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吉田保 その9

―吉田保 その9―


ナガミーチ殿は王陛下の要請で、旧マシリト公爵家領の視察に出ているらしい。

だからこのビグニー領の反乱については耳に届いていないだろう。


もしかすると反乱をそそのかした貴族達は、このタイミングを狙っていたのかもしれない。

だとしたらマズイな。

連中は二日で目的を達成できる予定という事になる。


役場に関係者を緊急招集する。

みなが集まったところで、まず最初にビレーヌに謝った。

「すまなかったビレーヌ。この領に養女に来たばかりに面倒をかけてしまった。」


しかしビレーヌは落ち着いて首を横に振る。

「いいえ、謝るべきはわたくしの方ですわ。クリオス公爵家がビグニー公爵家に近づかねば反乱のチャンスなどなかったでしょうに。クリオス公爵家もナガミーチ様と共に旧マシリト公爵領の視察に出ているはず。わたくしの実家からの援護も期待できそうになく、申し訳ございません。」


代官のドルマンと、代官補助のリンクも暗い顔をしている。

反乱なんて初めてなため、恐ろしいのだろう。

場が静まり返った。


すると、会議室の外から硬質なヒールが床を歩く音が近づいてくる。


コーン

 コーン

  コーン

   コーン


みな、その異質な音の方向を無意識に見た。

その音が会議室の前まで来ると、ドアが勢いよく開いた。


「なんかお通夜みたいな空気じゃない。覇気が足りないよ。ナガミーチ君の予想だと混沌が待っているって言うから楽しみにしていたのに、ナガミーチ君でもフラグの読み間違いをしちゃったのかな?」


現れたのはタイカイこと大海姫だった。


それを見てビレーヌやリンクたちが歓喜した。

私も、不覚ながらこの魔女を見て喜んでしまった。


ビレーヌが駆け寄りタイカイの手をとる。

「手助けにきてくださったのですね。なんと心強いのでしょう。これでわたくし達の勝利ですわ。」

ビレーヌはタイカイの正体が大海姫だと知っている。

喜ぶのは当然だろう。


「お、ビレーヌちゃんは逃げずに戦う気だったんだね。そういうガッツは好きだよ。そんなビレーヌちゃんに朗報だ。ナガミーチ君はとっくに内乱の事は予想済だったみたいで、私に指示書をくれているんだ。たからコレで対応しよう。」


