玉置誠二 その10
人物紹介
マリー:この世で唯一、何をしても許される存在。だが時々ナガミーチに許されないで泣く。
ナガミーチ:周りからは大変だと思われているけど、本人はやりたい事しかやっていない。
ヒッチコック伯爵:やりたいことに全てをかけられる男。
セイジー:まるで魔法エンジニアのようなことして、自分がお笑い芸人だったという事を忘れている。
隣の研究室の人:ナガミーチのせいでイロイロ失脚して学園に来る。なのにマリーに苦しめられて日々に泣いている。
―玉置誠二 その10―
それから二ヶ月が過ぎた。
ナガミーチさんはベルセック家に帰ったけど、毎日ビグニー家にくるので日常はあまり変わらない。
少し違うところは、ナガミーチさんの傍には必ず、あの美少女マリーちゃんやデルリカ様が居ることだろうか。
ナガミーチさんは「あの人たちの面倒を見ていたら、短時間でシナリオが作れない」といっていたが。傍で見ると納得してしまう。
今も、ビグニー家の講義室で我々と質疑応答で授業を進めてくれているのだけれど、チョコチョコとマリーちゃんが邪魔をする。
「ナガミーチ、お菓子食べたいです。」
するとナガミーチさんは説明の声を止めることなく、マーリーちゃんを膝の上に乗せて、お菓子を口に運んであげる。
さらにマリーちゃんは邪魔するかのように絡んでくる。
講義している最中でもお構いなしだ。
「ナガミーチ、飽きましたよー。御本読んでくださいな。」
するとナガミーチさんは、そっとマリーちゃんに見えるように教本を持ち、続きの説明を始める。
「この38ページに書いてある、精霊魔法の概念は特に重要です。ではマリーちゃんここから読んで見て。」
するとマリーちゃんは楽しそうに続きを読み始めた。
そんな御本でもいいんだ。
この娘、かまってもらえば満足なんだな、きっと。
っていうか、ナガミーチさんが慣れ過ぎていて驚く。
幼稚園の先生とかしたら上手そうな気がする。
そうして今日の授業が終わると、ナガミーチさんはマリーちゃんに紅茶を飲ませだした。
当たり前のように、ナガミーチさんがカップをマリーちゃんの口に運んで飲ませる姿にも、そろそろ慣れてきた。
俺はナガミーチさんの傍に歩み寄る。
「大変ですね。全然面倒くさそうにしないナガミーチさんは凄いと思います。」
ナガミーチさんは諦めた表情をした。
「でしょ、これだから仕事が進まないで困るんですよね。」
するとマリーちゃんは膝から飛び降りて、ナガミーチさんの横に直立不動の姿勢になる。
「マリーは邪魔してないですよ。全然邪魔しないですよおお。」
なんかマリーちゃん、すごい目が泳いでいる。
ナガミーチさんは、そんなマリーちゃんの頭をそっと撫でた。
「別に良いですよ、僕の仕事が滞って困るのは、僕とマリーちゃんなんですから。」
マリーちゃんはナガミーチさんの服を掴んで首をプルプル振る。
「マリーは良い子になると決めたのです。ナガミーチが気持ちよく仕事が出来るようにするのです。」
マリーちゃん可愛いいなあ。
うちのワンド子も可愛いからギリギリ嫉妬しないですむけど、昔だったら絶対ナガミーチさんを殴っていたな。
そこでヒッチコック伯爵が図面を持ってナガミーチさんの傍に現れた。
「ナガミーチさん、これはどうであろうか?飛行機能になるであろうか?」
図面を受け取って、ナガミーチさんはしばらく考える。
「そうですね。浮くだけならいけると思いますが、効率が悪いと思います。魔法だけにこだわらず、補助燃料を使ってみては?燃焼力の高い液体を補助に使えば魔力量の節約にもなりますし。」
「おお、さすがである。では補助燃料も開発せねばなりませんな。」
伯爵は驚くほどの学習能力を発揮し、すでに素晴らしい研究者になった。
彼が居てくれたお陰で、俺たちの巨大ゴーレムは驚くべき速度で形になってきている。
