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松尾健太 その4

松尾の最終回

―松尾健太 その4―


街の酒場で散々騒いだ後、拙者たちはベルセック伯爵邸に戻ってきた。

部屋の中には30人以上の美女達がひしめいている。


さて、再び楽しい事をする前にトイレ行こうかな。

トイレから戻ったら拙者の大運動会の始まりだ。


トイレでビッグベンも済ませて部屋に戻ろうと暗い廊下に出る。

この世界は電気がないため、夜の廊下とかは滅茶苦茶くらい。

はやく部屋に戻ろう。

早歩きで廊下を進んでいると、向こうから誰かが近寄ってくる。

一瞬身構えたが、近くまで来ると月明かりで、ここの伯爵夫人のマリアだとわかった。

暗がりで見ても美人だ。

まだ30才くらいだろうから、子持ちと言っても拙者よりも年下。これからもハッスルさせてもらわなければ。


「なんだマリア奥様か。ちょっとビビったじゃないですか。迎えに来てくれたんですか?部屋に戻りましょう。」


そうそう。これからマリア奥様やロリ娘のデルリカも一緒に楽しむのでござるから、ぐふふ。


声をかけたけどマリアさんは足を止めて微笑んでいるだけ。

なんだ?

近づくと、マリアさんは悲しそうな顔をしていた。

「マリア奥様、どうしたんでござるか?」


するとマリアさんは微笑みながら涙を流して駆け寄ってくる。

ヒヤリ


マリアさんが拙者にぶつかった瞬間、お腹のあたりに冷たい感触を感じた。

なんだろう?

拙者は冷たいと感じた箇所に手を当てると、背筋がぞっとした。

暗い廊下なので目視で確認できないので触ってみたが、腹に刃物が刺さっているような感触がする。

そう思った瞬間、お腹に激痛が走った。


慌ててマリアさんを引き離そうと肩を両手で持つと、マリアさんが病んだように微笑んでいた。

「松尾様、ワタクシと一緒に死んでください。酒場で老婆を冷たくあしらう姿を見て確信いたしました。年がいきすぎたワタクシはすぐに捨てられてしまうと。捨てられるくらいなら松尾様を殺して私も死にます!」


怖いよ!

拙者はマリアさんを突き飛ばす。その時、マリアさんの手にあったナイフは一緒に抜けてしまったようで、離れたマリアさんの手にはまだナイフが握られている。


逃げなくちゃ。

何が起きたかわからないけど逃げなくちゃ。


拙者は逃げようと振り返ると、そこにもう一人立っているのが見えてビクりとする。

綺麗系メイドの姿をした男の娘ベルセック伯爵だった。

手には剣を持っている。


「松尾殿、私が執事達に監禁されていたのに助けもせずに、酒場で遊んでいたそうだな。私に神への冒涜ホモを行いながら、捨てるおつもりか?女を捨てるように気軽に捨てられると思わないでいただこうか。」


凄く鋭い一撃が拙者のお腹に突き刺さる。

うわあああ、痛い!


ベルセック伯爵を蹴り飛ばす。

さらに拙者の通行を邪魔するように立ちはだかるマリアも体当たりで吹き飛ばす。

早く我がハーレム部屋に走り逃げこまねば。

走って腹が揺れる度に血が流れ出す気がする。


ぐぬぬ、分厚い脂肪が無ければ即死だったぜ。

とはいえ痛い。


だが足を止められない。


ハーレム部屋に帰ってくると、出て行ったときの甘い雰囲気はもう無かった。

全員が絶望的な目になっている。


あ、ヤバイ予感。


みなの中心にいたデルリカ嬢は、とても悲しそうな顔で拙者を見た。

「松尾様、その強いお力と、変わったお名前はこの国のものではありませんよね。松尾様は異世界人でいらっしゃるのでしょ。異世界最高って叫んでいらしましたでしょ。」


どう答えたらいいか分からず黙ってしまった。

すると、デルリカ嬢は手に大きな斧を持ちながら更に近づいてくる。

「異世界の方々は、お役目が終わると元の世界に戻られてしまうと酒場の娘に聞きました。でもワタクシは松尾様に帰って欲しくありません・・・。一緒に死んでください。」


なぜ死ぬって言う結論にたどり着くの!

振り下ろされたデルリカ嬢の斧は拙者の左肩に食い込んだ。


「ぐわあああ!」

だが、非力なデルリカ嬢の一撃だったため致命傷とまでは行ってない。

またしても、分厚い脂肪に助けられた。


逃げなくちゃ!

