表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

ー14ー

 短剣を手に、石段を駆け上がる。身体のあちこちが軋むが、そんなこと気にしていられない。


「ヴ……グアァ……」


 前方に村人の姿が見えた。近づく俺の足音に立ち止まり、振り向こうとした首をすかさず切り落とす。こちらへ倒れてきた化け物の死体を飛び越え、先を急いだ。背後からの攻撃は有効で、4階まで上り切る間に、更に1体を難なく斬り倒した。


「エレイン様っ!」


 扉を開けると、真っ青な光が溢れ出た。部屋の中央に赤い服の少女が1人立っている。やや前屈みで、肩から背中までザックリとブラウスが切り裂かれ、鮮血に染まっている。

 少女の化け物が進もうとする部屋の奥には、エレイン様が対峙していた。テーブルの前に立ち、突き出した両手から深蒼の光が放たれている。光は床から天井までスクリーンとなり、化け物が中央より先に踏み込むのを防いでいる。


「俺が相手だ、来いっ!」


 呼び掛けると、幼い化け物は、ゆっくりと振り向いた。顔も額が裂け、片目が潰れている。


「グ、ググゥ……」


 呻くと、口をニパァと開き、鋭い歯を剥いた。次の瞬間、シュッと空を切って、猫のように素早く飛びかかってきた。


「くっ……!」


 咄嗟に短剣を振り抜いたが、俺の脇を抜けて階段を下っていった。部屋の外に出たので、急ぎ扉を閉め、化け物を追う。

 隠れる場所などほぼ無い筈なのに、追えども化け物の姿がない。上がってきたばかりの石段を、慎重に下る。


 ――シュッ!


「うわっ?!」


 動体視力は、かなり良い方と自負するが、それを凌ぐ早さで向かってきた。カッと片目を見開き、歯を剥いている。

 狭い通路で身を捩る。脇腹を掠めて通過するも、数段上に着地すると、すぐに折り返し降ってきた。

 短剣で払うように切り付ける。石段にパッと鮮血が散った。


「ぐ……っ!」


 化け物の腹が切れ、内臓がドロリと流れ出した。しかし、髪を振り乱した頭部が、俺の左腿に食らい付いている――鋭い痛みがビリリと広がる。ヤバい、噛まれた!


 焦りと恐怖に貫かれながら、まずは首を叩き切る。食い付いたままの頭を取り外す。太股からジワリ、俺の血が滲んだ。


「俺も――変わるのか……?」


 声が震える。親父が身を呈してくれたのに、その遺志に応えられなかった。それどころか、俺が化け物になれば、きっとエレイン様を襲ってしまう。それだけは、絶対駄目だ。


 まだ自分自身を保っていられる内に、塔の最上部に戻る。


「……エレイン様」


 部屋の扉を開ける。先刻光を放っていた場所で、彼女は崩れていた。迷ったが、抱え上げ、ベッドに横たえる。


「――ヴィル、か」


 薄く目を開くも、動けずにいる。先程の光――多分、防御の結界――で力尽きたのだろう。月光に照らされた彼女の肌は、酷く蒼白い。


「お守り出来ず、すみません」


 俺は、深く頭を下げる。


「……よい。回復したら……終わらせる」


 静かな低い声。責めない心遣いに、直立する。


「すみません。俺、ここで、お別れです」


 紫の瞳がジッと見詰める。俺は、背中の剣を下ろし、ベッドサイドの床に置いた。


「さっきの化け物に噛まれました。これから地下室に行って、手足を拘束します」


「ヴィル……」


 エレイン様の眉間に、細くシワが寄る。怒りなのか失望なのか、感情は分からない。


「最後まで、お守り出来ず、すみません」


 もう一度、頭を下げると、俺は部屋を出た。ぐずぐずしていると、拘束する前に化け物に変わり、エレイン様を襲ってしまう。

 しっかりと扉を閉め、石段を下りていく。急ぎ駆けたいが、噛まれた左足が熱を持ち、ゆっくり毒が広がるように痺れて、言うことを利かない。小さな化け物の死体を越え、3階と2階の間辺りに差し掛かった時、ズキンと背中が痛み、同時に強い目眩に襲われた。まずい、まだ早い。


「……ここじゃ、駄目、だ――」


 呟きが遠ざかり、目の前が暗くなる。身体から力が抜け、動けなくなった。駄目だ。地下室に、行か、な、く、ちゃ――。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