この人に一子相伝の権利を使ってよかった。あたりだと思う。
こんな充実した日々を送っている。
次の日、俺と伯爵は学園の裏手に来た。
ここに研究室をかりて巨大ゴーレムを作っている。
どうやら今年は、みなさんの卒業の年らしく、それぞれで卒業課題を頑張っているのだ。
ヒッチコック伯爵はもちろん、卒業課題を巨大ゴーレムで申請した。
なので、この研究室が借り受けられたのだ。
100メートルほど向こうには、ライバルである岩ゴーレムが見える。
向こうも少しずつ改良しているようで、今は岩だけで作らず、金属の装甲をつけることでパワーアップを図っているようだ。
なんか、こちらに対抗しているっぽい。
だが、それでも向こうの岩ゴーレムでは足りなすぎるのだ。
まず岩ゴーレムは、関節の機構がない。
どうやら魔力で関節を無理やり曲げているようだ。
それでは効率が悪いし、動きが遅いのはしょうがないだろう。
つぎに動力源が無い。
魔力で無理やり曲げるので、向こうにそう言うものが無いのは当然だ。
こちらは、各関節にモーター機構や、大きな筋肉の再現をするエンジンなどを組み込み、運動性が抜群に高い。
なので速度も速いし、パワーも強い。
そして素材が違う。
向こうは砂とか、岩とか、鉄板とかでしかない。
だがこっちは、ナガミーチさんが研究した「魔法合金」や「魔力伝道素材」などが大量に使用されていて強度も軽さも段違いに上だ。
しかも装甲自体に魔力を保存すると言う「装甲電池」という考え方を採用しているため、保有魔力量も高く、結果的に連続駆動時間も桁違いに長い。
むこうは丸1日魔力を詰めこんで、30分程度しか動かないが、こっちは1日の充電(充魔力)で3日は動く。
最後に、動きの複雑さが違う。
向こうは適当に地面を払ったり、大きな物を殴る程度しかできない。
だがこっちは、人が乗って操作するので段違いに複雑な事ができる。
まあ、それでも向こうがこちらよりも優れている部分もある。
それは作成コスト。
……これだけは向こうが圧倒的に上だ。
コッチのゴーレムを一体作るの必要な資金は、最低でも金貨10万枚くらい。
向こうは金貨1000枚くらいだ。
まあ向こうとの差はどうでもいいか。
一応、この二ヶ月の実験で、理論的な事は大体クリアーしたはずだ。
今までは3メートル級と5メートルほどのゴーレムを作って実験を繰り返していた。
その結果、3メートル級2体と5メートル級のゴーレムが10体ほど研究所の前に並んでいる。
全部見事に女性のようなシルエットをしているのはご愛嬌だろう。
このクラスだと、胸にコックピットが乗ってるのだがその都合上、3メートル級と5メートル級のゴーレムはみな巨乳仕様になっている。
そして、ゴーレムの機動性を守るためと、飛ぶときの浮力を作るために、足回りのアーマーはしっかりとしたスカート型にした。
顔はあえて目しかない作りにしてあるので、のっぺらぼうのような顔である。
頭には、高エネルギーにより発生する余剰な熱を排出するために、長い髪をつけることになった。
そして少しでもソーラー機能を使うため、ボディーの色は基本黒。
いろいろ機能を付けていったら、必然的にメイド型になってしまった。
ナガミーチさんにアドバイスを受けたからではなく、本当にヒッチコック伯爵と相談して機能をつめて行ったらメイド型になってしまったのだ。
だが周りの人たちはそこを理解してくれない。
『ナガミーチさんの弟子だから、あんな大きなメイドを作ってるのだな』
そんな噂に晒される。
噂した奴には、絶対売ってやらないからな。
あと実験用に5メートル級をいくつか作ったのには訳がある。
これはナガミーチさんのアドバイだったのだが、
