玉置誠二 その11
登場人物紹介
セイジー:もう完全に魔法エンジニア。
ヒッチコック伯爵:もう完全に巨大ゴーレムエンジニア。
マリー:ほしいものは必ず手に入れる肉食系少女。28歳。
―玉置誠二 その11―
三ヵ月後。
卒業発表の日が来た。
学園の校庭で発表会は一週間続く。
はっきり言って、デルリカ様、カイル様、ビレーヌ様の卒業発表は圧倒的だった。
なんていうか、そろぞれが人の形をした戦艦かと思うほどの戦闘魔法を披露した。
見るもの全てに『ベルセック家とビグニー家にだけは逆らっちゃいけない』と思わせる壮絶さ。
空が爆発やビームで埋め尽くされた、すさまじい魔法お披露目だった。
そんなド派手な発表の後で、順番が俺たちに回ってくる。
周りからは『かわいそうに』という視線を送られてしまった。
だがそれは違う。
今の魔法合戦に負けずとも劣らない自信がある。
「では、伯爵。みなを驚かしてやりましょう。」
「そうであるな、度肝を抜いてくれようぞ。」
俺と伯爵は、まずはそれぞれ3メートル級のメイドゴーレムに乗り込む。
そして、この二機は勢いよく空に飛び上がった。
その様子に歓声が上がる。
空を飛ぶ乗り物だ、歓声があがるのは当然。
だが驚くのはこれからだ。
まずは地上に降りて、メイドゴーレムを中心に召喚魔法を展開した。
その魔方陣から、二機の巨大ゴーレムが膝をついた状態で現れる。
ゴゴゴゴゴゴ
全長20メートルのメイドゴーレムが現れると、周りにどよめきはさらに増す。
俺と伯爵は、3メートル級ゴーレムを変形させ、それぞれ召喚した巨大ゴーレムの胸に合体した。
そのとき大ゴーレム『大メイドー』の目が光り、立ち上がった。
そして走りだす。人のように細やかで、異常に高速で動くゴーレム。
それぞれ剣を抜き、俺と伯爵は剣で演武を始めた。
そうなると、見ていた連中は大興奮だ。
どの世界だって、巨大ロボットで興奮しない若者はいない。
さらに二機は空に飛び上がり、まるで戦闘機のようにドッグファイトをしてみせた。
全ての見物人が興奮で絶叫する。
演武がおわると、巨大なメイド型ゴーレムを地上に降ろし、二機並んで恭しい礼でしめる。
会場は、大きな拍手に包まれた。
その日は、夜まで俺たちは人に囲まれて疲れ果たよ。
その次の日も大変だった。
ほかの研究発表が行われているはずなのに、そっちを見ないで沢山の人たちがおれ達の研究室におしかけて来た。
そして5メートル級ゴーレムの操縦を体験するために長蛇の列を作ったのだから。
おれ達の研究が認められて、俺も伯爵も機嫌よく体験を希望する人たちをコックピットに乗せてあげた。
報われた気持ちになった。
体験希望者が全員帰ったのはもう夕方を過ぎて頃だった。
「伯爵、やはり巨大ロボにロマンを感じる人は多かったですね。」
「うむ、みな子供のような目で操縦していて、我も誇らしくなった。」
片付けながら、昨日今日の事を思い出す。
ここまで人気者になったことは無かったので、随分気持ちのよい日だった。
俺と伯爵は膝を突いた形で停止している大型ゴーレムの膝に座る。
「そういえば今まで聞き忘れてましたけど、伯爵って何歳なんですか?」
「われか?30才だ。セイジーは?」
「32歳です。学園には結構30才過ぎの人も居るんですね。」
「そうであるぞ、デルリカ嬢なぞ33歳だからな。」
おれは変な声を上げてしまった。
「へひぇええ、あんな美人が33歳?美魔女ですね。」
「はっはっは、魔女とは面白い表現であるな。デルリカ嬢は神に愛されているとしか思えぬ。うらやましいかぎりよ。」
笑ってしばらく、少しずつ暗くなる空を眺めた。
