石田長道 その4
呑気回
―石田長道 その4―
「たった一日で終わってしまってスイマセン」
僕は天界のマリユカ様のお部屋で土下座した。
でもマリユカ様はだまってニコニコ僕を引っ張り起すと、自分の隣に座らせる。
「なに言ってるんですか、すごくスリリングで楽しかったです。とくに最後の長道の活躍はカッコよかったですよ。」
いや、主人公は松尾さんなんですけど。
するとマリユカ様はパチリと指を鳴らしモニターをつける。
そこには女装した松尾さんが映っていた。
「これは?」
「はい、その後の松尾です。
松尾は日本に帰るとすぐにゲイバーで働き出し頭角を表します。
女性嫌いの毒舌がよかったようで、ひょんな事でテレビの取材を受けてそのままバラエティー番組に出るようになるんです。」
「うわあ、波乱万丈ですね。」
「で、マツオデラックスという芸名でコメンテーターとしても人気が出て、お金に困らない人生を歩んだようです。」
「そうですか、日本で成功したのなら良かったです。」
僕は心底安心した。
そこでマリユカ様はイタズラっぽく笑うと僕を見つめる。
「でも一番面白いのはですね、ことあるごとに『拙者の愛した長道さんに比べたら女なんてみんなクズよ』っていうのが決め台詞なんです。」
背筋がゾッとした。
そしてお尻がヒュンとする。
「そ、それは恐ろしい話ですね。」
横で聞いてた大海姫さんは楽しそうに僕の肩を叩いた。
「誰にでも優しくするからよ。いつか魅了を使いまくった松尾みたいなことにならないように気をつけなくちゃね。」
僕は苦笑いで返すしか出来なかった。
モテた事ないから大丈夫です。
そこで大海姫さんと僕の間に、マリユカ様が割って入ってくる。
「はいはい、注目!長道、次の作戦を立てますよ。次は大田康子30歳です。乙女ゲーみたいな世界に転生したいといっていました。今度もエキサイティングにお願いしますね。」
「はいわかりました、一週間ほどで条件設定を考えます。」
次は乙女ゲーか。
そこで、大天使の大炎姫さんが部屋に入ってきた。
「長道殿のおかげでマリユカ様に付き添う大天使が一人だけで済み助かってる。次の付き添いの大天使は私をご指名だとか。宜しく頼む。」
「はい、宜しくお願いします。今回は大炎姫さん以上の適任者はいませんので期待しています。」
「ほお、私が適任か。それは楽しみだな。」
ちょっと嬉しそうにする大炎姫さんから僕は目をそらした。
あのキラキラした目で楽しみにしている大炎姫さんに言い難い。
金髪縦ロールとキツイ顔が、悪役令嬢っぽいから抜擢したとか言いにくい。
そんな困った僕の姿すら楽しいのか、マリユカ様は満面の笑みで「言え!言え!」と指で合図を出してくる。
うう、今は勘弁してください。
言うのは後でもいいでしょう、ね。
次回から乙女ゲーの世界、頑張るぞ。
次回、大炎姫の怒りが長道を襲う。