石田長道 その12
登場人物紹介
ジャック・ベルセック:忘れられがちだが、ベルセック家の旦那様。
ナガミーチ・ベルセック:とにかく正座させられる人生。
―石田長道 その12―
ベルセック侯爵邸。
本宅のサロンです。
ここで僕は正座をしていた。
お膝の上にはマリーちゃん。
右手側にはマリア奥様。
左手側にはジャーニーさん。
そして正面にはデルリカさん。
カイル君と旦那さまは離れたところから、そっと成り行きを見守っている。
お昼ごはんを貰いに来たら、有無を言わさずこの状況にされた。
納得行かないけど、逆らう度胸はない (キリッ)。
そしてマリーちゃんが立ち上がり楽しそうに叫ぶ。
「では第三回、ナガミーチ異端審問会をはじまーす。 (にぱあ)」
またかよ!
もう勘弁してよー。
大丈夫、今回も僕は生き残るぞ。
すると、デルリカさんのお母様であらせられるマリア奥様が、美しい顔に青筋をたてながら無理やり微笑んで僕の肩を掴む。
「ナガミーチ、まさかとは思いますが、あなたビグニー家に鞍替えしようとかは考えておりませんよね。」
ああ、今回の異端審問会の主旨がわかった気がする。
「はい奥様。ビグニー家にはプチ家出でお世話になっていただけでして、本格的にベルセック家を出る気はございません。」
するとマリア奥様頷き、僕の肩から手を離す。
次はジャーニーさんが僕の肩を掴む。
「デルリカお嬢様が、ご自分のせいでナガミーチさんが出ていったんではないかと泣いていたのに、無視していたのはどうい了見だい?」
ジャーニーさんは相変わらず見た目がエロいなあ。
下から見上げると、余計エロくみえる。
でも今は、明らかに怒った笑いが、そのエロさをかき消すけど。
僕は慎重に言葉を選んだ。
「デルリカさんは、ジャーニーさんの前では淑女ですけど、僕の前ではいつもあんな感じですよ。騒がしくて我がままで、それでいて僕の言葉に耳を貸しません。ですから泣き止むまで待っていただけでして、無視した訳ではないんです。」
ジャーニーさんは納得の行かない表情をしたが、デルリカさんが『こればっかりはワタクシも反省しております』と付け加えてくれたので、引いてくれた。
つぎはデルリカさんが正座する僕の前でcurtsey(片足を引いてスカートをつまんで挨拶する)のお辞儀をして微笑む。
「ナガミーチ、ワタクシはナガミーチ以外に頼れる人を知りませんわ。もうワタクシは生涯独身でしょうから、頼れる人がいなくなっては本当に恐ろしいと考えますの。そう考えると、ナガミーチと仲のよい人たちを皆殺しにしてしまいそうですわ。で、ビグニー家のビレーヌ様と結婚でもされる気ですの?」
なぜ脅してから本題に入る。
「ビレーヌさんは公爵ですから、僕は候補には挙がりませんよ。公爵と言うのは王家の流れです。万が一望まれても、僕のような得体の知れない庶民は、自主的にご辞退いたします。」
デルリカさんは微笑んで僕の頭を両手で掴んだ。
あ、これはこの後、望まない返事をしたら首をネジ切るっていう脅しですね、わかります。
「ではずっとワタクシたちと一緒ですわね。」
脅しながら聞くことじゃないでしょうに…
「マリーちゃんが出て行かない限りはお世話になるつもりです。」
するとデルリカさんは僕の頭を放し、うなずく。
最後にマリーちゃんが僕の膝に立ち上がった。
あ、これジャンピングお膝の刑のポーズだ。
マリーちゃんは、いつでもジャンプできる体勢で質問をしてきた。
「では、私に見返りを求めてくださいなー。何でも良いですよー。」
「ん?なにを言ってるの?」
すると、正座の膝の上でピョンピョンしはじめる。
「痛い!痛い!痛い!すいません考え中ですから時間をください。」
するとジャンプをやめてくれた。
ふう、しかしマリーちゃんは時間切れとか言ってまたジャンプをしかねないので、早めに答えなくては。
