玉置誠二 その8
セイジー:迷走する魔道師。
ヒッチコック伯爵:貴族として付き合うなら気持ちの良い男である。
ワンド子:パンツ子のファン。いつか自分も改二の称号がほしいという野望を持っている。
デルリカ:その斧は神も引き裂く究極淑女。
ナガミーチ:趣味に生きているだけなのに、大陸にとどろく名声を手に入れた男。
―玉置誠二 その8―
俺とナガミーチさんはビレーヌ様のお供として、魔法の転送陣で学園に行く。
学園に着くと、15分くらい前に高速飛行で出発したデルリカ様はすでに教室に着いていた。
どんだけ高速なんだ!っと突っ込みたかったけど、なんでやねん!って突っ込み返されたら粉々になって死ぬかもしれないので我慢する俺。
まあデルリカさんは気にしなくていいだろう。
ビレーヌ様は、すぐにご友人のサビアン様とおしゃべりを始めたので、俺とナガミーチさんはその傍に控える。
サビアン様は公爵令嬢。
ナガミーチさんは、優雅にお2人へお茶を出す。
一緒に行動していて思ったけど、ナガミーチさんてメイド級に身の回りのお世話をするのが上手い。
大魔道師、賢者の他にも、メイド好きという異名を持っているのは伊達ではないという事かな。
サビアン様は残念そうにナガミーチさんを見た。
「ナガミーチ様のお茶を飲めるのも今週一杯ですのね。悲しいですわ。それにしても、ほんとうにデルリカ様はおズルイと思いますの。あの美貌だけでも反則ですのに、ナガミーチ様まで持っていらっしゃるなんて。本当に、本当に、神様の贔屓が妬ましいですわ。」
その言葉に、ティーカップを受け皿に戻してビレーヌ様は寂しそうにした。
「いたしかたありませんわ。むしろこの一ヶ月は夢のようでした。これからはまたストーカーをして満足するといたします。」
ストーカーはやめないんですね。
そこでサビアン様は俺を見た。
「そういえばセイジーはどうなりますの?ナガミーチ様についてベルセック家に行くのでしょうか?」
するとサビアン様も俺を見て少し考える。
「いいえ、セイジーには是非当家に残ってもらいたいですね。」
「まあ、それは意外ですわね。兄弟弟子として愛着でも湧かれたのですか?」
おお、俺もモテ期きたか?
するとビレーヌ様は、夢見る乙女のような目になった。
「いいえ、セイジーが居れば、ナガミーチ様が当家を訪れざるを得ませんので、是非残ってもらいます。ワンド子も良く働いてくれますし。」
うん、わかってた。
俺はナガミーチさんとワンド子のオマケなんですね。知ってました。
すこしガッカリしてしまったけど、すぐに誰かが俺の肩を後ろから叩く。
「気にするでない。大事なのは結果だ。どんな理由があろうと他人から見たら公爵家お抱え魔道師だ、誇るが良い。」
ふりかえるとヒッチコック伯爵だった。
「伯爵、そのお言葉だけで俺はあと5年は戦えます。」
「うむ、期待しておるぞ。」
がっしり握手した。
なぜこの伯爵とここまで心が通じるのか分からないけど、なんか分かり合える。
ヒッチコック伯爵は急に真面目な顔になり、俺を教室の端っこに呼ぶ。
移動すると、ヒッチコック伯爵は肩を組んで小声になった。
「ところでセイジーよ、そろそろアレはできそうか?」
「アレといいますと…ゴーレム作成ですか?」
「いかにも。できそうか?」
「初級くらいの奴は出来そうですが、ナガミーチさん級のゴーレムの足元にも及びません。」
それを聞き、伯爵の腕に力が入る。
「それでも良い!どうだ、試しに作ってみぬか?」
すこし考えてみる。
「そうですね、俺が作れる人工精霊はまだバージョン1までですけど、インテリジェンス・アーツにするなら問題ないと思います。」
「おお、すご過ぎるではないか!インテリジェンス・アーツの作成はまだナガミーチさんしか成功させていないのであるぞ。セイジーが王国で2番目になるな。」
ちょっと目をそらして小声を出す。
「いえ、すでにビレーヌ様がバージョン3までのインテリジェンス・アーツの作成に成功しています。申し訳ありません。」
「そ、そうか。そ、それでも三番目であるぞ。これでも充分凄いことだ。大陸に3人しか居ないインテリジェンス・アーツの製作者だ。素晴らしいことだぞ。」
伯爵様、ほんとうに優しいな。
「ありがとうございます。バージョン1だと戦闘力はあまりないですが、動いて話すだけならできるはずです。」
