藤木哲也 その2
―藤木哲也 その2―
いつのまにか、新しいお茶を飲み終わった悪炎姫さんがズイっと自分の肩口から顔を出して画面を見てくる。
うひょ、ドキドキするっす。
「フジキー殿、私たちのプライベートルームも見えるか確認していただけますか?」
言われて、まずは魔栗鼠ルームをチェックする。
すると悪炎姫さんが魔栗鼠に指示を出す。
「魔栗鼠、部屋にいって家具を動かし、着替えて、トイレでようを足し、数分ベッドに横になってきてください。」
「…はい。」
なんか一瞬不服そうな顔をした後、魔栗鼠は部屋に行った。
すると、魔栗鼠の部屋の中に「魔栗鼠in」という表示になる。
でも魔栗鼠のキャラは適当に動くけど、変化はない。
この表示の間はキャラは適当に動いてる。
しばらくすると、部屋から魔栗鼠のキャラが消える。
同時に玉座の横に瞬間移動してきた。
「言われたことをしてきました。どんな感じでしたか?」
不安そうな魔栗鼠に悪炎姫さんがニコリとする。
「安心していいです。プライバシーはほぼ守られていました。さすがナガミーチ殿です。」
そして今見た内容を説明する。
なるほど、このゲームは全年齢対応なんだな。
そのあと、ノートや操作画面を確認しながら一日イロイロためした。
結論から言うと、これは廃ゲーってやつっす。
やばい、学校行かないで熱中しそう。
よかった、学校に行かない立場で出会えて。
そして、ダンジョン内では魔王配下の人たちは不死身らしい。
ダンジョン内で死んだら、ペナルティー時間(っていうか回復時間でしょ)を待つと復活できるそうだ。
それと中級以上のモンスターは、回復陣に入れておけば回復するらしいけど、レベルが上がるほど回復に時間がかかるので、回復陣の数が重要になりそう。
この追加は課金アイテムらしいので、お金がたまったら速攻で増やさないと。
本格稼働させることを考えたら、20個くらいは回復陣が欲しいっす。
ほんと普通にゲームだ。
では当面はあるだけの材料で魔物を作っておかなくちゃ。
ポコポコ作ってみる。
さて、次はダンジョン拡張か。
罠を設置する。
待機している工作班員をドラッグ&ドロップで罠を作りたいところに移動させる。
すると、そこに罠を作り出す。
そこに表示として「00:03:10」と表示された。
3分ほどかかるようだ。
工作班は今は一人しかいないので、おいおい増やさないとな。
急にメニュー画面に音声受信と出たので受信をクリックしてみる。
すると、いかにもドジっこそうな声が聞こえてくる。
『魔王様、こちら受付です。あのですね、受付の設置が完了いたしました。これからお客さんの受付が可能です。』
みると、ダンジョンの出入り口に『受付』が増えている。
「わかった」
そう返事をしてから、あわててヘルプを読んだ。
受付:
装備・道具の売買を行う。
宿屋、病院、教会の機能も持つ。
また、金貨一枚で救済の印を発行する。
救済の印をうけた探索者は、死亡するとギリギリ死なない程度の回復状態で出口に転送される。
探索者もお金を出せば死なないのか。
いいね。
そうやって、ダンジョンの性能を調べて一日が終わった。
次の日
いきなり朝から叩き起こされた。
「さあ起きてください!ダンジョンの朝は早いですよ。」
魔栗鼠ちゃんが幼馴染を起こしに来た女の子みたいな感じで、自分の布団をはいだ。
ダメっす。男の子の朝は大変なんす。
朝はマグナムがマグナムなんす。
思わず丸まってしまった。
「あと5分したら行くっす。」
すると両手を腰にあてて、トホホって顔をしている。
「わかりました、もしも10分して出てこなかったらまた起こしに来ますからね。」
そう言い残して部屋を出て行った。
なにこの憧れのシチェーションは。
しかし急がなければまた来てしまう。
いそいで着替えて、気合で素数を数えることで朝マグナムを平常状態にした。
ふう、すごい精神力がすり減ったっす。
部屋から出ると、いい匂いがしてきた。
においの方にフラフラいくと朝食が用意してある。
パンと野菜の入ったクリームシチュウか。
おいしそう。
席に着くとすでにワイワイと朝食は始まっていた。
貴族のように上品に食事をする悪炎姫さん。
それなりにマナーを守っている魔栗鼠。
その向こうには、眼鏡で背の低い女の子がバクバク食べていた。
誰だろうと思ってじーっと見ていたら、向こうがこっちに気づいて、急に立ち上がり敬礼してきた。
「朝食をお先に失礼しています。わたしは受付の受付子です。よろしくお願いします。特技はスキル<分身>と<ドジっ娘>です。売店、宿屋、病院、教会はお任せください。」
受付子って、そのまんまなネーミングだ!
