰める。王国のどこかで竜が生きているという噂は聞いたことがあるものの、竜人の存在は伝説だと思っていた。それが目の前にいるなんて、なんて素敵なんだろう。


「それなら……いいけど」


 暫く俺を眺めていたが、やおら顔を背けると、爪に引っ掻けた剣を差し出した。


「お前のものよ。ちゃんと持ちなさい」


「ありがとうございます」


 受け取った剣を、笑顔で背負う。彼女は首を伸ばして、窓の外を覗いた。横顔がほんのり茜色に染まる。


「間もなく月が昇るわ。お前――保っていられて?」


 今夜は、満月。彼女に取って意味のある月の満ち欠けは、俺に取っても重要な夜だ。


「あ……俺は、まだ、拘束が必要で……」


 地下室に行かなくてはならない。化け物達の彷徨く居住地を掻い潜っても。


「大丈夫。ここで済ませなさい」


「でも――貴女を傷つけたら」


 8年前の悪夢が甦る。あの時、親父ですら止められなかった。暴走したら、何を仕出かすか分からない。


「私を? お前、私に触れられると思って?」


 確かに、相手は最高の聖獣だ。仮に俺が暴走しても、組伏せられる可能性が高い。だけど――。


「命令です。地下室に行ってはなりません。いいわね、ヴィル!」


 返事に窮していると、エレイン様は真正面から俺を睥睨し、強く命じた。

 ズキン、と突然背中が疼いた。彼女の言葉に呼応するように。


「エレイン様……もしかして、何か――俺に、何かされましたか?」


 不意に疑念が形を持ち始めた。確か、化け物に噛まれた後も、背中の違和感はあった。この疼きは、まさか――彼女の御術(みわざ)なのか?


「心配せずともよい。お前には、人間の姿の私を守ってもらわねばならないからね」


 白竜の口元が、不敵な笑みの形に歪んだように見えた。




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