玉置誠二 その7
登場人物紹介
サトミー:作詞、作曲、振り付けを自分でおこなう天才トップアイドル。っという事になってるが、ぜんぶナガミーチがやっている。
デルリカ:究極淑女といわれる美貌の貴族令嬢だが、本性はキッツイ性格のバーサーカー。
マリー:最高神マリユカの仮の姿。食い意地が張っているがブロッコリーが苦手。
ビレーヌ:赤毛の美人公爵。趣味はナガミーチをストーカーすること。
ナガミーチ:才能が有るのではない。なんでも楽しくなってしまい熱中する性質が有るだけ。
―玉置誠二 その7―
完璧に美しい微笑を見せながら、美しい姿勢でデルリカさんは歩いてくる。
なのに何故か背中に嫌な汗が噴出す。
恐怖
今俺は、目の前の美女の涼しい笑顔に身が竦んでいた。
恐れる理由がわからない。
だが理屈じゃない。
怖いのだ。
怖いのにデルリカ様から目が離せない。
視界の端の方で、ぺたんと座り込むビレーヌ様が見えた。
だれか助けに来てくれ。
そう思ってから気づく。
デルリカ様が、あれだけ轟音を立てて舞い降りたのに家のものが誰も出てこない。
家人が怖くて飛び出してこれないのか。
それほどの恐怖を撒き散らしていた。
だが、ここで俺は人間の格の違いを見ることになる。
なんとナガミーチさんがデルリカさんに向けて歩き出したのだ。
いつもと同じ力の抜けた笑顔で、呑気な声を出す。
「『来ちゃった』って、そんなセリフをどこで覚えてきたんですか。普通に来ればいいじゃないですか。あんな着地をしたら周りに迷惑ですよ。」
すげー、この空気の中で普通に会話を始めた!
するとデルリカ様が少し拗ねる。
「ナガミーチがいけないのですわ。いつまでも帰ってこないなんて許せません。」
「だからって高速飛行でこなくても…」
「サトミー様とお話をしたら『YOU、そんな人、殴っちゃいなYO』と背中を押していただいたので、いてもたってもいられずに飛んで参りました。」
ホントの意味で飛んできたって言う洒落だろうか?
すると、ナガミーチさんはデルリカさんに手が届くところまで行くと、デルリカ様の手から斧を奪う。
そうだね、それを奪っておかないとね。
「なんか、サトミーさんは本当は僕を殺したいんですかね。上級魔族を一撃で殴り殺すデルリカさんに殴られたら、僕はミストになってしまいますよ。」
デルリカ様はクスクス笑う。
「もうナガミーチったら、ミストだなんて大げさですね。」
「え?確か魔王のメビウスさんはデルリカさんに殴られて粉々になりましたよね。人間の僕だったらマジでミスト化、まったなしですよ。」
デルリカ様が驚く顔をして苦笑いをした。もう、一目で分かるような見事な苦笑いだった。
「魔王はメビウスさんというのですか?初めて知りましたわ。試練の神と同じお名前なのですね。」
「あっおー。いまのは忘れてください。」
「あの、ワタクシはメビウス様を粉々にしてしまったのですが…大丈夫なのでしょうか?」
ナガミーチさんは数秒だまってから、諦めた表情になる。
「ええ、大丈夫ですよ。次の日には包帯まみれでしたが『痛たたた、まいったわい』って言いながら現れました。ちなみに魔王の間にいた12人の幹部も『試練の12天使』でしたが、メビウスさんと一緒に首に包帯巻いて現れました。」
それを聞いて、デルリカさんは心底ホッとした表情になる。
「それを聞いてい安心いたしましたわ。神殺しをしてしまっては流石にマリユカ様にしかられてしまいそうですから。」
そう言うと、ニコニコナガミーチさんの腕を掴む。
「さあ、では帰りましょうか。」
ナガミーチさんは一呼吸。
「帰りたくないんですけど…」
ナガミーチさん度胸あるなあ。
あのまま手首を握りつぶされるかもしれないのに。
う、思い出したらゾクゾクしてきた。
すると、デルリカさんに小脇に抱えられていたマリーちゃんがヒシっと腰に抱きつく。
「ナガミーチ、帰ってきてくれたら『生涯童貞の呪い』を解きますから。だから帰ってきてください!。」
