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吉田保 その7

今回まではほのぼの回。

次回からはタモツ大暴れの予定。

―吉田保 その7―


私が領主の地位についてから3年がたった。


あの日、マリーという小娘からもらった写真が大豊姫だとわかると、役場の者達が騒然となり、役場内に作られた神棚に祀られてしまった。

そのお陰なのか、領内は毎年豊作だ。


あの後知ったのだが、この世界では大豊姫は人気の大天使らしい。

殆どの教会や神殿では、大豊姫も並んで祀られているくらいに。


大地の豊かさを約束する大天使だから、当然だろう。


ちなみに大天使で一番人気が低いのが大海姫だ。

混沌と裁判と冥府を支配する大天使なため、お葬式では活躍しているが。


そういえば、私の屋敷に居た最初の使用人たちは、大海姫が敵だと知って逃げていったがいまなら理由は分かる。

死の象徴みたいな大天使が敵なら逃げるのは当然だな。


教会の壁画などでは、大海姫は頭に二本の角がある姿で描かれるのが普通だが、あの角の正体がツインテールだという事は誰も知らないらしい。


私は、その意味で機密情報を握っているのかもしれない。


そのせいだろう。

毎月きてくれるナガミーチ殿についてくる女が大海姫だとは誰も気づいていない。

たぶん、気づかれたら大パニックになるだろうから、これからも秘密にするつもりだ。


大海姫は一番人気がない大天使だが、ナガミーチ殿とはかなり仲がいい。

いつ見ても一緒にいる。


今日はナガミーチ殿が役場に来たため、タイカイと名乗っている大海姫は、面倒くさそうにナガミーチ殿の後ろを歩いている。

意外にナガミーチ殿のいう事を素直に聞くようで、ナガミーチ殿の仕事が終わるまでいつも静かにしている。


今月の進捗を見ながらナガミーチ殿は私のほうにやってきた。

「タモツさん、この領の発展はすごいですね。特に経済の発展が凄い。さすがですね。」

「いや、褒められると恥ずかしい。銀行や大商人や大きなギルドを優遇し、街の中に資金が流れやすいようにしたのが意外にうまくいっただけでね。日本の与党の真似をしているだけなのですよ。」


「いやいや、さらに上下水道の完備、ダムの建設、煙草やお酒への税の増加、学校を増やし、軍備の拡大。たった3年でできることではありません。」


賢者に褒められると照れてしまうな。


イロイロ打ち合わせをしていると、つまらなそうに大海姫がツインテールでナガミーチ殿をピシピシ打っちはじめた。

かなり退屈そうだ。


前は大海姫にうちの若いのが言い寄ることもあったのだが、すべて『あんた馬鹿?私に釣りあうと思っているの?』のと手ひどく追い返すので、いまは誰も近寄らないので余計つまらなそうにしている。


まあ、下手に近づくと冥府に送られることになりかねないから、近づかないのは良いことだ。


さらに2時間ほど打ち合わせをしていたら、役場の業務終了時間になった。

ナガミーチ殿は、手のひらにある魔方陣を見て時間を確認する。


「あ、もうこんな時間ですか。では僕はこの辺で失礼します。また来月来ますので。」


その言葉を聞いて、大海姫はやっと楽しそうに笑い出した。

「よしナガミーチ君、今日はどこで食事しようか?町の中央部分も発展しているから面白いお店も増えているよ。見て回ろうよ。」


そういって、元気よくナガミーチ殿の手を引いて夕方の街に消えていった。

リンクは私の隣で、ひどく悲しそうな目で2人を見送る。


「やっぱりタイカイさんはナガミーチ様の彼女なんですかね。デルリカ様やマリーちゃんも傍に居るのに、タイカイさんまで連れ歩いて・・・・。」


彼はタイカイが大海姫であることも、

デルリカが恐ろしい殺人鬼であることも、

マリーが無慈悲にジャンピングお膝の刑をする女である事もしらない。


知らないほうが幸せな事も有るのだな。

日本にいたころは何でも情報開示させるのが正義だと思っていたが、隠すことこそ正義な事もあるということを今日知った。


そう思いながら見ていたら、リンクと目が合う。

「公爵様、なんですかその生暖かいようで、ちょっと哀れんだような優しい目は。やめてください、まだ諦めてないんですから。」


半泣きになっていた。

私はぽんと肩を叩く。

「どうだ、今夜は一杯おごるぞ。」

「ちくしょー。」


リンクの悲しい叫びは、役場中にとどろいた。



ーーー


リンクのほかにも大海姫を密かに想うタイカイファン倶楽部をつれて街を歩いてたら、リンクがいきなり私の腕を掴む。

こいつ最近、わたしが公爵だという事を忘れていないか?

「公爵様、あの店の窓を見てください!ナガミーチ様とタイカイさんです。」


私の連れている連中が一斉にその方向を見る。

たしかに店の明かりの中、大海姫が楽しそうにマリーとナガミーチと一緒に食事をしている姿が見える。

お、ナガミーチ殿が大海姫の口に串焼きを突っ込んでいるぞ。


「ぐぐぐ、う、う、う、羨ましい・・・・。」

リンクは血の涙を流しながらうめいた。

ほかの連中も泣いている。


すると店の中からナガミーチ殿の叫ぶ声が聞こえてきた。

「もう、マリーちゃんとタイカイさんに食べさせていたら、僕が食べられないですよ!」

すると私達の位置からは見えないところに座っていたのか、デルリカが笑いながら身を乗り出し、

「良いではないですか。さあ、ナガミーチはコレを食べてくださいませ。」

とか言いながらナガミーチ殿の口に串焼きを突っ込んでいる。


それを見てリンクは頭をかきむしり地面を転げ回った。

「うおおおおお、なんで!なんで!なんであの人は、すげえ可愛い系美少女と、国一番の正統派美女と、俺達のアイドルツインテ美女を同時に連れているんだ!おかしいよ、おかしいですよ神様。不公平すぎますよ!俺たちにもチャンスをお与えください!!!!」