『デカイ物を作るためにはデカイ重機が必要です。どうせ実験体を作るなら重機代わりになるものを作れば無駄が無いと思いますよ。』
というアドバイスのためだった。
実際これは正しいと思う。
3メートル級のゴーレムが無ければ、5メートル級のゴーレムは作れなかった。
5メートル級のゴーレムが充実したので、今日から20メートル級の実験に入る予定だ。
さて作業を始めるか。
今日からが本番だ。
そう思っていたら、研究所の前に立たせていた5メートル級のゴーレムの一体が勝手に動き出す。
「セイジーよ、また勝手に乗られてしまったようである。」
落ち着いた声で伯爵が苦笑いをした。
俺も苦笑いしか出ない。
だって犯人は絶対マリーちゃんだから。
この学園には三つの掟がある。
デルリカ様を怒らせるな。
ナガミーチさんを敵に回すな。
マリーちゃんに逆らうな。
だから俺たちは、大事なゴーレムを勝手に動かされても、ただ諦めて見つめるしか出来ないのだ。
「まあこればっかりは諦めましょう。」
「そうであるな。マリーであるしな。」
メイド型の5メートル級ゴーレムは、無邪気な声を発しながら、岩ゴーレムに向っていく。
『岩のおじちゃーん、あーそーびーましょー。』
可愛らしいマリーちゃんの声が響いた。
だが向こうの研究所のほうから悲鳴が聞こえてくる。
そりゃ悲鳴も上がるよな。
週に何度も、ああやってゴーレムを破壊されるんだから。
向こうの研究所から悲鳴に次いで、怒号が響く。
「小娘、今日こそは殺してやる!」
鉄板つきの岩ゴーレムが動いた。
そして棍棒でマリーちゃんの乗る5メートル級ゴーレムに殴りかる。
その攻撃を、素早く回避したマリーちゃんは、岩ゴーレムにキックをかました。
その一撃で足が砕け、岩ゴーレムは地面に倒れる。
倒れた勢いで、岩ゴーレムは自壊した。
すると、また向こうの魔道師の悲鳴が響くのだった。
むごい。
心血を注いで作った作品が、子供の無邪気な遊びで壊されるとか残酷過ぎる。
もしも、俺があの魔道師の立場だったら、ぜったいマリーちゃんの暗殺を考えると思う。
しかし諦めるしかない。
なぜなら、マリーちゃんの仕業だから。
伯爵は泣きながらその光景を眺めていた。
「明日はわが身かと思うと、身につまされるものがある。」
「まったくです。世界は不条理ですね。」
メイド型5メートル級ゴーレムは、スキップしながらコッチに来る。
スキップって、、、、あんな機能あったのか、自分で作ったものだけど、今初めて知った。
ゴーレムがおれ達の前まで来ると、背中が開いてマリーちゃんが出てきた。
「セイジー、ヒッチコック、このおもちゃ頂戴な。(にぱあ)」
『お嬢ちゃん可愛いからあげちゃう』と言いそうになって、ぐっとこらえる。
するとヒッチコック伯爵が機転を利かせた。
「マリーよ、ナガミーチさんならもっと素晴らしい出来のモノを作れるであろう。同じようなものであったら、我等の作ったものとナガミーチさんの作ったモノのどっちが欲しいか?」
するとマリーちゃんは楽しそうにゴーレムから飛び降りる。
「じゃあ、ナガミーチに作ってもらって来まーす。ばいばーい。」
可愛い後姿を見送る。
「流石です伯爵。見事な切り替えしでした。」
そう言って伯爵をみたら、目の前のゴーレムによじ登り、コックピットに顔を突っ込んでいた。
「伯爵?何をしているんですか?」
満足そうな顔の伯爵が俺を見て笑う。
「わっはっは、コックピット内の少女の香りを堪能していたのだ。よき香りである。」
ちょ、伯爵!ズルい。
「俺も!俺も!」
急いでゴーレムによじ登ろうとしたが、伯爵は高速で深呼吸を繰り返す。
スーハー
スーハー
スーハー
スーハー
俺がコックピットに着いたときは、すでに伯爵の息臭くなっていた。
うぬぬ、残念。
せめて体温だけでも堪能しよう。
