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玉置誠二 その6

登場人物紹介

サトミー:佐山里美。トップアイドル。マリユカ宇宙でナガミーチに鍛えられて真のアイドルになった。


―玉置誠二 その6―


俺と伯爵のやり取りを見ていた上級貴族達が、次々にナガミーチさんにゴーレムを注文し出す。

当然だ、あの美少女ゴーレムを見てほしがらない金持ちは居ないだろうね。


一時食堂は大きな騒ぎなったが、篠さんと龍さんが皆さんを上手に捌いたので、意外に早く騒ぎは収まった。

ナガミーチさん、またかなり儲かったと見た。


なんとなく疲れてビグニー家に帰ってきたが、すぐにビレーヌ様と俺は魔法の授業を要求した。

一流の魔道師になるために学び始めたばっかりだから、モチベーションは高いのだ。


研究室に押しかけると、執事のドルマンさんがお茶を出してくれる。

ビレーヌ様が一緒の時は、執事のドルマンさんが世話を焼いてくれるのでありがたい。


お茶を飲みながらナガミーチさんの授業が始まった。


だがすぐに、俺はナガミーチさんという男に恐怖した。

あのビレーヌ様さえ言葉を失う。


「今までの魔法理論は複雑過ぎました。なので僕は10年以上前に新しい魔法の術式理論を作って世界に設定してもらったんです。これを仮に『ナガミーチ式魔法言語』と呼んでいます。」


ビレーヌ様は意味がわからないという顔をしているので俺が質問する。

「つまり、ナガミーチさんが使いやすい魔法理論を作ったってことですか?」


「はい、そのとおりです。」

さらりと言われた。

ナガミーチさんはさらに続ける。


「たとえば熱を発するには、大気の粒子を意識で把握し、可能な限り現実に近いイメージをかぶせつつ、魔力で空気の粒子を加速させて衝突を多く起させる必要があります。でもこれだと、コントロールが煩雑ですよね。ですからそういう煩雑なコントロールを簡略化できる法則を世界に打ち込んだんです。」


ビレーヌ様は分からないなりに質問をする。

「具体的にはどのようなことをしますの?」


「たとえばファイアーボールを打つとします。そのとき、命令魔法で空間に魔法名でログインし、

fire=tempe now+tempe800

fire.size=30cm

fire.speed=500km/h

と空間に打ち込み『魔法名fire』と叫べば魔法完成です。

800度以上の30センチの火球が時速500キロで撃ち出されます。簡単ですよね。この魔法言語と空間への命令魔法さえ習得すれば、好き勝手に応用魔法が使えます。」


俺は思わずガタりと立ち上がってしまった。

「それって、まるっきりプログラミングじゃないですか!」


楽しそうにナガミーチさんは頷く。

「その通り。この『世界と言うOS』に『ナガミーチ魔法言語』をインストールしたんです。ですので魔法名でログインさえすれば、あとは僕の魔法言語をプログラミングの要領でコマンドを打ち込み、魔法を発動できます。マリユカ様と言う世界の法則にお願いできるのですから、このくらいはやらないと面白くないじゃないですか。わっはっはっはっは。」


この人は天才だ。

いや、化け物だ!

自分好みに世界の法則を設定した?

なんだそのチートは。


ビレーヌ様も今の話で顔を青くした。

当然だ、ナガミーチさんは神の御業に手を出しているのだから。


その様子に気づいたのか、ナガミーチさんは少しテンションを下げた。

「まあ、これも面倒なときは精霊魔法を使います。僕は体を持たない人工精霊を700以上連れているので、人工精霊に適当にお願いすれば、大抵の事は何とかできますから。そのためにフレンツ公国に沢山インテリジェンス・アーツ・ゴーレムを作ってもらい、デルリカさんに破壊されるように仕向けたのですもの。おかげでタダで沢山の人工精霊を作れてラッキーでした。」


その話に、さらにビレーヌ様は顔を青くする。

「ナガミーチ様にとってはフレンツ公国の必死の反撃さえ、手のひらで転がして利用する程度の事だと言うのですか?もうナガミーチ様をたたえるには『賢者』ですら足りませわね。なんと言いますか、もっと強大な存在ですわ。」