こうしていると、学生に戻ったみたいな気分で楽しい。
すると伯爵は、どこか清々しい顔で夕焼け空を見つめながら、唐突に話し出す。
「じつは当家には寄り親が居ないのだ。それで随分苦労した。」
寄り親とは、貴族派閥の親分みたいなもの。
「すごいですね、伯爵家ともなると単独でどうとでもなるのですね。」
すると、伯爵は困り顔で笑う。
「当家の寄り親はな、ナガミーチ殿に石をぶつけて取り潰しになったのだ。それ以来苦労が絶えなかった。最近は鉱山を見つけて裕福になり、なんとか他家からの干渉に耐える力を手に入れたが、それでも後ろ盾がないと辛いものよ。」
「貴族の世界も大変なんですね。」
「そのとおり。平民とは違う苦労で渦巻いておる。だが大型ゴーレムの開発に成功したので、当家も頭角を現せるであろう。セイジーとナガミーチさんには感謝しておる。」
「それならばよかったです。」
またしばらく黙る。
徐々に空が暗くなり、あっというまに夜になった。
少しづつ星が瞬き始める空を黙って見上げる。
そして、俺は自分が座っている大型ゴーレムを見上げた。
なんとも言えず清々しい気持ちだ。
なにかをやり遂げると言うのは、こういう事なんだろうか。
半端なお笑い芸人だった俺が、こんな凄いものを作るなんて想像もできなかった。
だがやり遂げた。たった半年、必死に学んで、必死に考えて、必死にもがいた結果がこの大型ゴーレムなのだ。
めぐり合わせさえよければ、俺は半年でここまで出来たのか。
人生、無駄にしてきちゃったな。
いや、無駄のまま終わらなかった幸運に感謝しよう。
神様、ありがとう。
すると、5メートル級のゴーレムが向こうで勝手に動き出す。
「あー、またマリーちゃんだな。」
「まあ、マリーであれば諦めるしかないな。」
5メートル級のゴーレムがスキップしながらやってくる。
ほんと、あのスキップは謎なんだよな。
なんどOSを確認してもそんなコマンド入ってないのに、マリーちゃんが操るとスキップができる。
ホント謎だ。
おれ達の前まで来るとマリーちゃんの声がスピーカーから鳴り響く。
『大きいの作ったんだから、これ頂戴な。私への感謝の証として、頂戴なー。』
その言葉に伯爵と顔を向け合うと、何故か笑いが出てしまった。
言われて見れば、マリーちゃんが隣の岩ゴーレムを何度も倒してくれたデータは本当に役にたっていた。
「セイジーよ、われは根負けしたぞ。セイジーはどうだ?」
「はい、まあマリーちゃんですし、ナガミーチさんへの恩返しと思って譲ってもいいと思います。」
「そうであるな。・・・・マリーよ、その機体を与えよう。それはマリーのものだ。」
『わーい、ありがとう、ヒッチコックとセイジー』
そいうなり、ゴーレムで飛び去ってしまった。
「はっはっは、とうとう盗られてしまったな。まあ、最後はこうなる予感はしていたのだが。」
「俺もです。でもあそこまで使いこなしてくれるなら、あまり惜しくない気持ちもあります。」
「そうであるな。こんどはマリーを研究して、スキップの秘密を解き明かしたいものだ。」
「ああ、俺も同じ事を考えていました。」
伯爵も研究熱心だから、あのスキップの秘密は気になっていたんだな。
そしてその夜は、2人ともこの研究室に泊り込み、開発の苦労話で盛り上がった。
やり遂げたからこその、スッキリした気持ちで朝まで語り合った。
―――
次の日、俺たちは撤収の準備をする。
といっても、必要なものを空間収納にしまうだけだが。
空間収納に入らない大きなゴーレム達は、2体の20メートル級ゴーレムで抱えて飛ぶことにした。
