玉置誠二 その12
登場人物紹介
セイジー:日本では売れないお笑い芸人。異世界では伝説になる。
ヒッチコック伯爵:友達はセイジーだけ。貴族なのに本当の友人をたった一人といえど持てたのは幸運だったかもしれない。
マリー:めちゃくちゃな存在。だって最高神だもん。
アマノウズメ:日本の神様の1柱。
警官:みんな大好き日本の番人。
―玉置誠二 その12―
ヒッチコック伯爵邸を大メイドー2号機で飛び立ったあと、ちょっと伯爵の話に出てきた鉱山を見たくなった。
なのでワンド子にナビをしてもらい鉱山上空まで飛んできたら。
ドゴゴゴッゴゴ
噴火していた。
あまりに唐突な展開に俺はしばらく見つめてしまった。
「ワンド子、ここはよく噴火するのかな?」
『いいえ!噴火なんてしたら鉱山を発掘できないですよ。』
下を見ると、溶岩が流れる先に街が見える。
街の人たちは慌てて逃げようとしてた。
しかし、どうみても真っ赤なマグマの流れの方が早い。
「ワンド子!大メイドーで街が避難するための時間を稼ぎたい!アイディアをくれ!」
数秒演算している様子のワンド子。
『セイジー君も安全で、少ししか被害が出ない方法と、セイジー君が危険ですが街への被害がほとんど出ない方法があります。』
「街の安全を最優先!」
自分でも驚くほど迷いが無かった。
いま動き回る街の人が沢山死ぬ姿なんて想像もしたくない。
『では大メイドーで火口に突入。150m侵入後に冷却魔法でマグマの動きを止めます。一時間で魔力切れになりますが、その間に伯爵の大メイドー一号機で海側にマグマの逃げ道を作れれば街は守れます。ただ、セイジー君の死亡確率は60%です。』
「生存確率40%か、上等だ!」
俺は火口に飛び込んだ。
『耐熱耐圧シールド全開展開。 前方に土魔法で空洞作成。150m侵入完了。凍結魔法の展開をお願いします。』
いそいでコンソールから、氷魔法の術式を打ち込む。
やっぱ日本人な俺にとって、キーボードは使いやすい。
30秒で上級の凍結魔法の術式を打ち込んだ。
「セイジーの名において命じる。マグマよ凍えよ。大凍結!」
目の前の赤い液体が、冷やされて見る見る黒くなる。
あとは魔法の範囲を広げつつ、この黒い固塊を押し返す。
「ワンド子、懐中子に通信をして伯爵に救援要請を。」
『すでに発しておきました。急いでくるそうです。』
「たすかる。」
耐熱シールドを張っているが、コックピットの中がジリジリ熱くなってくる。
もっと誰かに助けを呼べないだろうか。
「ビレーヌ様に救援要請を。」
『ヒッチコック伯爵からさっき通信が飛んでいます。ビグニー公爵様に寄り親になってもらっていて正解でしたね。』
「そうだな、復興の助けがあるのは心強い。」
またコックピットの温度が上がってきた。
今大体、コックピット内の気温は40度くらいありそうだ。
汗が首筋を伝う。
「そうだ、ナガミーチさんに通信を!」
ぷるるる、ぷるるる。ぷるるるr。
『もしもし、この戦いが終わったら結婚することになっているナガミーチです。セイジーさん、どうしたんですか?』
あの人はなんでいきなり死亡フラグを突っ込んでくるんだ!