そんな恐ろしい呪いにかかっていたのか。
ナガミーチさんはメチャクチャ動揺し始めた。
そりゃそうでしょう。生涯童貞なんて恐ろしい呪いのまま死ぬわけにはいかないのだから。
「え、呪いがとける?ってことはもう僕は聖者ではなく性獣になっても良いの?でも・・・いやしかし・・・でも・・・うーん。」
あきらかに動揺している。
そして悩んだ挙句、苦しそうに声を絞り出した。
「じゃあ…今週末に帰ります。」
デルリカ様は微笑を崩し、鬼気迫る表情になった。
「絶対ですわね。騙したらナガミーチの目の前で仲の良い人たちを千切り殺しますわ。宜しいですわね。」
「うーん、分かりました。」
するとニッコリ笑って手を離した。
「よろしいでしょう。ではそれまでワタクシもこちらにご厄介になりますわね。逃がしませんわ。」
「逃げないですよ、もう。それよりもココで御厄介になるのなら、デルリカさんの寝床は研究室の床ですよ。」
二人はそこで数秒だまって見つめ合う。
「ナガミーチはベッドを使っていないんですの?」
「デルリカさんには貸しません。」
またしばらく、無言で微笑みながら見つめ合った。
空気が張り詰めたのを感じる。
「ナガミーチはベッドを使っていませんの?」
「デルリカさんには貸しませんよ。どうせマリーちゃんもご厄介になるつもりなんでしょ。だったらマリーちゃんを床に寝かせる訳には行きませんから。」
また無言で二人はニコニコ見つめあう。
すいません、何故か俺の胃が痛いです。
「まあ、でしたら三人で寝ればよいのではないですか。解決ですわ。」
「いいえ、デルリカさんが無理を言っているんですから床で寝やがれ。いやならお帰りやがれ。」
「うふふふふ」
「ふっふっふっふ」
だから俺の胃が痙攣しそうだっちゅうの。
この緊張感を緩和してよ。
そこでナガミーチさんは俺をみた。
「じゃあ、セイジーさんが20分のお笑いライブをします。それでデルリカさんが笑ったら、床で寝るか帰るかしてください。この一歩の譲歩が限界ギリギリです。」
「ナガミーチ、その一歩の譲歩を後悔させて差し上げますわ。」
え?ええ?えええええええええ!
篠さんと龍さんが素早く椅子を用意した。
ナガミーチさんとデルリカ様とマリーちゃんはすっと座る。
ビレーヌ様も『お部屋くらいご用意できるのですが…』とブツブツいいながらも座った。
俺だけがぽつんと立っている。
やばい、美女すぎる公爵様と、女神級美女と、美少女の前でお笑い芸をみせろと?
無茶言わないでくださいよ、こっちとら才能がないんですから。
そこで、明るい元気なメイドが現れた。
「はいどーもー。それでは司会進行はわたくしこと、フルート子がおこないたいと思います。では本日のトップバッターは、ゴーレム会の風雲児、エレギ子とクレシックギター子のギター漫才だ。ではどーぞー。」
どうやら、いきなり俺の出番ではなかったようだ。
でもこれはありがたい。
ステージが先に暖まっていたほうが笑わせやすい。
するとヘビメタ風のエレギ子と、アルプスっぽい格好のクラッシクギター子が出てきた。
「どもー、エレギ子と」
「クラッシクギター子の」
「「ギッタギタ娘でーす」」
なんか妙に息がぴったりだな。
そのあと、ジャンケンで負けたほうがオナラをするというギャグで、かなりみんな笑わされていた。
「「ありがとうございましたー」」
そこでフルート子がまた走ってくる。
「はい、ギッタギタ娘さんありがとうございました。ちょっとステージがオナラ臭いですが、小さいことは気にしてはいけません。さあ、二番手は普段堅物のあの人が参戦だ。執事ドルマンさん、どーぞー。」
そこに小走りで現れて、優雅に一礼する。
「はい、ドルマンです。ではね、今日は美し過ぎる観客席にドギマギしながらやらせて頂こうと思います。さてさて、実は私はね、手品が得意なんですよ。やっぱりね、執事たるもの手品くらいはできないといけませんからね。ではまずはね、お金を消すマジックをしよかとおもいます・・・」