「えっと、じゃあ僕が研究や仕事をしている時にお茶とか入れてくれたら嬉しいかな。」
するとマリーちゃんは満足げに微笑んだ。
「はい、契約成立です。これで逃げたら呪いが襲いまーす。」
契約していなくても呪うでしょ。
だったら、どうでも良いですよ。
「それで良いですよ。」
するとマリーちゃんは満足げに僕の膝に座る。
ふう、どうやら今回も生き残れたようだ。
今回はちょろかったな。
…っと思ったけど、それは間違いだった。
そんな僕にカイル君が近寄ってきた。
「ナガミーチさん、僕はナガミーチさんを兄のように慕っていたつもりです。ナガミーチさんはどうですか?」
カイル君は可愛いな。日本では17歳男子とか敵でしかなかったけど、カイル君は素直の弟にしか見えない。
「僕もカイル君は弟としか思えないですね。」
そこで旦那様が僕に歩み寄ってくる。
この屋敷で、一番影が薄い可哀想な人、それが旦那様。
「では二つのうちのどちらかを選ぶと良い。デルリカと結婚するか、我が養子となるかを。」
「すいません、耳には届いたのですが、あたまが理解を拒絶しました。結婚か養子を選べと聞こえたのですが?。」
旦那さまは真面目な顔で頷く。
「そうだ。結婚か養子かだ。どっちであってもカイルはナガミーチの弟になるな。」
驚いてマリア奥様を見る。
静かに頷かれてしまった。
ジャーニーさんに「助けて」という視線を向ける。
ニヤリとされてしまった。
デルリカさんを見たら斧を握っていた。
あかん、これ、間違った答えをしたらヤバイパターンだ。
マリーちゃんを見た。
「褒めてくれても良いんですよー」
ドヤ顔された。殴りたい、この少女。
いや9歳でベルセック家に来た事になっているから、マリーちゃんの人間年齢は28歳だから少女ではないよな。
合法ロリ?ロリばばあ?
まあ良いや、殴っても合法なら。
たぶん僕はココで返事を間違えたら終わる。
リセットでやり直せない、進化の分岐点に居るのだ。
もう一度デルリカさんを見た。
「デルリカさんの希望に任せます。死にたくないんで…。」
すすと斧を仕舞って僕の肩を叩く。
「嬉しいにゃん、お兄ちゃん。」
溜息をつき、旦那様を見た。
「どっちにしても跡継ぎ問題が複雑化しませんか?」
すると高笑いされてしまった。
「わははははは、ナガミーチが本気でのっとりを考えていたらとっくに当家はお前のものであろうよ。そうしなかったという事は、カイルに継がせる気なのであろう。」
「まいったな、計算ずくですか。ま、確かにカイル君についでもらわないと僕も自由に出来なくて困りますからね。」
するとジャーニーさんが膝を付いた僕に視線を合わせる。
「でもよかったのかい?デルリカお嬢様との結婚も悪くないと思うんだけどねー。」
「いやいやいや、もう今更ですよ。タブン一緒にお風呂に入ってもそう言う気持ちにならないですって。妹にしか見れないですもん。」
するとマリーちゃんはニコニコ僕とデルリカさんの間に立つ。
「私には見えます、500年後もデルリカがナガミーチをお兄ちゃんて呼ぶ姿が。」
思わずゾッとした。
「まじ?それはどんな呪いなの?」
デルリカさんに、無言でお嬢様キック(スカートの端をを摘み上げながらの前蹴り)をされた。
お兄ちゃんを蹴らないでほしいにゃん。
どうやら僕が家に居ない間に、僕を養子か婿養子にすることは決定していたらしい。
それが二度と出て行かれる心配が無い策だと判断されたという事だ。
なんというか、強引では有るけどありがたいことでもある。
そこまでして執着されると、ほんとうに受け入れられていたと実感できて嬉しいな。
あきらめと喜びで、微笑がこぼれてしまった。
立ち上がり旦那様に向う。
だが何故か旦那さまは目を泳がせて、冷や汗を流していた。
どうしたんだ?