「そうか。ならば忘れるなよ。セイジーは凄い。きっと努力でさらに上に行く。われはそれを信じている。だから上を見すぎて腐るなよ。自分のベストを考えるのだ。よいな。」
「ありがとうございます。伯爵のお言葉は、いつも俺を助けてくれます。」
「はっはっはっは、それならば嬉しいな。」
ヒッチコック伯爵は、庶民に対しては偉そうな態度を取るが、友人や仲間には友情や義理人情に厚い。
貴族らしい貴族なのだとおもう。
いい友人をもてた。
するとヒッチコック伯爵は何かを思いついたような顔をする。
「そうだ、先月からこの学園にゴーレム魔導士が来たそうだぞ。なんでもナガミーチさんが登場するまで、大陸一番のゴーレム製作の名手と呼ばれた魔道師だとか。そのゴーレムがどれ程ものか確認しに行かぬか?」
ほー、それは興味深い。
「是非お願いします。ナガミーチさんに次ぐ実力者ですかー。興味津々です。」
「よかろう、ではついてこい。」
案内されて、学園の裏手にある魔法実験場に来た。
ここは、魔法の暴走に備えて隔離されている区画らしい。
そこに着いたら、一目で分かった。
庭の隅に20メートルほどの巨大な岩のようなゴーレムが立っている。
しかも3体。
「おおお、かっこいい!」
おもわず叫んでしまった。
日本で巨大ロボットものに馴染んだ俺には、巨大な人型と言うだけで感動だ。
だが伯爵は冷めた目で見ている。
「そうであるか?まるで雑なデザインではないか。しかもノロいし、動きが優雅ではないし、なにより弱いらしいぞ。」
「弱いんですか?強そうですけど。」
すると鼻で笑われた。
「いやいや、なんでもパンツのゴーレムに一撃で砕かれたらしいぞ。」
そういわれて向こうに立っている巨大なゴーレムをもう一度見る。
パンツに負けるって…それは悲しいな。
「そうですね、パンツはないですよね。」
するとワンド子がプンプンとした可愛い表情で俺の前に回る。
「セイジー君、パンツ子さんへの侮辱は許しませんよ。パンツ子さんは異世界人を守るために、デルリカ様と戦って退けたゴーレム界の英雄なんですから!最強のゴーレムなんですから!」
「うそー」
すると、ワンド子は手に魔法陣を展開し、何かを始める。
「嘘じゃないですよ!ちょっと待ってくださいね、ナガナガ動画にその時の戦いの記録がアップされていますから見せてあげます。腰抜かしますよ!」
ナガミーチさん、この世界にインターネットみたいな魔法網も作っているのか。
あの人は『僕なんてまだまだ』って謙遜するけど、いやマジで大魔道師の名に恥じないでしょ。
ワンド子がすこし検索すると、パンツ型の勇姿を納めた動画が見つかり、俺たちに見せてくれた。
『最初は、パンツ型3姉妹vs5000の軍団』
その動画は恐ろしい内容だった。
岩の巨大ゴーレム10体が、数秒で粉々にされたり、5000の兵が何も出来ずにボロボロにされる阿鼻叫喚が映っていた。
ヒッチコック伯爵もさすがに青い顔をしている。
「女性のパンツは恐ろしいものだな。」
「そうですね、なんせ女性の最後の砦ですから、強くないといけないのでしょう。」
「なるほど、納得である。」
次は、まるで映画のように編集された
『奇跡の復活・パンツ子改二始動!』
というタイトルの動画。
プレビューが500万を超えている。
このナガナガ動画を視聴できる人たちの人数を考えたら、このプレビュー数は異常ではないかな。
一番人気の動画と言うことなんだろう。
再生すると、すぐに戦いの場面になる。
デルリカ様の前に颯爽と現れる巨乳美女。
しかしスグにデルリカ様に負けて絶体絶命に。
悲鳴を上げる巨乳美女。
いきなりキャッチーな展開だな。
巨乳美女に斧を振り下ろすデルリカ様。
そこにパンツ子が剣を持って2人の間に割って入った。
しかし、その剣は斧にへし折られ、パンツ子も切り裂かれて倒れる。
あわてて抱き起こす巨乳美女。
その腕の中で力なく微笑むパンツ子。
『ダイホーさんが無事なら何よりです。わ、わたしはもうダメそうです。に、逃げてください。』
そして目をつぶる。
絶叫する巨乳美女。
『まってよ、あなたを助けたかったの!だから目を開けて!お願いよ、死なないで!』
あ、俺チョット泣きそう。
みると伯爵はすでに泣いていた。
そこに襲い掛かろうとするデルリカ様。デルリカ様はほんと恐ろしいな。
そこでナガミーチさんが現れた。
『ここは一旦退くぞ!』
口パクとあってないセリフなのが気になるけどまあいいや。