すると、ナガミーチさんは俺とビレーヌ様に本を渡してくれた。

「ま、賢者ですら身に余ってますよ。それは良いとして、これがナガミーチ式魔法言語の入門書です。これだけマスターすれば、上級魔法でも1分以内に発動できるようになりますからガンバです。」


ぱらぱら開いてみる。

完全に、プログラミングの教本だった。

魔法を完全に理解して、プログラミング式に簡略化させるとか、この人は本当に化け物だ。


さらにドサっと俺とビレーヌ様に本を渡す。

「そして今渡したのが、中級編、上級編、人体研究編、魔力成長法編、設定済み魔法法則集、神への誓願作法編と、6冊ですね。頑張って覚えてくださいね。これら計7冊を覚えたら、理論上は僕と同じ事ができます。ガンバです。」


その言葉にビレーヌ様の顔は徐々に紅くなる。

「ナガミーチ様と同じことが出来る?それって…大魔道師になれるという事ですわね。うそ、たった7冊の本ですのに。そんな。この書は危険過ぎます。盗まれたら大変な事になりますわ。」


するとナガミーチさんは呑気に笑う。

「はは、それは大丈夫です。だってその本は魔法名でログインしないと読めませんから。っていうか空間収納に入れておけば盗まれませんから大丈夫ですよ。」


ビレーヌ様は興奮で引き攣りながら、入門編以外の6冊を空間収納にしまった。

「ナガミーチ様、この本を持つのはわたくしとセイジーだけでしょうか?」


首を横に振る。

「いいえ、デルリカさん、マリア奥様、ジャーニーさん、カイル君、ダイホーさんが持っています。」

ビレーヌ様は納得した顔で頷いた。

「なるほど。まさに人類のトップ達ですわね。これはつまり、わたくしもそのお仲間に入れるという事でしょうか?」


「そういう事ですね。」


俺は俄然やる気が出てきたぞ。

だって魔法は雲をつかむような不思議なものだと思っていたのに、思ったよりも分かりやすい。

しかも、本をたった7冊覚えるだけで良いなんて楽ちんすぎる。


大学受験経験者なら、これで人類のトップ集団に入れるなんて笑いが止まらないぞ。

7冊覚えるだけで、強くて金持ちでモテモテになれる保証が有るんだ、凄いよ魔道師。





それか一ヶ月

俺とビレーヌ様は寝食を忘れて没頭した。







その日もナガミーチさんの魔法授業を受けていた。


ただナガミーチさんは左手の<携帯念話>の魔方陣から、スゴイ泣き声が響かせていたが。

『ウワーーーン。いつ帰ってくるんですか。ナガミーチはいつ帰ってくるんですかーーー。ウワアアアン。』


でもナガミーチさんは泣き声を無視して授業をする。

「つまり、このif文による分岐は条件が整わなかった場合は、自動的に無効になりますので、終端処理は気にしないでいいです。それと…。」


ナガミーチさんが話している途中だけど、俺は手を上げて発言する。

「あのー、その<携帯念話>のお相手は泣き叫んでいますけど、返事をしなくてもいいんですか?」


「あ、気が散りますか?でも騒がしい状況でも集中する訓練には丁度いいので放置しているんですよ。魔法はこういう集中できない環境の時ほど失敗が許されない場合が多いですからね。」