拙者があわてて出口から逃げると、後方から「逃がすなあー」という絶叫とともに、大量の人が走り出す音が聞こえた。

この部屋はお屋敷の三階。

拙者は急いで床にパンチで穴を開ける。そこから二階に飛び降り、さらにまた床に穴を開けた。

だが飛び降りなかった。

彼女達が急いで一階まで下りて、外に探しに行くのを待ってから逃げる作戦だ。

拙者は、二階の空き部屋に隠れて、まずは傷の手当をする。


お腹の二箇所の刺し傷と左肩口の斧傷は、走ってしまったために見事に傷口を広げ、出血している。

どうやら、お腹の傷は内臓には届いていない。


あぶなかった、デブでなければ即死だったな、マジで。

部屋にあったシーツとかを使って止血してみた。

素人止血だけど、やらないよりマシだろう。

それから回りの様子を知るために耳を澄ます。


一階や庭のほうで、女性達の声が騒がしく響く。

恋する女性が切なく叫ぶような声で「松尾様ー」と口々に叫んでいる。

けど、呼んで出てくると思ってるの?

出て行ったら殺す気でしょ?


だけど分からない。

スキル<鉄身>があるのに、なんでこんな簡単に刃物が刺さったんだろう?


拙者は窓に背を向けて壁に背を預け考えていた。


だから暗い部屋の中に、窓の外から月明かりが差し込んでいるのが見えている。

途方にくれて月明かりが差し込む部屋の中を眺めていると・・・

部屋の中に伸びる月明かりの中に人の影が映った。

その人影は羽根が生えた姿。


ここは二階。

ごくりと唾を飲み込みつつ、少し震えながら窓の方を振り返ってみた。

そして見た。

窓の外に、美しく宙に浮く、ツインテールの天使の姿を。

その天使は大海姫だ。


大海姫は楽しそうに外から窓を開けると、部屋に入って来た。

拙者は恐怖で部屋の端までズリズリ逃げる。


恐怖に怯える拙者をあざ笑うように、部屋に入って来た大海姫は堂々とした艶かしい立ち姿を見せた。

「怯えなくていいよデブ。私は長道君の変わりにお前の愚かさを教えに来てあげただけだからね。折角街で会ったときに長道君がヒントをくれたのに活用できないんだもの。長道君もがっかりしていたよ。」


この大天使は何を言ってるんだ?

困惑する拙者を無視してツインテール大天使は続ける。

「もう気づいたと思うけど、<魅了>をかけた相手に<鉄身>は発動しない。

<魅了>とは相手を自分のオーラで包んで一体感を与えるスキルだ。

そして<鉄身>はオーラを極限まで高めて鎧にする。

つまり<魅了>でお前のオーラに包まれた相手はお前のオーラの内側に居るのと同じになる。

だから<魅了>を掛けた相手の攻撃に<鉄身>は発動しない。」


何!そんなの聞いてないよ!

「なんでそういう大事な事を教えてくれないんだ!」

「マリユカ様は、能力をあげるとは言ったが、説明してくれるとは言わなかったでしょ。だから教えなかったんだよ。

でも長道君は何度もマリユカ様の目を盗むようにお前に『スキルの弱点を把握するまで慎重に』って言ってくれていたのに、その忠告を無視したのはお前でしょ。

街で私に<魅了>を掛けたときだって凄いヒントあげてるんだよ。

私の攻撃がダメージとして素通りだったでしょ、アレでわからないとか、お前はバカだよね。

上手くやれば楽しい人生を送れたのに、一日で終わりとか驚きだよ。」


なに!

拙者は、たった一日でハーレム人生が終わりなのか?

折角・・・異世界転生が出来たのに、たったこれだけで終わり?


