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吉田保 その8

―吉田保 その8―


また一ヶ月たち、ナガミーチ殿がやってきた。

今回は特別な用件があったため、政務の話は早めに切り上げて屋敷に招く。

あいかわらず、マリーと大海姫とデルリカが一緒にいたが、もうそこは諦めた。


そして、この席にはもう1人いる。

クリオス公爵子女のビレーヌ嬢。


実はこの3年で出来たシガラミで断りきれず、このビレーヌ嬢と婚約をしたのだ。

公爵家として将来有望と思われたのだろうが、困ってしまった。それについて相談したかったのだ。


ビレーヌ嬢は今年で19才。

私が体を乗っ取ったビグニー公爵は45歳らしい。

貴族世界としては、問題がある年齢差ではない。


だが問題点が一点ある。

私が性的不能者であるということだ。


そのことをビレーヌ嬢も含めて率直に話し合うために、ナガミーチ殿にも同席を願ったというわけだ。


そのことを説明したら、やはり大海姫が腹の立つ笑い声を上げる。

「あははは、それは貴族としておしまいだ。まあ、あんたをその肉体に入れたのは私だからさ、性的不能なのはしょうがないよね。」


ムカつくが冷静に聞き返さねば。

「なぜだね大海姫・・・殿。性的不能になるのは当然だと言いたげだが?」

「そうだよ。だって私は男特有の体の構造なんて知らないもの。大豊姫かスケベ神のエリーヌならできるだろうけど、あの二人は今は地上に降りて来れないからね。諦めな。」


性的不能を公表して婚約を破棄すれば、ビグニー公爵としての私は致命的なダメージを追う。

くだらないことだが、実際それで他の貴族から見下されるのだからしょうがない。


性的不能なのを理由に子供を作らなければ、せっかっく盛り上げたビグニー公爵領も終わってしまう。

だから、領を安定させるためにも妻を娶らないという選択肢もない。


すると大海姫はニヤニヤしながらビレーヌを見る。

「じゃあ、ビレーヌちゃんは好きな男と逢引して子供を作ればいいじゃないのさ。それをこのオッサンが認知すればいいんでしょ。公認愛人つくれば解決じゃん。」


それを聞き、ビレーヌ嬢は頬を赤らめながら、そっと私を見る。

たしかに、それが一番現実的に思えた。

「そうであるな、私もそれが一番に思える。ビレーヌ嬢よ、もしも私との婚約を破棄せず結婚をしたならば、好きな相手と子を作ってこちらで引き取らせてくれぬか?ヒドイ事を言っているのはわかっておるが、領の安定の為に・・・。」


するとマリーがスクリと立ち上がりナガミーチ殿の膝の上に座る。

「ナガミーチ、つまりビレーヌが愛人にしたいのはナガミーチだから、ナガミーチの子がビグニー公爵になるって事ですねー。ナガミーチはビレーヌの愛人でもいいのですか?」


しまった。

言われて見れば、ビレーヌ嬢はストーカーするほどナガミーチ殿にいれこんでいる。

このことでナガミーチ殿とマリーの関係にヒビが入ってはマズイ。


私とした事が、浅はかであった。


ビレーヌ嬢は顔を赤らめつつ小声で「わたくしは・・・それでしたら喜んで・・・」などと言っている。

この状況、全て丸く納めるのは不可能だろう。


私が婚約を失い領地に不安を残すか、

ビレーヌ嬢に不義の綱渡りをさせるか、

マリーに泣いてもらうか。


申し訳ない気持ちでナガミーチ殿を見る。

すると、意外にナガミーチ殿はいつもの飄々とした表情をしていた。


まさか・・・、賢者として三方を丸く納めるアイディアでも有るのだろうか?

大岡裁きならぬナガミーチ裁きが飛び出すのか?