さすがにビレーヌ様も指摘をする。

「お気遣いは嬉しいのですが、泣き叫んでいるお方はデルリカ様ですよね。お返事をして差し上げてはいかがでしょうか?」


ナガミーチさんはケロっとしたまま微笑む。

「デルリカさんは、話がループするので放って置いて良いですよ。デルリカさんが疲れた頃に返事しますから。」


ひどい。

そしてあの美女をココまで放置するとか、この人はスゴイ人だ。


それでも僕らが食い下がろうとすると、ナガミーチさんはパタンと教科書を閉じる。

「まあ、気分転換に実習でもしましょうか。外に出て魔法実習です。」


そういって俺たちを連れて外に出た。


外には藁でできた人型の的が置いてある。

「では攻撃力のある風魔法で撃ってみてください。ただし一分で12回以上攻撃してくださいね。では・・・はじめ!」


最初の術式の構築に時間がかかる。

30秒使って、術式構築。

でも、いちど構築すれば、解除しない限り何度でも使える。


手刀を的に向けて振り降ろしながら詠唱。

「セイジーカッター、セイジーカッター、セイジーカッター、セイジーカッター」


詠唱しながら手を振り下ろすたびに、手刀から風のカッターが飛び出す。

連続で打ち出されるエアカッターが藁の的をドンドン切り刻む。


ギリギリ12回打ち出せそうだ。


45秒あたりでビレーヌ様が詠唱をした。

「紅石ハリケーンカッター!」


刃の竜巻が、ビレーヌさんの的に襲い掛かる。

刃を突き出した竜巻が、回転しがら一瞬で的を細かく切り刻んだ。

攻撃回数と言う意味では200回以上ヒットしてるんじゃないだろうか。


そして俺がちょうど12回のチョップを打ち出したときにナガミーチさんが叫ぶ。

「1分!そこまで!」


なんか、またビレーヌ様に負けたな。

お貴族様は流石にスペックが高い。

全然追いつける気がしない。

それともこれは21歳と32歳の差だろうか。


だけどナガミーチさんは満足そうだった。


「ビレーヌさんはもう王宮魔道師以上ですね。セイジーさんもテンプルナイツくらいの力があります。一ヶ月でここまで出来るなら、充分ですよ。」


そう、俺はもう充分な魔道師になった。

すでに中級クラスだ。

モテモテ人生まで後一歩な気がする。


『ウワアアアアン、ナガミーチが返事をしてくれませんわ、お兄ちゃん、帰ってきてほしいにゃん、ウワアアアアン』


なんか、感慨深い気持ちだったけど、デルリカ様の『お兄ちゃん~にゃん』発言の破壊力で気持ちが揺れた。

もう魔法がどうしたとか言える気分じゃない。


「ナガミーチさん、いまデルリカ様が『お兄ちゃん』っていってましたけど?」


なんともいえない表情のナガミーチさんはハハハと空笑いをした。

「まあ、子供だったデルリカさんに魔法や武道の教育をしたのは僕ですからね。時々お兄ちゃんって言って甘えてくるんですよ。困ったものです。」


そういいながら、左手に浮き出る<携帯念話>の魔方陣を顔に近づける。

「デルリカさん、そんなに泣かないの。究極淑女でしょ。そのうち帰りますから落ち着いて。ね。」


『グスン、だってそう言ってから一ヶ月も帰ってこないじゃないですか。もう3日ノンストップで愚痴を言うのはやめますから戻ってきてください。ナガミーチはワタクシを見捨てたのですか?』


三日もノンストップで愚痴を言う?