「つまり・・・拙者はここで死ぬという事か?」


すると大海姫の口元が意地悪く釣りあがった。

「お前しだいじゃないの。まあ、助からないとは思うけど。あはははは。」


そう言うと大海姫は羽を広げて、笑いながら窓から飛び去っていった。

その後姿は、天使と言うより悪魔に見えた。


くそ、面白がられて死んでたまるか。

拙者は人の気配がないことを確認して、そっと一階に降りる。

逃げてやる、拙者を追う女共を皆殺しにしてでも逃げてやる。


傷を押さえて一階まで来ると、イキナリ女性と鉢合わせした。

服屋の婆さんだった。

攻撃しようと思ったとき、婆さんは手招きした。

「私は昔、このお屋敷で働いていたから隠れ部屋を知っている。さあ、頭がおかしくなった女達に見つかる前にコッチへ来なさい。」


すると婆さんは廊下の一部を持ち上げる。

そこには隠し階段があった。

ついていくべきか迷った。

だが、万が一でも婆さん一人なら<剛力>でどうとでもできるだろうと考え、ついていく事にした。

大量の女性に囲まれるより、安全だろう。


拙者は婆さんの後を追って階段をおりる。

すると狭い部屋の中に、暖房用の暖炉に炭が赤々と燃えていた。

血が減って寒かったからありがたい。

「婆さん、冷たくしたのに助けてくれてありがとう。」

拙者は心の底から謝罪した。


婆さんは少女のような微笑を返してくる。

「いいんだよ、ここで一緒に死んでくれるならそれで充分だ。」


その言葉に拙者はすぐに反応できた。

後ろを振り返り逃げようとした。

この婆さんも、他の女たちの同類か!

だけど走ろうとしたとき、膝の力が抜けた。

手を突こうとしたけど、その力もはいらないで拙者は床に転がった。

「何をした・・・。」


婆さんは満足そうに倒れた拙者の顔を撫でる。

「なに、換気の無い部屋で炭を燃やせば人は死ぬ。穏やかにね。」


くそ、一酸化炭素中毒か。

いざとなったら<剛力>でふっ飛ばせばいいと考えたのが甘かった。

空気の問題じゃ、<鉄身>も役に立たない!


眠くなってくる。

婆さんは幸せそうな顔で拙者の横に寝転がる。

くそ、ハーレムを望んで最期に見るのが婆さんの寝顔かよ。


そして猛烈に後悔をした。

上手い話には裏がある。

異世界チートも拙者程度ではこんなオチになってしまうのか。

思えば長道さんだけが味方だったんだな。

もっと素直に忠告を聞いておくんだった。


後悔の涙が流れた。

最後に、長道さんの声が聞きたかったな。

「松尾さん大丈夫ですか!」


ああ、幻聴かな。

だが拙者はすぐに引っ張られる感触を感じた。

もしかして、幻聴ではない?

重い拙者の体を必死に持ちあげようとしているのは間違いなく長道さんだった。

涙が溢れてきた。


「な、長道さん。助けに・・・きてくれたんですか・・・。」


どうにか一階に拙者を持ち出してくれた長道さんは、すぐにもう一度地下に走って行って婆さんも助け出した。


そこで拙者は、ようやく少し動けるようになった。

「長道さん・・・ありがとう・・・。」

「お礼はいりません。それよりも怪我が深いし事態は思ったよりも深刻です。このままでは生きてココから出られないでしょう。」

「そうですか・・・。」


諦める時みたいだ。

すると長道さんは拙者の腕を肩に担ぐと無理やり拙者を立たせた。

「まだ最後の手段があります。リタイアです。このくらい大きなお屋敷ならチャペルがあるはず。そこでマリユカさまに祈れば、日本に帰れます。諦めないで!」


くう、最後まで長道さんはカッコいい。

拙者のヒーローだ。もう抱いて。


馬鹿な事を考えていると、長道さんが拙者をチャペルまで運んでくれた。

そこで、女たちに見つかってしまった。

「松尾様がいました!チャペルに松尾様発見です!」


長道さんは急いで入り口のドアを閉めて押さえてくれた。

「松尾さん早く!マリユカ様に祈りを!」


うう、体に力がはいらない。

でも頑張ってズリズリチャペルの神前にむかった。


ドアの一部が斧で壊された。

「松尾様!もう殺さないから逃げないでください!」

スキマから、斧を持ったデルリカ嬢が絶叫する。


信じられるか。

長道さんが押さえてくれているけど、ドアがどんどん斧や鉈で壊されて、出来た隙間から女性の手が突き出される。


まるでゾンビ映画だな。


神前まで移動したところで一度長道さんを振り返った。

長道さんは、ドアを押さえるのが大変だろうに、振り返った拙者と目が合うと微笑んで頷いてくれた。


こんな事になるなら、もっとこの人のいう事を聞いておけばよかった。

長道さんと、もっと仲良くしたかったな。

だがそろそろ出血で貧血みたいな感じになってきた。


ありがとう長道さん。


拙者はチャペルの神前・・・女神像に手を合わせて祈った。


『折角のチャンスを棒に振ってしまいスイマセン。日本に返してください。』

するとマリユカ様の声が聞こえた。

『はーい、松尾の願い、聞き届けました。アマテラスさーん、松尾をそっちに投げますからよろしくお願いします。』


そのマリユカ様の声とは違う女性が返事をする。

『おっけーね』


そして意識を失った。


目を覚ますと、クソみたいな日本の拙者の部屋だった。

拙者の旅は終わったんだと理解した。

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