すると、デルリカさんの目がスーっと細くなる。
「お父様、まさかとは思いますが、先走って結婚で手続きを済ませたとかはありませんわね。」
ゆらりとマリア奥様とジャーニーさんが旦那様の横に動いた。
動揺した旦那さまは声が裏返る。
「ふっつう、デルリカと結婚か養子のどちらかを選べと言われたら、結婚を選ぶものではないのか?普通そう思うであろう?」
「いいえ、兄になるほうを選ぶと思っておりましたわ。(マリア奥様)」
「2人の関係を見ていたら、普通に兄妹デショ(ジャーニーさん)」
「僕ですら、ナガミーチさんは兄弟を選ぶと思っていました(カイル君)」
「ジャックは馬鹿ですねー。ナガミーチはデルリカをレディーとしていて見ていないのは一目瞭然ではないですかー(マリーちゃん)」
あ、旦那様の顔が青ざめていく。
どうやら旦那様、今日が見納めかも。
そう思って、おもわず手を合わせた。迷わず成仏してください。
あとはカイル君が頑張ってくれると思います。
するとデルリカさんがとても爽やかな笑顔で旦那様の周りを歩き出す。
ほんとうに爽やかな笑顔だったが、まるで獅子が怯えるウサギを追い詰める姿に見えた。
三週ほど回ったあと、デルリカさんは意外なことに、本当にスッキリした顔になる。
「それも良いかもしれませんわね。これで馬鹿貴族に群がられることもなくなりますし、ナガミーチが逃げたら追いかける口実としても上等です。別に結婚したからといってナガミーチがワタクシに手を出すとも思えませんので、案外良い落としどころかもしれませんわ。」
すると無邪気にマリーちゃんが僕をよじ登る。
「それもそうかも。デルリカと結婚していても、実態はマリーのものですからね。これはこれでアリかもしれませんよ。」
僕を置いてきぼりにして話が進むけど、一つ確認しなければ。
「サトミーさんには偽装結婚だって伝えていいですか?」
デルリカさんは微笑んで頷く。
「もちろんですわ。ヤスコーやタケシー様にも偽装だって伝えないといけませんから、どうせ伝わりますものね。」
なんとも、人生急展開だ。
視界の端の方で、デルリカさんに許されて、旦那様が安堵で膝から崩れ落ちる。
怖かったでしょう、僕もよくデルリカサンの怒りにさらされるから分かりますよ、お義父さま。
なんともトホホな結婚話なこと。
でも部屋の中では普通の人には見えない人工精霊達が嬉しそうに所狭しと飛び回っている。
なんかテンション高いな、この娘たち。
なんで君らが偽装結婚にテンション上がるの。
デルリカさんすいません、いきなり1500人もの人口精霊たちの義母さんになってしまいました。
連れ子が多くすいません。
まいっか。
そこに、左手の<携帯念話>の魔方陣が光り輝く。
おやおや、誰だ?
発信もとの名前はセイジーとなっていた。
「もしもし、この戦いが終わったら結婚することになっているナガミーチです。セイジーさん、どうしたんですか?」
すると切羽詰った声が返ってくる。
『ちょっと、いきなり死亡フラグとかやめてください!今ヒッチコック伯爵領の鉱山の前なんですけど、いきなり目の前で噴火したんです。手を貸してください。』
「噴火!溶岩はどのくらい出ています?」
『凄いです、空に撒き散らせていますし、地面には赤い川が出来ています。どうにかしないと!』
どうやらふざけている場合じゃないようだ。
「今から用意していきます。あまり近づき過ぎないように気をつけてください。」
『わかりました、助かります。』
なんか、急展開な予感がした。
電話の声を聞いていたカイル君とデルリカさんが武器を構える。
「お兄様、ではお供します。」
「お兄ちゃん、さっそく夫婦の共同作業ですわね。」
デルリカさんは、お兄ちゃんで来るんだ。
まあいいけど。
僕は、研究室に走った。
こんなときにはあれが役に立つはずだから。
僕の虎の子の二台が。
ドラゴンゴーレム。
あれなら何とかできるはず。
お読みくださりアリガトウございます。
デルリカ「結婚ネタとか、もっと盛り上がるべきでは?」
ナガミーチ「どうせ何も変わらないんですからどうでもいいですよ。」
デルリカ「それもそうですわね。」
ジャーニー「あんたら軽すぎだろ。」