そして場面が変わり、寝かされたパンツ子と、その周りを囲むように泣くゴーレム少女たち。
なんか胸が締め付けられる光景だ。
そこで、キツい顔をした黒髪ロングのゴーレムがナガミーチさんにすがりつく。
『ナガミーチパパ。パンツ子姉さんを助けられるのか?頼む、少しでも可能性があるなら助けて。』
するとナガミーチさんは頷き、パンツ子を空間収納に仕舞った。
『空間ファクトリー起動。パンツ子修理開始。不足資材補給。骨格補強。衣服交換。OS再インストール、機能最適化、オーバーホール!』
このとき、妙に感動的な音楽がバックにながれて盛り上げているのがずるいとおもう。
すると魔方陣が展開されて修理されたパンツ子が現れた。
パンツ子の全身が赤くなり、その光りが全て緑に変化すると、パンツ子が目を開いた。
『システムオールグリーン。ゴーレムOSをVer10.2にアップデート完了。OSを完全は把握。パンツ型1番ゴーレム。パンツ子、再起動。』
起き上がりガッツポーズをとるパンツ子。
『パンツ子姉さん!』
『姉さん!』
2人のパンツ型ゴーレムが泣きながら抱きつく。
なんかまた泣いてしまった。くそ、年を取ると涙もろくていけないな。
だがすぐに背筋が寒くなる。
『あらあら、もしかしてワタクシはタイミング悪い登場でしたかしら。』
空中を見上げると、斧を持ったデルリカ様が浮いていた。
となりで伯爵が「ひいいいい」と悲鳴を上げた。
デルリカ様は斧を舐めて妖しく微笑む。
『あらあら、ワタクシ嫌われているのでしょうか?悲しいですわ。悲し過ぎますので、ナガミーチ以外は皆殺しにしてしまいそう。ふふふ。』
動画のバックミュージックは、まるでホラーのような重低音な音楽が流れて恐怖をあおる。
これ、現地で見たら怖かったろうな。
だがナガミーチさんが叫ぶ。
『ここには現状で僕の最高傑作のゴーレムが居ます。僕の計算が正しければ彼女ならデルリカさんに一矢報えるはず。だから大丈夫ですよ。』
するとパンツ子ちゃんが内股のガッツポーズを取る。
『まかせてください、みなを守ります!私、頑張ります。』
バックミュージックが軽快なロック調の音楽に代わる。
盛り上がるなー。
そしてデルリカ様との死闘が始まった。
正に死闘といえるだろう。
パンツ型ゴーレムの凄さを見た。
多彩なパンツの攻撃。
目が離せなかった。
空中戦になったとき、パンツ子の背中から純白のパンツが羽のように現れ、大きく広げたときの神々しさは、パンツ女神かと思うほどだった。
そして最後はデルリカ様の頬に一筋の傷を付ける。
するとデルリカ様は不敵に微笑む。
『まったく忌々しいですわ。』
そういうと高速移動で飛び去っていった。
ナガミーチさんが何故か口パクと合わないセリフを言う。
『デルリカさんも、パンツ子の戦いに満足したのだろう。パンツ子よ、ゴーレム最強となったのだ、今日からパンツ子改二を名乗るといい。』
そしてパンツ子を中心に喜ぶゴーレム少女達の姿で動画が終わった。
伯爵と俺は泣きながら肩を組んだ。
「パンツ、素晴らしいではないか!」
「はい、パンツは最高です」
感動で打ち震える俺たちに向って、ワンド子はまだムクレながら問いかける。
「これをみて、まだ『たかがパンツ』といいますか?」
俺はガシリとワンド子の肩をつかんだ。
「俺が悪かった。パンツの素晴らしさを理解したよ。」
ワンド子は屈託なく微笑んむ。
「はい、パンツ型は私達の憧れです。」
そして、忘れていたけど庭の奥のほうに立っている巨大岩ゴーレムを再度見た。
あの素晴らしいドラマを見た後では、もうカッコイイとか思えない。
「あのゴーレムではイロイロ足りませんね。」
伯爵は頷く。
「そうであろう、だから言ったのだ。あんなのダサ過ぎると。」
しかし日本で育った俺から見ると、伯爵は不幸だ。
巨大ロボットのロマンを知らないのだから。
そこで、ふと気になったのでワンド子に聞いてみた。
「ワンド子、そのナガナガ動画という場所には巨大ロボットアニメとかアップされて居ないのか?」
すぐにワンド子は検索してくれた。
「ありますね、ダイホーさんという人が沢山アップしています。異世界日本のアニメのようです。」
「おおお、じゃあそのうちの一つを伯爵にお見せしてくれ。そうすれば、伯爵も巨大ロボの本当のよさを理解してくれるはずだ。」
するとワンド子は『魔神がZ』というアニメをチョイスをしてきた。
俺もはじめてみる古いアニメだけど面白いのかな?
