ー12ー
――ドガガッ……ガキッ……バキャッ!
異常な破壊音に飛び起きた。ついに別館まで、更に塔の真下まで、化け物共が迫って来たのだ。
ベッドの上に、身を起こす影が見える。
「エレイン様、あとどのくらいですか?」
「1時間半……持ちこたえられて?」
「防ぎます!」
一息吐いて、俺は短剣を手に扉の外に出た。石段を上って来る気配はない。
2階まで下ると、微かに血の匂いが感じられた。化け物は、塔内にはまだ侵入していなかった。1階に着く。扉の向こうに、ざわめきがある。居住地での戦いなら剣が使える。短剣を収め、剣を抜き、扉を開けた。
「……ガァ……グルル!」
「グゥ……ガァア!」
2体の化け物が振り向き、俺を捉えて雄叫びを上げた。その姿は――親父ではない。どこか安堵しつつ、剣を構える。部屋の中は、テーブルや椅子が乱雑に転がっている。
「俺ん家を、荒らしやがって!」
扉を閉めると、片足を引いて踏み出す。壁を利用して右から駆け上がり、剣を降り下ろす。最初の1体は、難なく首を叩き切った。もう1体が、すぐに左から突っ込んで来た。喉に向けて切っ先で突くが、ヒョイと俊敏に避けられた。そこを踏み込み、斜め後ろから切りつける。クリティカルヒットとはならず、首から肩口がパックリ割れ、血飛沫が上がる。化け物は怯まずに向き直り、拳が飛んできた。飛び退いて避けた時、ライトウィングの通路から新たな化け物が現れるのが見えた。
まずは、目の前のヤツだ。首がグラリと傾きながらも、素早く拳を打ってくる。避けつつ後退し、左に回り込み、最初に倒した化け物の身体を飛び越える。同じように、襲い来る化け物が俺を追って、床の上の化け物を跨ぐ瞬間、傾いた首のせいで僅かに身体のバランスがぶれた。そこを逃さず、低い位置で剣を払う。化け物の右足が崩れ、倒れかけたところを斜め上から剣を降り下ろす。ボロリ、切り離された首が落ち、ドウと倒れた。
「グガァ……」
通路から現れた、次の1体が低く唸る。歯を剥き出しにしてフラフラと近付いてくるのは、村の女性だ。館内に避難していたとみられる彼女は、右腕の肘から先がない。襲われた際に、喰い千切られたのだろう。恐怖が張り付いたひきつった表情のまま、向かってくる。助けようとしていた人々を助けられなかったばかりか、命を絶たねばならない。悔しさが過るも、感情を握り潰して、彼女の首をはねた。糸が切れたようにグシャリと床に伏せた死体を眺め、息を吐く。
シュッ、と乾いた音と共に、何かが視界の端で動いた。小さな影が、キッチンの方に消える。剣を構えて探そうと足を向けたが、姿を捉える前に、再びシュッと影が走った。
「……ガウゥ」
別の化け物が、通路から姿を現した。その後ろからも、まだ続々とやって来ている。――まずい、増えてきた。
目の前に迫る1体ずつ倒しながら、徐々に疲労が溜まってくるのを感じる。どのくらい経ったのか、時間の感覚が掴めない。
「……グ……ウグガァ……!」
小柄な化け物を斬り倒した直後、新たな呻き声に振り向いて――心臓が凍り付いた。まさか、と現実を疑うと同時に、やはり、と絶望にうちひしがれる自分がいる。
「親父……っ」
今まさに通路から現れた大きな化け物は、俺の最愛の肉親――親父だった。