おれはコックピットに入った。
「ではついでなんでこのまま作業に入りましょうか。組み立ての操作はしますので伯爵はナガミーチさんからもらった『空間ファクトリー』でパーツの生産を願いします。」
「うむ、まかせるがよい。」
伯爵は『空間ファクトリー』という、異空間を利用した工場を使う魔法でパーツの生産を始めた。
あらかじめ設計図に沿ったプログラムは入れてあるので、作成段階は簡単だ。
次々にパーツが出てくる。
全てのパーツが1メートル以上あるので、組み立てはこの5メートル級ゴーレムで行う。
あっという間に、20メートル級のゴーレムが組みあがっていった。
大雑把に組み上げた後、おれもゴーレムを降りて調整作業を始める。
細かい作業は結構ある。
作業しながら見ると実感するけど、組み立てた20メートル級のゴーレムは、まさにロボットである。
おっきなメイドであるが。
作業が終わると、巨大ゴーレムのコックピットが入る予定の胸のところを見る。
今はまだ空洞だ。
なぜなら、コックピットは合体式にしたから。
これはカッコイイからという理由だけではない。
全長20メートルもあるゴーレムの胸に搭乗するのは、大変だと途中で気づいたのだ。
だから、浮遊できるパーツが合体してコックピットになるようにした。
その合体をするのこそ、3メートル級メイドゴーレムだ。
いざと言うときの脱出用パーツにもなるので、丁度いいと思う。
俺は最後に出来た、合体用3メートル級ゴーレムを見上げる。
そして伯爵を見た。
「記念すべき初始動は是非伯爵がお願いします。」
伯爵は首を横に振る。
「いや、これだけは譲れぬ。記念すべきこの作業はセイジーのものだ。」
俺と伯爵は見つめあった。
お互いがどれ程熱い思いで、この2ヶ月を過ごしたか知っているから、相手にこそ譲りたかったのだ。
だが・・・
おれ達の横で、コックピット用のゴーレムにマリーちゃんが乗り込むのが横目で見えた。
「「あ!」」
あまりに見慣れた光景だったので、うっかり出遅れた。
すると外部スピーカーからマリーちゃんの声が鳴る。
『わーい、こんどのは大きいいですねー。』
マリーちゃんが乗ったコックピット用ゴーレムは変形して、20メートル級ゴーレムに合体した。
すると20メートル級のメイドゴーレムは全身から機械音を鳴らして目を光らせる。
そしてユックリ立ち上がるのだった。
ゴゴゴゴゴゴ
巨大メイド、大地に立つ。
『あははは、これは大メイドーと名づけましょう。わーい。』
そんなマリーちゃんの声を残し、大メイドーはスカートからジェットを噴出して飛行した。
そのまま、見上げる俺たちを置いてきぼりにして空高くどっかに行ってしまう。
あまりの出来事に、それを呆然と眺めていると伯爵は諦めたような声を出す。
「まあ、マリーであるからな。」
「そうですね、マリーちゃんですからね。」
そしてそれを見上げながらしばらく二人で肩を組んで余韻をかみ締める。
伯爵は満足げにつぶやく。
「飛行システムは悪くないようであるな。苦労した甲斐があった。乗ってしまってはこの記念すべき光景は見れなかったのだ。これでよかったのであろう。」
「伯爵様、さすがです。」
そして再び大メイドーが飛び去った空を見上げる。
まあ、初操縦がマリーちゃんに奪われようとも、成功なのは間違いない。
なんとも胸がわくわくするのを押さえ切れなかった。
お読みくださりありがとうございます。
マリー「ナガミーチ見て見て。面白いの拾いましたよー」
ナガミーチ「巨大メイド!それはセイジーさんやヒッチコック伯爵の物ですよね!返してきなさい!」
マリー「えー、折角拾ってきたのに。」
ナガミーチ「お菓子あげるから、返してきなさい」
マリー「はーい。」
ナガミーチ「あの女神、ほんとチョロすぎて不安になるな。