そして3時間ほどその場で一気に見続けた。
なんか俺と伯爵は肩を組んで拳を握って唸る状態にいたっている。
伯爵は絶叫した。
「巨大ゴーレム乗りとか、カッコイイではないか!とくに小型の飛行機であたまに合体するとかロマンを感じるぞ!」
「でしょーー。俺も巨大ロボで熱いドラマを作りたいです!」
そこで伯爵が目を輝かせる。
「こう考えてはどうだ?少女型ゴーレムはナガミーチさんが圧倒的トップだが、あの人は巨大ゴーレムを作ろうとしない。セイジーがこの道に進めば『大陸一の巨大ゴーレム魔道師』になれるのではないのか?そしてかっこよくゴーレム乗りになればモテモテであろう。」
頭の中で今の言葉を反芻する。
『大陸一の魔道師』『ゴーレム乗り』『モテモテ』
俺は思わず、だらしない笑顔を作った。
「男のロマンですね。」
「うむ。」
するとワンド子がフムフムと考え出す。
「なるほど。ナガミーチお父さんは、人型ゴーレムが好きで『格闘型ゴーレムタイプ』。ビレーヌ様は、ご自身が魔法を使うのが好きな『魔法少女タイプ』。セイジー君が巨大ロボ方面の『ロボットタイプ』なら、他の上位者とジャンルが競合しないので、その道のトップになるのは確かに可能かもですね。」
そこで伯爵は興奮気味に俺の肩を揺らした。
「セイジーよ、男ならば大陸一になるチャンスを逃すものではないぞ。我とともに巨大ゴーレム乗りの時代を築こうぞ!」
「伯爵!そう言っていただけるのでしたら、ともに時代を作りましょう!」
そう言って、おれはナガミーチ魔法教本の入門編を伯爵に渡す。
「これは?」
「ナガミーチ魔法の教科書です。一子相伝でしか伝えることが許されず、それを破るとマリユカ様の呪いがかかると言うものです。これを受け取ってください。」
伯爵は慌てる。
「一子相伝であろう。では我が受け取ってはセイジーに不利益になるぞ。」
「いえ、ともに巨大ロボを作る仲間ではないですか。でしたら是非受け取ってください。」
伯爵は少し躊躇する。
「よいのか?」
「はい、2人で大陸一を目指しましょう。俺たちの時代の為に!」
伯爵は申し訳なさそうに入門書を受け取る。
「この恩、けっして疎かにはせぬぞ。」
「硬いことは言いっこなしです。友なんですから。」
そして俺と伯爵は熱く握手を交わした。
その姿にワンド子と懐中子が泣きながら拍手をしてくれる。
巨大ゴーレム王に俺はなる!
いや、俺たちがなるぞ!
お読みくださりありがとうございます。
ヒッチコック伯爵「世界に新しいジャンルを作り出せれば歴史に名を残せるぞ。」
セイジー「そしたら教科書に似顔絵とかのるんですかね。二枚目に描いてほしいな。」
ヒッチコック伯爵「二枚目にしてもらっても、落書きされるから同じである。」
セイジー「明日は我が身になって初めて気づきました。落書きした過去の偉人のみなさま、ごめんなさい。」