こっちの危機状況が見えているのかと思うほど、ナイスボケだ。
「ちょっと、いきなり死亡フラグとかやめてください!今ヒッチコック伯爵領の鉱山の前なんですけど、いきなり目の前で噴火したんです。手を貸してください。」
『噴火!溶岩はどのくらい出ています?』
さすがのナガミーチさんでも真面目な声になった。
「凄いです、空に撒き散らせていますし、地面には赤い川が出来ています。どうにかしないと!」
「今から用意していきます。あまり近づき過ぎないように気をつけてください。」
近づき過ぎっていうか、マグマの中だけど時間が惜しいからそこは触れないで置いた。
「わかりました、助かります。」
そこで通信が切れた。
よし、あの人が来てくれるなら街は安心だろう。
俺はさらに固まったマグマを押し込む。
これで、街に向って流れていたマグマの速度はかなり遅れているはずだ。
あとは、伯爵がきてくれればどうにかできるはず。
それにしてもコックピット中が暑い。
全身から汗が噴出す。
ちょっと顔も紅くなってきてるのがわかる。
50度くらいになったかもしれない。
だが頑張らないと。
押し返していると、通信機から声が届いた。
『セイジー、待たせて済まなかった。今手伝うぞ。』
伯爵の声だった。
「よろしくお願いします。」
すると、苦しそうな声が来た。
『いまどこにおるのだ?街の手前でシールドを展開してマグマをとめたが1人ではそれほどもちそうに無い。』
「俺は今火口の中です。火口下150メートルのところで冷却魔法を使ってマグマを止めています。安全にマグマを逃がせるように穴を開けてもらえませんか?」
慌てた声で伯爵はさけぶ。
『何をしておるのだ。早く脱出をせよ。いくら大メイドーでもマグマの中では長くはもたぬぞ。』
「ですが、俺がココから出たら10倍以上のマグマが噴出します。」
苦しそうな伯爵の声がスピーカーからなった。
『ぐぬぬ、我もここは動けぬ。バリアーでマグマをせき止めておるが、3分どいたら街が飲まれてしまうであろう。』
なんか、暑さであたまがボーっとしてきたが、無理やり頭を動かす。
「そうなると、ビレーヌ様かナガミーチ様達の到着待ちですね。ナガミーチさんへは連絡済なのでもうすぐ来てくれるはずです。」
するとワンド子が慌てた口調で割って入って来た。
『セイジー君、大メイドーのスカートが崩壊しそうです。ブースターをふかし過ぎました。脱出しないと危険です。』
「で、俺がココからどいたら街はどうなる?」
『確実にのまれます。』
「じゃあ、ナガミーチさんに賭けるしかないね。」
伯爵が絶叫した。
『セイジー、聞こえたぞ!無理をしないで逃げるのだ!』
ほんと、びっくりするほど俺は落ち着いていた。
「できません。ココまで来たら守りきらないといけませんから。」
『しかし!このままではセイジーが!』
ワンド子が『コックピット内の温度が60度を超えました。はやく退避を』と言っている。
なるほど、どうりであたまがボーっとするわけだ。
「伯爵、俺たちの出会いを覚えていますか?正直言いますと、最初は嫌な貴族に絡まれちゃったって思ったんです。」
『何を急に言い出すのだ。まあ、あの時はわれも平民から高価なものを買い取ってやるくらいの気持ちだったがな。』
「ですが、最後は親友だと思えるまでになりました。いままで人付き合いが苦手だったので、伯爵は俺の初めての友人でした。」
『セイジー…。そういう意味ではわれもセイジーが初めての友である。貴族などと言う虚飾の世界では誰にも心など開けなかった。何も考えず一緒に喜び合いたいと思えた友はセイジーだけであった。』
そこで機体がバリバリと壊れるような音が聞こえた。
『セイジー君、スカートが圧壊。他のパーツも破壊されそうです。脱出を!』
「ワンド子だけで逃げてくれ。俺はココで大メイドーを動かさないといけない。」
すると焦った声を出していたワンド子の声が急に冷静になった。
『わたしはセイジー君とずっと一緒です。セイジー君が覚悟をきめたのでしたら私もお供します。』
「すまない。」
ははは、人生の最後が見えてきたときに急に俺はヒーローポジションだ。
巨大ロボットで街を守り、親友と語り合い、美少女に忠誠を誓われ、自分の死を受け入れようとしている。
俺のドコにこんな自分がいたんだろうか?
唐突な死を受け入れるほど、人間が出来ていたとは思えない。
そうか…
この半年が充実していたからだ。
だから、熱い心が自分を突き動かした。
そうか、俺が何をやってもダメだったのは、イジケた心だったからか。
ははは、死ぬ瞬間に気づくとか、ほんと俺って馬鹿だな。
すると耳元で懐かしい声がした。
『その自己犠牲の精神、善行をするにあたり無心な行為。某はセイジー氏のような男のサポートが出来て心底嬉しいでござる。』
一瞬誰かわからなかったが、数秒考えて思い出した。
大天使・大空姫様だ。
「大空姫様?どうして急に?」
『うむ、このままではセイジー氏が死んでしまうでござる。されどその尊い自己犠牲の精神に免じて、特別にマリユカ様をお呼びしたでござる。死の直前になったら日本への帰還を望めばスグに叶えられるでござるぞ。』
助かる…のか?
すると通信で伯爵の嬉しそうな声が届いた。
『セイジー、ナガミーチさんのドラゴンゴーレムのブレスが大地に穴を開けて、マグマを山の向こう側から逃がしてくれたぞ。早く戻ってくるのだ。』
「それなら良かったです。でも。。。」
俺は大メイドーの機能チェック画面を見た。
そこに映された表示は、全身が動作不能になったことを示している。
どうやら、もう上昇するだけの力は残っていないみたいだった。
「すいません伯爵。大事な大メイドーを壊してしまいました。俺は帰れそうにありませんから、せめてナガミーチさんへの結婚祝いを俺の分もお願いします。」
『セイジー何を言っている!今助けに行く、待っておれ。』
だがバキバキと躯体が悲鳴を上げている。
伯爵は間に合いそうに無い。
おれはワンド子を大メイドーから引き抜き抱えた。
「マリユカ様、お世話になりました。こちらの世界で俺は本当に生きるということを知ることが出来て幸せでした。わがままを一つだけ言わせてください。ワンド子を一緒にお願いできませんか。」
俺がそう言っている間にも、モニターから見えていた外の黒い岩石が真っ赤に溶け出す。
冷却魔法もきれたようだ。
その真っ赤なマグマの中を誰かが泳いでくる姿を大メイドーの魔道カメラが捕らえる。
え?マグマの中だぞ?