そう言いながら封筒をビレーヌに渡した。

ビレーヌはその封筒を大事にそうに胸に抱く。

「ナガミーチ様・・・、わたくしの事を見捨てないで下さったのですね。わたくしは幸せ者ですわ。」


なぜかリンクが後ろで『ケッ』とか言ってるが無視しよう。

「ビレーヌや、その指示書には何が書いてあるのだ?」


恍惚とした表情のビレーヌは、私にうながされてやっと封筒を開けて指示書を出してきた。

そして驚く。


「まあ、とても簡潔な内容ですわ。お読みいたしましょうか?」

「うむ、読んでみてくれ。」


ビレーヌはコホンと咳払いを一つして、皆に向く。

「ではお読みいたします


 『貴族のパワーバランスが崩れれば、きっと妨害が起きます。

  彼らは機を見て敏ですから、この数日は危険です。

  事が起きたらすみやかに街道を封鎖し、領主とビレーヌさんは、

  自ら人々の目の前に立ち領民を心配する姿をアピールしてください。

  そしてすぐに堂々と鎮圧に向ってください。

  細かいことは代官のドルマンさんとタイカイさんにおまかせを。

  それだけで、この危機は去るでしょう。』


だそうです。」


確かに簡潔だ。

簡潔すぎる。


だがこの指示書が無ければ、私達は役場にこもっていただろう。

ナガミーチ殿は私達に何もしないで、領民から見える場所に居ろと言っている。


なるほど、日本で政治を見てきたから私にはわかる。

災害時には強いリーダーの姿が必要だ。

混乱を小さくするために、姿を見せて安心させるというわけか。


うちの領は役人が優秀だ。

実務は任せればいいのだな。


私は頷き、代官を見た。

「ドルマン、リンク。できるな。」


「「はっ、おまかせください」」


「ビレーヌ、今より馬でゆっくりと反乱地域との境界に向う。大丈夫か?」

「はい、ナガミーチ様のご指示ですもの。わたくしも従います。」


すぐに警備兵を集め、内乱地域に向うことにした。

まずは役場の外に出る。

すると耳の早い商人からでも話が伝わったのか、すでに心配そうな領民がたくさん役場の前に来ていた。


私は、馬に乗り皆を見下ろす。

「皆のものよ、噂を聞いているかもしれないが内乱が起きた。しかし心配するな。内乱を起した者達は生活に心配があるから立ち上がったのだ。すぐに環境を改善しておちつけてくる。みなは安心してくれ。何が起きても私がみなを守ることを約束しよう。」


民衆の表情が明らかに柔らかくなるのが見えた。

ナガミーチ殿のいう通りだな。

支配者を信頼するためには、理由が必要だ。

こうやって姿を現し、民衆を思って行動する姿を見たいと思うのだろう。

もしも姿を現さなければ、不安を感じた民衆は、むだに混乱をするかもしれない。


わたしは、馬で街中を進みながら、「すぐに解決してくる。みなは安心してくれ。必ず皆を守ろう。」と選挙の時のように繰り返叫びながら闊歩した。


街の中央広場で警備兵を集合させるていると、商人ギルドのギルド長が近づいてきた。

「公爵様、このたびは堂々としつつも、素早く動き、民衆を気遣うお姿に安堵いたしました。このような事態になりますと、街の治安が悪くなるものですが公爵様のお姿を見て、驚くほど街の中が落ちついております。ギルドを代表いたしまいて、感謝申し上げます。」


なるほど、パフォーマンスも使いようと言うことだな。

「心配させたな。一週間とかけずに解決してくる。混乱を招かぬよう、商業ギルドも値の安定に気を使って欲しい。」

「はい、ギルド長の地位にかけてお約束いたします。」

「すまない、感謝する。」


そのやりとりを見ていた大海姫がニヤニヤする。

「ふーん、ナガミーチ君の教育はたいしたものだね。最初はすぐに殺してやろうかと思った程の奴だったのに、3年で名君にしてしまったんだからさ。」


私はその言葉が本心から嬉しかった。

「意外な人物からのホメ言葉は、存外嬉しいものだな。期待を裏切らないように頑張らせてもらう。タイカイ殿には今まで喧嘩腰で接してしまい悪かったな。これが終わったら一杯奢ろう。」


ビレーヌも準備が出来たようなので、私達は反乱の地に向う事にした。

急がないスピードで街をでる。

代官からの指示で、情報部の者が数人案内役にやってきた。


倒すのは主導者のみ。

反乱に加担した者達の処罰は、あとでナガミーチ殿に相談すればいいだろう。

今は、速やかに反乱をとめよう。


「そうだ、この戦いが終わったらビレーヌに婿を探さなければな。私も結婚して身を固めるか。はっはっはっは。」


後ろで大海姫が『お、これが死亡フラグと言う奴か』と言っていた気がしたが、気のせいだろう。

私はまだ倒れるわけには行かないからな。やりたいことが沢山有るのだから。


ナガミーチ「タモツさん、大丈夫かな。」

マリー「大海姫をつけた時点で死亡確実ですよー。」

ナガミーチ「え、まじ?。」

マリー「まじまじ。それより疲れましたから、おんぶー。おんぶしてください。」

ナガミーチ「どっこいしょ・・・。タモツさん、僕が行くまで頑張ってくれればいいけど。」

マリー「無理ですね。だって大海姫がいっしょですもの。」

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