しかもスキル<ドジっ娘>って役に立たなそう…
そういえば確かに昨日話した声だ。
「よろしく。自分はフジキーっす。昨日は急に受付が現れたので驚いたっす。」
するとブカブカの服を着た受付子はストンと席に座った。
「はい、受付はチュートリアルが終わらないと出てこないんです。ですので予定通りなんですよ。」
どこまで親切設計なんだ、このゲーム。
「そうなんだ」といながら、自分も朝食開始。
何気なく食事を口に運んでビビった。
なんだこりゃ、パンもシチュウもめちゃくちゃ美味い。
異世界ものでは、異世界人による食事改善の知識チートが定番なのに、ここではむしろ日本の半端な知識では勝てなさそうな飯の美味さ。
おもわずバクバク食べてしまった。
おかわり5連撃!
すごいたくさん食べた。
ふう、そのあとに出されたお茶もおいしい。
日本でこんな美味しいお茶なんて飲んだことないっす。
食べ過ぎたかも。
お腹が苦しいので魔王の玉座にゴロっとしていると、悪炎姫さんがクスリとして玉座を少しリクライニングしてくれた。
顔がキツイけど、眉毛を下げて微笑む姿は聖女級だな。
さすが大天使、まじ天使。
そこに、デルリカさんが転移してきた。
「みなさま、おはようございます。進捗はいかがですか?」
白いロリータ服に身を包んだデルリカさんはまじ女神って感じ。
『ハーレムダンジョン』の画面を開くと、デルリカさんには『デル魔女』と表示されている。
右クリックでメニュー表示をしてみる
デル魔女: 聖魔バーサーカー
レベル999
ステータス カンスト越えで表示不能。
スキル 537個(省略表示)
人類最強順位 1位
・・・なんだこりゃ?
デル魔女さんこと、デルリカさんをもう一度見る。
受付子と笑顔で話しているすがたは、穢れなき美の女神に見えるのに。
バーサーカー?
っていうかレベル999って何?
すると今度は長道さんが小脇に女の子を抱えて現れた。
メニュー画面を見てみる。
長道さんは「ナガミーチ:大魔導士、賢者、狂気の首輪、マリユカの遊び相手」と表示された。
ナガミーチって表示されているから、これからはナガミーチさんて呼んだ方がいいかな。
っていうか、称号のなかの『狂気の首輪』ってなんだろう?
聞いていいのだろうか。
すると、ひょいっと覗き込んできた悪炎姫さんが教えてくれた。
「とうとうナガミーチ殿には『狂気の首輪』がついてしまったか。」
「それってどういう意味なんですか?」
すっとデルリカさんを指さす。
「バーサーカーが狂気で暴れないようにするストッパーって意味ですね。」
「デルリカさん、よっぽど危ないんですね。」
悪炎姫さんは困った顔で眉を下げる。
「はい、実のところ大天使でも扱いに困るほどに。」
そうか、デルリカさんは美女だからって油断できなんだ。恐ろしいんすね。
するとナガミーチさんは、魔栗鼠と少し話してから瞬間移動で帰ってしまった。
あ、首輪が帰っちゃった…
そのタイミングを待っていたかのようにデルリカさんが近寄ってくる。
「では魔王様、ワタクシはダンジョンの入り口に待機でよろしいでしょうか。」
さすがにそれはない。
「待ってください、それはちょっと無理ゲーすぎるっす。せめて9階で。」
だけど、めちゃくちゃ怖い目でにらまれた。
「ワタクシ、一階が良いと言っておりますの。あなたのご意見は聞いておりませんわ。」
怖い。
うまく言えないけど、すごい怖い。
理屈じゃない恐怖で膝が震えてきた。
「じゃあ、地下二階に降りる階段がある部屋で待機をお願いします。」
数秒にらまれた。
ヤベ、怒らせちゃったかな。
不機嫌に黙ってデルリカさんは唐突に口を開いた。
「そこまでは譲歩いたしましょう。」
そういうなり、カッカッカと歩いて出て行ってしまった。
ふう、ビビった。
でも今度は魔栗鼠がよってきた。
「もしもデルリカ様のところまで敵が来なかったら、きっと不機嫌になると思われますので、探索者を用意しますね。」
いわれてみてば。
やばい。いますぐ探索者を集めなくちゃ。
そう思ていたら、ぞろぞろ人が入ってきた。
やった!
誰が入ってきたんだろう。
ポップでみると『ベルセック聖騎士』と書いてある。
あっというまにモンスターを倒し、奥に進む聖騎士たち。
だがデルリカさんがいる場所まで来ると、、、、
一瞬で消えていった。
ベルセック聖騎士たちはレベル30はある。
たぶん強いんだと思う。
でも30人ほどの聖騎士が瞬殺ってどうなの?
すると、自分のそばで声が聞こえた。
ぴろりろりーん。
フジキーはレベルが上がった。レベル2になった。
なぜ自分のレベルが上がるんだ?