そんな調子でナガミーチさんからお金を借りて、見事に消して「返して」といわれたところで、「すいません、マジックにね、失敗してしまいました。お金が戻ってこれないようです。いやー残念無念」といいながら、いやらしく笑う芸で、観客を笑わせてくれた。
そのドルマンさんが舞台の袖に消えると、ついにフルート子から俺が呼ばれた。
「はーい、では最後の大トリはやはりこの人。大魔道師の弟子として注目を集めている期待の新人、セイジーだ!」
フルート子は本職かと思うほど上手に舞台から身を引いた。
あわせて俺も出て行く。
「こんにちは、詰まらないことで有名なセイジーです。」
そこから俺は渾身のネタを連発する。
おそらく俺の人生で一番熱くネタを披露した。
数分後。
マリーちゃんは、飽きて足元の地面を掘り出している。
ビレーヌ様は苦しい笑顔を貼り付け状態で、我慢強くみてくれていた。
デルリカさんにいたっては、蔑むような不機嫌な顔になっている。ちょっとドキドキしてしまう自分が可愛い。
ナガミーチさんは、、、笑いどころが分からず困っている。
そんな中、ワンド子だけが「頑張ってー」「面白いですよー」と声援を送ってくれている。
ワンド子、可愛過ぎる。
だが、「わはは」と笑ってはくれなかった。
「あ、ありがとうございました」
ネタが終わり、俺が一礼するとナガミーチさんが諦めた調子でデルリカ様をみた。
「久しぶりに一緒に寝ましょうか。昔を思い出しますねー。」
すいません、お力になれず。
ナガミーチさんは「どんまい」と言って俺を励ますと、最後に自分がステージにたつ。
「じゃあ最後に僕がやりまーす。シモネタ連発でーす。」
すると、空間収納を利用して、おしりからカレーを出して食べた後
「ぐわあ、これウン○味のカレーだ!」とのけぞったり、
「じゃあつぎはウン○たべてやる、カレー味のうん○のほうがまだマシだ!」とやって
「ううわあ、これ、うん○味のうん○だ!ってそりゃ当たりまえだろ!」
とやって、爆笑を取っていた。
ステージが終わっても、マリーちゃんに「ウン○味のカレー出してー」とせがまれている。
賢者は何をやっても賢者だ。
些細な声の出し方や目配せが素人ではなかった。
あのコミカルの小芝居だけで、笑いがでてしまう。
そのあと、研究室で「じゃあ夕飯にしましょうか」といってカレーを出してきたときは「天才か!」と本気で叫んでしまった。
そのあと、散々遊んだあと、みなが就寝する。
俺は庭の小屋で横になって、ぼーっとナガミーチさんが美女と美少女にサンドされている姿を想像していた。
そんな俺を椅子に座ってボーっと見ているワンド子。
ワンド子は寝ないので、いつも俺を見ている。最近はなれたけど最初は居心地わるかったんだよな。
それよりも、今考えるべきはナガミーチさんだ。
良いなー、大魔道師。
俺も早く大魔道師にならなくちゃ。
そう思うと、もう一度魔法の練習をしてから寝ようかと思った。
小屋から出る。
すると、庭の隅でナガミーチさんが誰かと話しているのが見えた。
近くまで歩いていったら、ナガミーチさんが話していた相手が俺を見つける。
『ナガミーチP、後ろから誰か来ましたよ。』
その姿を見て俺は驚いた。
地面から、半透明な姿で浮きでているのは、トップアイドルの佐山里美だったから。
しかもパジャマ姿!
ナガミーチさんは振り向くと俺を手招きした。
「セイジーさん、ちょどホログラフ通信の実験をしていたんです。一緒に会話に加わりますか?」
「はい!お願いします!」
俺は駆け寄った。
ホログラフの佐山里美さんが小悪魔っぽく微笑む。
『こんばんわ、私はナガミーチPの4番弟子のサトミーです。よろしくおねがいしますね。』
「は、はじえまちて!!!玉置誠二です。セイジーとおよび下さい。」
『しってまーす。セイジーさんは6番弟子ですもの。そういえばコッチとそっちでは時間が違うんですよね。なんか不思議ぃぃ。』
おお、あのトップアイドルが俺の事を知っているんだ。
魔道師最高!