自分達で作っておいてなんだが、ほんと大型ゴーレムは便利だ。
だが、5メートル級が一機だけ一回で持ちきれなかった。
「こまりましたね、往復するのは面倒ですがあとでコレを取りに来ましょう。」
すると伯爵は俺を真面目な顔でみる。
「セイジーよ、この一体は我が自由に使ってよいか?2人でつくった物をわれのために使うのは忍びないのだが。」
俺は笑ってしまった。
「あはは、なに言ってるんですか。資金は殆ど伯爵がだしたんですよ。自由にしてください。僕は全部伯爵のものにしてもらおうと思っていましたし。」
伯爵はクシャリと表情をゆがめる。
「欲の無い男だな。ではありがたく使わせてもらう。感謝するぞ友よ。」
すると、あまった5メートル級のゴーレムに乗り、どっかに行ってしまった。
暇なのでちょっと昼寝をしていたら、しばらくして伯爵が走って戻ってくる。
「またせたな、セイジーよ。では飛び立とうぞ。」
「伯爵、あの機体はどうされたのですか?」
すると嬉しそうに伯爵は自分の大型ゴーレムに乗り込んだ。
「うむ、ビレーヌ公爵に贈って来た。それで寄り親をお願いしたら快諾してくださった。これで当家も安心だ。」
「おお、おめでとうございます。全て報われましたね。」
「まったくだ。」
俺はコックピットに乗り込み、杖状態のワンド子を操縦レバー位置に装着する。
『ワンド子、大メイドー二号機と接続完了。魔力共有、エンジン始動。』
ワンド子の魔力が大メイドーに流れ込み、起動する。
この機体は人工精霊を始動の暗号キー代わりに使うので、セキュリティーは万全だ。
顔に、ヘルメットが降りてくる。
それを被ると、目の前に外の光景が広がった。
ゴーグルをモニターにすることで、視界を360度確保しているので、この巨体を動かすときも死角は無い。
俺は足元のペダルを踏みながら、レバーを引く。
「大メイドー二号機、飛行!」
ほぼ同じタイミングで、隣の伯爵機(一号機)も飛び立つ。
軽くGがかかり、外の光景が凄い速さで上昇していることを伝えてくれる。
空を飛ぶ。
すごく気分がいい。
この大メイドーは自然落下しても壊れないくらい頑丈だと知っているから余計楽しい。
ものの15分程度でヒッチコック伯爵領についた。
馬車なら三日の距離だ。
150km
それが15分。時速600kmの飛行だ。
現代日本でも、これだけの速度は難しい。
魔法の力は、上手く使えば現代日本の常識を軽がる凌駕する。
痛快な気分だ。
しかもゴーレムは着地に滑走路なんて要らない。
減速しながら、半分自由落下で着地だ。
だが地面に衝突はしない。
足の関節を柔らかく使い、屋敷内の庭に静かに着地した。
人型だからこそ出来る技である。
ヒッチコック家の保管庫にゴーレムを格納すると、俺はハッチをあけて叫んだ。
「では、俺はこのままお屋敷に戻ります。明日もビグニー家の魔道教室でお会いしましょう。」
伯爵も顔を出して叫ぶ。
「あいわかった。明日ビグニー家にて会おう。」
手を振り合い、俺は大メイドーで空に飛んだ。
まさかこれが伯爵と、生涯の別れになるとも知らずに。
お読みくださりありがとうございます。
マリー「ビレーヌももらったのですね。じゃあ相撲しましょう。」
ビレーヌ「よろしくってよ。勝ったらナガミーチ様はわたくしが貰いますわ。」
マリー「え!それはダメ。ドスコイ!」
ビレーヌ「グフッ、見えなかった・・・ですと。ばかな、性能はこっちが上のはずですのに…。」
マリー「ふう危ないところでした。時間をとめて攻撃するのがもう少し遅かったら危ないところでした。」
ナガミーチ「おいおい女神、相撲程度で時間とめるなや。」