泳いできた人は、ビタンと大メイドーの顔に張り付く。
その結果、モニターには泳いできた人が大アップで映し出された。
マリーちゃんだった。
マグマの中、髪の毛が少しずつ燃えていき、黒髪の下から水色の毛が現れる。
『セイジーよ、ワンド子も一緒に日本に送ってあげちゃうのです。』
マリーちゃん、あなたがマリユカ様だったんですね!
そうか…ありがとうございます。
心の中で手を合わせて感謝した。
『では、ナガミーチの6番目の弟子よ。日本でも頑張ってくださいね。』
その言葉と同時に、大メイドーが溶岩の圧力でグシャリと潰れた。
それと同時に不思議な女性の声が頭に響く。
『おっけーね。』
俺は、潰れるコックピットの感触を感じながら意識を失った。
気がつくと、街頭で照らされた夜道に立っている。
あれ?俺の体、潰れてない。
慌てて周りを見る。
目の前にはエロイ巫女姿みたいな服を来た少女が立っていた。
その姿は16~17に見える、ポニーテールの美少女。
目の周りを、歌舞伎の隈のような化粧をしているが、それが良く似合っている。
そして思い出した。
ここは半年前に、俺が日本でみた最後の場所だと。
少女はニヤニヤ俺に拳を突き出して、コツコツ胸をつつく。
「なんだい、随分立派になったじゃん。このアマノウズメ様に出会ったんだ、これからもしょぼい芸人で居るんじゃないよ。私は見ているからね。精々楽しませておくれ。」
そしてアマノウズメと名乗った少女は、空に凄い勢いで飛び去った。
「うわ!高速飛行魔法!」
自分は今日本に居るんだよな?
一瞬混乱したが、周りを見渡すとやはり日本の風景。
夢…だったのだろうか。
長い夢を見せられていた可能性もあるか。
だが、手に持っていた杖から声がする。
『うわー、ここが日本ですか。セイジー君やお父さんの故郷なんですよね。なんか迷路みたいなところですね。』
驚いて俺は杖を見る。
ワンド子だ。
そうか、この半年はやはり現実だったのか。
俺は不思議な気持ちでワンド子を見つめる。
するとワンド子の先についた青い宝石が赤く色を変えた。
『そんなに見つめられたら、わたし恥ずかしいです。あの、その、はやくセイジー君の家に帰りましょうよ。』
おもわずワンド子を抱きしめた。
「ワンド子、一緒に来てくれてありがとう。ほんとうにありがとう。」
杖は全身赤くなる。
『セイジー君、こんな路上でそれは大胆ていうか、その、あの、えっと、恥ずかしいですよー。』
ワンド子は真っ赤な顔をした少女の姿になり、俺を突き飛ばす。
おもわず尻餅をついてしまった。
だが笑いがこみ上げてくる。
「あははは、俺は凄い体験をしたよ。ワンド子、俺頑張るから一緒にこの世界を走り抜けてくれるかい?」
ワンド子は困惑の表情を浮かべたが、優しく微笑んだ。
「もちろんです。わたしはセイジー君とずっと一緒です。」
「この、可愛いやつめ」
また抱きしめた。ワンド子の少女特有の柔らかい体が、いまはとても愛おしい。
「ひゃあああ、ダメですよー、だーめー。セイジー君、人が見てますよー。恥ずかしいー。だーめー。」
人が見てたっていいさ。
俺とワンド子の仲じゃないか。
そう思っていたら、後ろから肩を叩かれた。
振り返る。
そこに立っていたのは警官だった。
「君、いやがる未成年に抱きついて何をしているんだ!現行犯で逮捕する。」
ハッとした。
しまった!
ワンド子はどう見ても『セーラー服を着た巨乳女子中高生』。
俺は『キモイ顔をした30男』。
事案発生だ!
「違うんですよ、おまわりさん!勘違いしてますよ。違うんじゃよ。違うんじゃよおおおお。」
「はいはい、みんなそう言うんだよ。」
日本に帰ってきた直後、俺はいきなり逮捕されてしまった。
空の上のほうから、アマノウズメさんの笑い声が聞こえてきた気がした。
お読みくださりありがとうございます。
次回、玉置誠二編、エピローグ。
警察官「逮捕する!」
セイジー「せめてワンド子がメイド服なら誤魔化せたのに。セーラー服はあかん、言い逃れが出来ない…。」