タイカイファン倶楽部の連中は、そんなリンクの傍に駆け寄り、男同士でムサく抱き合って泣き始めた。

「恥ずかしいからやめるのだ。今日は私がおごるからもう、ナガミーチ殿の事は忘れて恥ずかしいことはやめろ。」


はやくナガミーチ殿が見えないところまでコイツらを移動させなくては。

すると後ろから、誰かが声をかけてきた。

女の声だった。

「あなた達も、わたくしと同じ気持ちを持つ同志ですのね。」


振り返ると、従者を連れた貴族の女が立っていた。

「わたくしはクリオス公爵子女のビレーヌと申します。たしか貴方様はビグニー公爵様ですわね。ごきげんよう。」


ビレーヌと名乗る綺麗な赤毛の女性は、優雅に一礼する。

私は先ほどの言葉が不思議だった。

「ビグニーである。ご丁寧な礼、いたみいります。さきほど同じ想いを持つ同志と言われたが、もしや貴女もナガミーチ殿を羨ましいと思われるのですかな?」


するとビレーヌは顔を赤らめる。

「いいえ、わたくしはデルリカ様が羨ましいのでございますわ。優しくも飄々として、それでいて魔族相手でも怯まず戦うナガミーチ様を連れて歩けるデルリカ様が妬ましく・・・。」


後ろでリンクがまた、血を吐くような悲鳴を上げているが気にしなくて良いであろう。


「確かにナガミーチ殿は至宝とも言える賢者。私も当家に招けるのであれば全ての財産を失っても惜しくないと思いますぞ。そのナガミーチ殿をアゴで使えるデルリカ嬢を心底羨ましく思います。」


私のその言葉に、ビレーヌ嬢はぱあっと嬉しそうな表情になった。

「素晴らしいですわ!ナガミーチ様の素晴らしさを分かるお方に出会えるなんて、今日は何て素敵な日なのでしょう。よろしければナガミーチ殿のよさを語り合いませんか。」


そして強引に私達はビレーヌ嬢に連れられて店に入った。

ナガミーチ殿のいる店に。


席も強引にナガミーチ殿の隣のテーブルを陣取る。

「あら、奇遇ですわねナガミーチ様、お隣のテーブルを宜しいでしょうか?」


すると大海姫は嬉しそうにビレーヌ嬢の肩を叩く。

「お、出たねストーカー公爵令嬢。そういう根性は好きだよ。」


ストーカーなのか。

貴族の令嬢なのに面白い娘だな。


マリーもデルリカも笑顔で迎えている。

こんなに受け入れられていたら、ストーカーと呼べない気もするのだが。


当のナガミーチ殿も気にしていないようで「奇遇ですね」と微笑んでいる。

そして私達に気づいてコチラにも微笑んでくれた。

「あ、ビグニー公爵様と役場のみなさんも奇遇ですね。」


すぐにリンクが大海姫に挨拶しようとしたが、いいタイミングで舌打ちを返されて挨拶しそこなっている。

この性悪女のドコがいいのだかわからん。


すぐに注文を済ますと、そこからはカオスだった。

マリーと大海姫の面倒を見るナガミーチ殿に一所懸命に話掛けるビレーヌ嬢。

必死に話しかけるウチの連中を無視し続ける大海姫。

さらに酔っ払って「ナガミーチはすぐにワタクシにお兄ちゃんと呼ばせたがるのですよ。しかも語尾にニャンとかつけさせるのですよ。」と暴露しはじめるデルリカ。


そんなカオスな状態でみなが、いい感じに酔ったところで、マリーに寄生されているナガミーチ殿が私のところに来た。


「そういえばタモツさんも随分変わられましたよね。」

「私がですか?」

「ええ、最初はとっつき難い人だと思っていましたが、今は役場の皆さんにも随分懐かれているご様子。上手くいえませんが、魅力的な方になられたと思います。」


思い出してみる。

確かに最初は酷かった。

自分の事ながら、思い出すだけで顔から火が出そうだ。


「あはは、そのことは勘弁してください。ナガミーチ殿のお陰です。本当に感謝しております。」


コレは本心だ。

わたしは、ナガミーチ殿が居なければ、本当の政治家にはなれなかったと思う。


ビレーヌ嬢も寄って来た。

「わたくしもナガミーチ様のお陰で変われましたのよ。サトミー様と共にアイドルをしたいと言い出したわたくし達をまとめて面倒見てくださったのですから。ナガミーチ様のお陰で本当に素敵な夢が見れましたわ。生涯感謝し続ける覚悟ですのよ。」


そんなビレーヌの頭をマリーが無邪気に撫でている。

私は変われた。その奇跡にナガミーチ殿とこの世界の神に感謝をしたい。


そう思っていると、マリーがニコニコ私に紙を渡してきた。

「信仰深いものには祝福をあげましょう。」


みると、あたらしい大豊姫の写真だった。

ジャンプしてるので胸が凄い揺れ方をしている。


ありがたく頂いて財布にしまっておくことにした。

お読みくださりアリガトウございます。


ビレーヌ「マリーは優しいですわね。」

マリー「ビレーヌもがんばれ。でもナガミーチには一生童貞の呪がかかっているから、適当なところで諦めると良いですよ。」

ビレーヌ「まあ、つまりナガミーチ様は聖人という事ですわね。素敵ですわ。」


ナガミーチ「悲しい呪いは必ず打ち破りますから。聖人になんてなりませんから・・・。」

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