そう思ったけど、理由はすぐに推理できた。
このダンジョン内の戦いは、ダンジョンマスターである自分にも経験値をくれるんすな。
これは便利だ。
楽してレベルアップだ。それは異世界転生ものの王道。
ないす王道。
しばらくすると、またたくさんの人が突撃してきた。
みるとまた『ベルセック聖騎士』のみなさんだ。
本日二回目の突撃。
当然のように、デルリカさんのところで無残に殺される。
そしてしばらくしたら、またまた『ベルセック聖騎士』が突撃してくる。
頭は大丈夫だろうか?
そしてまた瞬殺される。
で、彼らは入り口に転送。
そこで、なんとはなしにベルセック聖騎士のステータスを見て驚いた。
最初にレベル30だった騎士が、レベルが32になっていたのだ。
たった3回の突撃で30が32?
この狂気の突撃はその後三日間繰り返されて、全員のレベルが50まで上がった。
そうか、負けると経験値が得られる割合が少ないとはいえ、レベル999に負けたなら、かなりの経験値が入るから、短時間でパワーレベリングするのに適するわけか。
たぶん今回、『ベルセック聖騎士』は金貨1000枚以上使ってると思うけど、元が取れてるんじゃないだろうか。
すると今度は一人の男性が入ってくる。
ポップアップでは・・・ナガミーチさんだ。
まさか、
そう思っていたら、デルリカさんのところまで来ると会話を始めた。
『あの、通してほしいんですけど。』
『おほほ、お兄ちゃんなど、とっくにワタクシの足元にも及ばないと教えて差し上げますわ。』
『どうやら戦うしかないようですね』
『ええ、今日こそは下剋上をいたしますわ。』
そのとき素早くナガミーチさんが一枚の紙を投げる。
『くらえ、タケシー写真!』
デルリカさんがその紙に飛びついた、
一瞬背中を見せたデルリカさんにナガミーチさんが抱き着く。
『デルリカさんの弱点はサブミッションだ。』
そのまま地面に転がり地味なサブミッション戦が始まる。
せこい!
しかし、一瞬で人類最強のバックをとったのだ。これが戦いというものなんかもしれない。
そのあと、玄人でないと意味がわからない、攻守が入れ替わるグランドの戦いが繰り広げられて30分。
一瞬のスキを突かれてナガミーチさんが背後から絞められる。
これはヤバイ。
だがそこでナガミーチさんのキャラがニヤリとした。
まさかここから返し技が?
ナガミーチさんのキャラから吹き出しがでる。
『デルリカさん、おっぱい当たってますよ。』
『当ててますのよ』
なにやってるんだ、この二人。うらやましい。
そこで転送魔法でナガミーチさんが体の上下をひっくり返す。
そのまま地上にデルリカさんの頭からゴンと落ちた。
デルリカさんは光となって消える。
『ふう、マリユカ様との戦いで鍛えた技巧派サブミッション返しの技が、こんなところで役に立つとはな。』
すごい、あのレベル999を倒した!
せこいスタートでの有利な状況からの、正々堂々のサブミッションと見せて地味に魔法を突っ込んできての卑怯で地味なとどめ。
でも、勝った。
っということは、今の人類一位はナガミーチさんなのか。
すごい戦いだった。
ナガミーチさんは、優々と2階に降りる。
そしてそのまま魔王の玉座までやってきた。
なるほど、最初のラスボス戦はナガミーチさんか。
ちょっと緊張してきた。
大丈夫、サイドの二人は強いからきっと大丈夫。
ナガミーチさんでも容赦しないっす。
入ってくるとナガミーチさんが疲れた顔でこっちにきた。
「まったく、用があって入ってくる人間は魔王の間まで転送で送ってくれてもいいと思うんですけど。受付に僕は転送で入れるように伝えておいてください。」
ずるっときた。
「はい、わかったっす。」
ちょっとずっこけていると、ナガミーチさんは魔石をたくさんくれた。
「これだけあれば、結構良い魔物が作れると思います。つかってください。」
「あの、これを渡すために来たんですか?」
「そうですよ。」
そいうと、ナガミーチさんはテクテク今来た道を帰っていく。
すると回復陣から無理やり出てきたデルリカさんがバンとドアを開けて入ってきた。
「お兄ちゃん!次は負けませんわ!」
まるで鬼のようなデルリカさんの姿を見て、一目散に走りだすナガミーチさん。
でもすごいスピードで追いかけるデルリカさんが、一瞬でナガミーチさんに追いつき地面に押し倒す。
そこでまた寝技の応酬が始まる。
「お兄ちゃん、おとなしく殺されるにゃん。」
「デルリカさん大好きだから許してえええ。お菓子作ってあげるからあああ。」
その様子を見ている魔栗鼠が顔を赤くして照れる。
「あのお二人は本当に仲良しですね。」
高校生の自分でもわかるっす。
あれはかなり仲がいいのは確か。
でもナガミーチさんの命がヤバイのも確か。
結婚て大変だな。そう思ったす。
お読みくださりありがとうございます。
魔栗鼠「あれがめくるめく、男女の営みなのですね。48手ってやつですね。」
フジキー「高校生の自分でもわかるっす。あれは男女の営みではないし、48手の殺人技っす。」