するとホログラフのサトミーさんはナガミーチさんに歩み寄り、密着するようにナガミーチさんの隣に座った。
『で、下らない話をしてもらえるんですよね。』
ナガミーチさんは大人しく頷いた。
「詰まらない話ですよ。」
『それが聞きたいんです。はやくー。』
すると夜空を見上げて、静かに語りだした。
「僕は自分の忠義を大事したいんです。でも、あのバカユカ様はその忠義が揺らぐようなことばっかりするんですよ。死ぬはずだった僕を拾ってくれた恩義は死ぬまで貫きたいのに、僕の仕事をなんとも思っていないと言うか、それが辛くて。」
『ナガミーチPはマリユカ様に本当にぴったり寄り添って尽くしてましたもんね。』
「まあ、それが僕のお役目ですから。でも今回は失敗しました。」
『失敗ですか?』
「そう、失敗です。どうにか現状に納得しようと自分の気持ちと戦っていたらですね・・・、今回のセイジ-さんのシナリオを作りそびれてしまったんです。」
『え? (サトミー)』
「え? (セイジー)」
「サトミーさんは、僕が作ったシナリオをマリユカ様が運命に設定する事は知っていますよね。でも前回の大福さんの時は、あのバカユカさまったら、僕のシナリオをポイって捨てて暴れだしたんですよ。すごい傑作な渾身の出来だったシナリオなのに。しかもその後始末も大変だったんです。そしたらセイジーさんのシナリオを作る暇がなかったんです。」
『それで、なんで家出になるんですか?前回のシナリオをポイされたからですか?』
「いいえ、ポイされたのは腹が立ちましたけど、そういう道化をすることも含めて忠義だと思っています。すごい不満ですけど、まあ、道化でもいいです。ですが今回のシナリオを作ってないって言うのは僕にとっては大問題なんです。だから家出しました。」
『えっと、なんで「だから」なのか分からないなー。なんでですか?』
「あの人たちの面倒を見ていたら、短時間でシナリオが作れないからです。シナリオができたら帰ろうと思っていたんです。」
『もしかしてシナリオって作るのに1年もかかるんですか?』
「かかるか可能性も有ります。早ければ1ヶ月くらいでしょうか。僕は僕の仕事を全うしたいんです。仕事が出来ない僕は価値がないですから…。たかが人間の身でもマリユカ様のお役に立つからこそマリユカ様の傍にいれると思うんです。それを『やってなかった』なんて、自分の価値が無意味過ぎて悲し過ぎます。ですからシナリオができるまで家出したかったんです。」
『なるほど・・・、たしかにナガミーチP以外にはわからない悩みかもしれないですね。そしてデルリカ様はたしかに理解してくれない気がします。』
「でしょー。これは僕以外は誰も理解してくれないし、そもそも話すこともできないですから。」
ホログラフのサトミーさんは嬉しそうに微笑む。
『でも私は理解できましたよー。やっぱり私達はベストパートナーでしたね。』
いたずらっぽく顔を突き出して微笑むサトミーさんは、本当に楽しそうだ。
「僕ばっかり得するパートナーですけどね。でも、楽になりました。ありがとうございます。」
『ふふ、その気持ちを新曲に反映させてくださいな。次もヒットする奴を頼みますよー。』
「へいへい、来週末までにはバラードとロック調の奴を作っておきます。」
『楽しみー。私はお世辞抜きでナガミーチPの曲の大ファンなんだから。自分の曲として歌えるのは役得です。ふふ。』
「頑張ります。」
そして二人は微笑みあった。
そこでサトミーさんのホログラムにノイズが入りだす。
『ああ、どうやら私の方が魔力切れみたいです。もっと魔力効率が良いように改良してくださいよー。』
「はは、過労死しそう。でもまあ頑張ります。」
『そうそう、頑張ってくださいね。じゃあ私は寝ます。』
「はい、僕も寝ます。ありがとうございました。」
『いいえ、お役に立てたならなによりです。ではお休みー』
「おやすみなさい。」
『長道P,愛してるよー』
ブチ
最後に投げキッスをしてホログラムは消えた。
「ふう、まったく僕は情けないな。さて明日から頑張るために寝ましょうか。」
すっきりした顔のナガミーチさんは笑っていた。
大魔道師でも苦悩があるのか。
しかも『自分の忠義』『自分の仕事』について、納得が出来ないと悩んでいた。
俺は、ここまで自分の仕事にプライドを持っていただろうか?
プライドに見合う仕事をしようと、ここまで苦悩してもがいただろうか?
過労死するかもと思うほど足掻いただろうか?
部屋に向って歩き出すナガミーチさんの背中を見ながら、俺は自分の考え違いに気づく。
ナガミーチさんは大魔道師だからモテたんじゃない。
ナガミーチさんだからモテているんだ…と。
すっと俺の肩に上着がかけられる。
振り向くと、ワンド子がにこやかに立っていた。
「セイジー君、夜は冷えますからそろそろお部屋に入りましょう。」
「そうだね。部屋に入ったら少し俺の話を聞いてほしいいんだけどいいかな。」
「はい喜んで。どんなお話ですか?」
小屋に歩きながら、ワンド子の肩を抱いた。
「俺が駄目な奴だったから駄目な人生だったと気づけた話だよ。」
不思議そうな表情をしているワンド子と部屋に入りドアを閉めてから、俺は自分の反省を語った。
口に出してみると、よりはっきり理解できる。
ナガミーチさんのような生き方とは程遠い、自分に気づく。
情けなさが浮き彫りになる。
よし、俺もナガミーチさんのようなカッコイイ生き方をするぞ。
明日から!
お読みくださりありがとうございました。
ワンド子「わたしもお笑い芸を披露したかったです。」
セイジー「考えたらワンド子と組めばよかったかな。」
ワンド子「そうですよ、そしたら私もお尻からカレー出しましたのに。」
セイジー「(ごくり)それは、、、魅力的だな」