するとデルリカは事もなげに微笑む。

「タモツ卿、悩んでいるようですが心配はいりません。ワタクシたちは困ったときにはいつもこう言うのですよ・・・。」


そして笑顔のままナガミーチ殿に向いた。

「では、全て丸く収まるように。ナガミーチ、どうにかしてください。」


ナガミーチ殿は苦笑いを出す。

「またデルリカさんはスグ僕に丸投げするんですから。魔法でアイディアは出ないんですよ。僕は魔道師なんですから何でも解決できると思わないで欲しいですね。でもコレは解決できると思いますけど。」


「「「「できるのかい!」」」」


マリーとデルリカと大海姫と私が、一斉に突っ込みを入れてしまった。

「ナガミーチ殿、是非お智恵をお貸しください。」


私の懇願に、いつもの気の抜けた微笑を返してきた。

「いや、ビレーヌさんの実家はビグニー公爵家に影響力を持ちたいから婚約したのですよね。大事なのは血による影響力です。だったら結婚ではなく養女にすれば良いのでは?そうすればタモツさんも次の世代の心配もなくなるし、他人の子供を自分の子だと嘘を言う必要もなくなって全て解決ではと。」


私とビレーヌ嬢はしばらくフリーズしてしまった。


盲点だった。


貴族の常識に囚われすぎて、婚姻以外の方法などないと思いこんでいた。

たしかに養女にすれば全て解決だ。


私は立ち上がり、ゆっくりと深く頭を下げる。

「さすがは賢者・ナガミーチ殿。全ての問題が解決いたします。このタモツ、心底感服いたしました。」


「いやいや、頭を上げてください。お役に立てたのでしたら何よりです。ですから頭を上げてください。」


こうして三日後、素早く手続きが完了し、私の娘にビレーヌ・ビグシーが誕生した。


一週間後、ビレーヌは我が屋敷にやってきて、さっそく公爵家令嬢としての活動を始める。

はやく婿探しをしなくてはいけないからな。


ビレーヌと結婚すれば、自動的に公爵位。

相手はより取り見取りになるだろう。


すぐに、屋敷の前に求婚の貴族達が詰め掛けてきた。

若い男以外にも、私の後添い目当ての婦人も多く来て、大変だ。

ナガミーチ殿曰く『ビグシー家・モテモテフィーバーの乱』が始まったのだ。


そんな騒がしい生活の中で、私は大事な事を見落としていた。

政治の闇ともいえる出来事を。


3週間ほど求婚者に追われる生活が続き、代官補助のリンクから呪いの言葉を呟かれるのに慣れてきたころ。


役場に警備兵が駆け込んできた。

「大変です、反乱が起きました!」


役場の中は騒然となった。

私も慌てて、詳細な情報を集めさせる。

情報部を総動員させて、反乱地域のリーダーを調べもした。


どうやら、領地の三分の一が反乱しているらしい。

その村々は、殆どが領の中央から追放した役人や商人が送り込まれた地域のようだ。


私はこの3年で不正や賄賂を徹底的に排除した。

その中で、罪の軽いものは左遷で許していたが、それが裏目に出てしまったようだ。


やつらは待っていたのだ。

私が浮き足立つタイミングを。

養子をとり、求婚にてんやわんやになっていたため、反乱の兆しを見逃した。


うかつだった。


数日で情報部は、反乱した連中の首謀者の顔写真を持ち帰ってきた。

優秀な連中である。


その写真と名前を見ているとき、ビレーヌがそっとその写真を数枚手に取り驚愕した表情になる。

「どうしたのだビレーヌ?知った顔か?」


すると青い顔をしたビレーヌは、力が抜けるように座り込む。

「この写真には沢山の貴族の手の者が写っております。どうやら他の貴族が馬鹿な者を先導して、当領の力を削ぎに来たようです。二つの公爵家の急接近で貴族界のパワーバランスが大きく崩れたのですわ。」


「なるほど、焦った貴族達の攻撃か。うっかりしていた。」

後悔したが後の祭りだ。


だがビレーヌは諦めを知らない強い表情になる。

「大丈夫ですわ。明後日にはナガミーチ様がいらっしゃる予定ですもの。それまで持ちこたえさえすれば活路は見出されますわ。」


私も強い気持ちで頷く。

あと三日。


それだけ持ちこたえればどうにかなる。

そう信じて。

およみくださりありがとうございました。


マリー「ビレーヌと子作りしちゃうんでしたら、純潔の呪いを解いてあげましょうか?」

ナガミーチ「マジっすか!ぜひ。」

マリー「それで生まれた子供は、私への生贄にしてくださいなあ。(にぱー)」

ナガミーチ「神様怖い・・・無邪気な笑顔なのが余計怖い・・・。」

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