それは、すごいご褒美だ。


でもビレーヌ様は引いていたので、あえて口に出さなかった。


ナガミーチさんは、そんな俺たちを無視して<携帯念話>に集中する。


「それに毎日学園で会うじゃないですか。」

『でも帰ってこないじゃないですか。』

「我がまま言わないでください。僕も忙しいんですから。」

『ナガミーチはワタクシにだけ優しくありません。なんで帰ってこないんですか?ぐすん。』

「魔法の研究です。僕なりにテーマを持って研究しているので、イロイロ忙しいんです。」

『魔法とワタクシとどっちが大事なんですか?』

「僕は僕が大事。」

『そう来ましたか。じゃあ良いです。覚えていらっしゃい。後悔させてあげますわ。』


ブチッ


<携帯念話>が切れた。

三人で苦笑いしながら見つめあう。

ビレーヌ様がそっとナガミーチさんに寄り添った。

「わたくしとしましては、当家にナガミーチ様が留まってくださるのは嬉しいのですが、、、大丈夫ですの?」


「大丈夫ですよ、うまくいけばデルリカさんも諦めて、お嫁に行くかもしれませんし。」

「そうでしょうか。わたくしはデルリカ様がそう簡単に意見を曲げるとは思えませんわ。」


すると、ナガミーチさんの<携帯念話>がまた呼び出し音を鳴らす。

それに出ると、若い女性の声がした。


『ナガミーチP!聞きましたよ、デルリカ様が泣きながら電話してきて驚きました。何やってるんですか!』


その声を聞いて、ナガミーチさんとビレーヌ様が同時に反応した。

「「サトミーさん(様)!」」


あきらかにナガミーチさんは慌てていた。

「え?なんでサトミーさんがデルリカさんにアレしてあれれ?」

『あのデルリカ様が凄い号泣してて驚きましたよ。ちゃんと理由があるんですか?ちょっと私に教えてください。もしもいい加減な話でしたら怒りますからね!』


「………」


『ナガミーチP?なんで黙っているんですか?』


そのとき、ナガミーチさんは凄くつらそうな顔をしていた。


「実は、、、いや、やっぱり今は言えません。解決したら話しますから、いまは聞かないでください。あと、僕にとっては大事ですけど、サトミーさんが聞いたら下らなくて怒り出すレベルの話です。」


『…それは、あとからデルリカ様に説明しても納得してもらえる話ですか?』


「いや、ぜったい納得してもらえないです。これを理解してくれる人は絶対誰も居ないです。だから僕1人で解決しないといけないんです。」


『そうですか。で、いつごろお屋敷に帰るんですか?』

「うーん、一年以内にはどうにか。」


『そうですか、わかりました。そうそう、どうせ誰も理解してくれない話なら、気が向いたら私に話してくださいね。私は完全な部外者ですから、何もできないですけど、だからこそ無害でしょうから。スマ子も心配してましたよ。』

「ありがとうございます。すこし楽になりました。」


『そうですか。また電話しますね。それまでに少しは私に話す内容を整理していおいてくださいね。』


「はい、ご心配おかけしました。またそのうち。」

『はーい。またー。』


ブチ


電話を切ったナガミーチさんの顔には焦りが見えた。

ビレーヌ様はスっとナガミーチさんに寄り添う。


「サトミー様、お元気そうでしたわね。」

「そういえばビレーヌさんも<携帯念話>を手に入れたので、日本のサトミーさんと話しできますよ。あとで電話番号教えますね。」

「まあ本当ですの!なんて素敵なんでしょう!」


俺も教えてほしいな。

でも深刻そうなナガミーチさんに声を掛けられなかった。

ぼそりとつぶやく声が聞こえる。

「デルリカさん、なりふり構わなくなってきたな。そろそろヤバイかも。」


おもわず聞き返してしまった。

「ヤバイってどんな風に。」

「それは・・・そろそろバーサーカーの本性が顔を出すかもってことです。」


するとビレーヌ様が空を指差す。

「ナガミーチ様、あの白くて細い雲は何でしょう?コッチに延びてきているようですわ。」


その雲は俺でも一目で分かった。

いや日本人だから分かる雲。


飛行機雲だ。


それをみてナガミーチさんが震える声を出す。

「あうあう、ヤバイヤバイ、どうしよう。高速飛行魔法だ。」


飛行機雲は真っ直ぐコッチに伸びてきて、急降下を始める。

素人にも分かる、あの軌道はこの庭に向っている。


おもわず身を隠そうと俺も慌てた。

でも身を隠す前に、その飛行物体は減速せずにビグニー家の庭に落ちる。


どごおおおおおん。


すさまじい衝突音とともに土煙が舞い上がる。

視界が一瞬でなくなった。


振動で俺は倒れた。

徐々に土煙が消えて視界が戻る。

すると、飛行物体が落ちた場所に人が立っていた。


軽いウェーブのかかったブロンドを輝かせた美女。

小脇にマリーちゃんと呼ばれた少女を抱えている。

デルリカ様だった。


もう片手には斧が握られている。

微笑みながら、ずいっと一歩こちらに近づいてきた。

本能的に恐怖で俺は這いずるように距離を置く。


そしてこんな衝撃的な登場をしたくせに、涼しい微笑を浮かべたデルリカ様は、静かに可愛らしく言った。


「来ちゃった。」


俺ですら背筋が寒くなった。


お読みくださりありがとうございます。

ふふふ、来ちゃった。

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